第5章.アルザート侵略編
第50話.戦火の兆し
《はじめに》
38話にて、アルザートの第一王子、第二王子、第三王子の年齢が書かれていましたが、今回の話をを書くに当たって、矛盾が生じてしまう設定であったため、変更を加えさせていただきました。
読者の皆様に、混乱を招いてしまうような真似をしたことを、深くお詫び申し上げます。
2021/5/29(記)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――それから、5年の月日が流れ、リガルも今年で14歳になった。
もうあと1年で、この世界の成人である。
この5年間、何事もない……ということは無かったが、別に特筆すべきことは無く、無難に日々が過ぎていた。
しかし、そんなある日、突如ロドグリス王城に、激震が走った。
何故かと言うと、とある一つの噂が王都にもたらされたからである。
その内容というのが……。
「殿下、知ってましたか? アルザートの国王が、先日亡くなられたらしいですよ」
朝食中、突然そんなことをレイが切り出す。
「あぁ、その話か。流石にこんだけ騒ぎになってりゃ、俺も知ってるよ。けど、確かあの国の王は、58歳だっただろ? もういい歳だし、別におかしなことでもないだろ。どこの国も、そろそろ死ぬかなぁ、と思ってたと思うけど」
「いや、そういう問題じゃないでしょう、一国の王が死んだんですよ! それも、周辺国に影響力がないわけじゃない中規模国家の!」
「それはそうだけど……。けど、王が死んだからって大した影響は無いだろ。確かあの国はもう王太子が決まっている。普通に王位継承がされて終わりだ」
そう、別に王が死んだからと言って、何か問題が起こるわけではない。
死ぬことが予想できていれば、それの準備も進めることが出来る。
今回のアルザート王の死因は、普通に寿命だ。
国の重鎮たちも、彼の命が危ないことは、だいぶ前から分かっていた事だろう。
そう思っていたリガルだったが……。
「それが、違うんですよ。王太子である長男のクレイン様は、5年前に死んでいたそうです」
「へー。それは聞いたことがなかった。アルザートも、5年隠し通すなんて、随分と情報統制を頑張ったんだな。にしても、そうなると確かにこれは大変かもね」
「そうなんですよ」
ようやく、事の重大さを知ったリガル。
アルザートの王太子クレインが、実は5年前に死んでいたとなると、アルザートは王位継承者がいないということになる。
そうなれば、未来は一つ。
内乱である。
亡くなったアルザート王と、その正室から生まれた男児は3人。
長男クレイン、次男シルバ、三男エレイア。
そう、ちょうど、正当な王位継承権を持つ人間が2人残っているのだ。
現在アルザートには、次男シルバを次代のアルザート王として担ぎ上げた派閥と、三男エレイアを次代のアルザート王として担ぎ上げた派閥がいる。
シルバを担いだ派閥の貴族たちの言い分は、シンプルに年齢がシルバの方が上だから、というもの。
対するエレイアを担いだ派閥の貴族たちの言い分は、エレイアの方がシルバよりも頭脳で遥かに秀でている、というもの。
どちらの言い分にも、筋がある。
まぁ、言い分など所詮建前に過ぎず、本心のところは、自分が良い待遇を受けられるだろうと思われる方についただけであるが。
まぁ、理由や経緯などはどうでもいいのだ。
重要なのは、「アルザートが2つに割れた」という事実だけである。
(しかし、それにしても、アルザートの王太子の死について、なんか忘れていることがある気がするんだが……)
――――――――――
――その数日後。
リガルはアドレイアに呼び出された。
アルザート王が死んだことについては、把握していたため、それについての話だろうな、とリガルはある程度の推察をつける。
ついでに言えば、リガル自身に関係のないことで、アドレイアがリガルを呼び出すことは絶対に無いので、自分も何かこの事件に関わらないとならないんだろうな、というところまで想像がつく。
(また5年前の戦争の時みたいに、戦争にでも連れていかれるのかね。まぁ、最近特に何の騒ぎも起きなかったし、多少のイベントはいいけど、あまりに危険なことは御免だなぁ)
あまり緊張感のないことを考えながら、リガルは扉を叩いた。
そして、アドレイアの許可が下りたので、入室する。
「失礼します、父上。本日はどのようなご用件でしょうか」
「急がずともこれから話す。まぁ、座れ」
「はい」
リガルは、手で指示されたソファに腰を落ち着ける。
それを確認すると、アドレイアは持っていた資料を机に置くと、話し始めた。
「まず、アルザート王が死んだことはお前も聞いているな? ついでに王太子が死んでいたことも」
「はい」
「よし。では単刀直入に言おう。エイザーグと合同で、アルザートを攻めることが決まった。そして、その時我が国の軍の総大将を、お前に任命する」
「は……? え、え……?」
言われたことを理解することが出来ずに、挙動不審な様子を見せるリガル。
理解できなかったというよりは、言われたことの異常具合に、頭がショートしてしまったとでも言うべきだろうか。
とにかくリガルは混乱した。
その様子を見ていたアドレイアは、呆れたようにため息をついて……。
「だから、お前がアルザート攻めの総大将だと言ったんだ」
その言葉に、リガルはやはりしばらくの間混乱していたが、やがて数秒の時間が過ぎて、少しずつ頭が正常に動き始める。
「ほ、本気ですか?」
しかし、それでも信じることが出来ないリガルは、やはり疑ってしまう。
まぁ、言われた事が事だけに、仕方がないのかもしれないが。
「当たり前だ。こんなところで冗談を言ってどうする?」
「まぁ、そうですよね」
「それにお前ももう14になるんだ。そろそろ初陣を飾ってもいい年齢だぞ。何より、お前は軍を率いるだけの才能がある」
そう、考えてみれば、リガルはもう14歳である。
例えば、日本で最も有名な武将であろう、第六天魔王こと織田信長の初陣は、14歳だ。
早いことは間違いないが、別に驚くほどの事ではないのだ。
(しかし、にしても俺が総大将ねー。王子なんだから、そういう役目も若いうちにこなさなくてはならないってのは分かるんだけど、それでも実感が全く湧かないな)
異世界に来て、もう7年になる。
そのため、この世界の生活には慣れたが、これまで王子らしいことをしてきた経験は、それほど多くないため、自分が一国の軍を総大将として率いるなど、全く想像できないのだ。
「まぁ、とはいえ、今すぐにというわけではない。お前が出陣するのは、内乱が本格的に始まってから。具体的には、シルバ派、エレイア派、どちらかの派閥が挙兵してからだ。それまではもう少し時間がかかるだろうからな。ゆっくり心の準備をすればいい」
「そ、そういうことなら、安心しました」
「そうか、他に何か聞きたいことはあるか?」
用はもうこれだけのようで、リガルに質問がないかを尋ねるアドレイア。
それを受け、リガルは少し考えた後……。
「あ。そういえば、一つに腑に落ちないことがあるんですが……」
「ん? なんだ?」
「はい、そもそも何故アルザートを侵略しようとするんですか?」
――アルザートが内乱により、崩壊しかけているのだから、そこに付け入らない理由が無い。
そう思うかもしれない。
しかし、よくよく考えてみると、実はアルザートを侵略するメリットというのは、実はロドグリス王国には皆無なのだ。
そもそもまず、アルザートはエイザーグの向こう側にある国である。
例えば、侵略したことにより土地を手に入れたとしても、飛び地の管理など面倒なだけだ。
ぶっちゃけいらない。
まぁ、土地が貰えずとも、略奪をするだけでも多少の旨味はあるが。
とはいえ、その程度ことのために、魔術師を動員する価値があるのかは甚だ疑問である。
アルザートは現在、国境を接するエイザーグ以外の国と、小康状態にある。
だが、かといって各国との関係が穏やかなものなのかと言われると、そうだとは言えない。
他国を侵略しようものなら、難癖をつけて、ロドグリス王国に攻めて来るやもしれない。
そのような状況を考えれば、他国を略奪ごときのために攻めている場合じゃないように思えるが……。
「お前の懸念していることくらい、私とて、とうに考えている。だから、エイザーグに共同でアルザートを侵略しようと、最初に打診された時は断った。同盟を組んでるからと言って、防衛戦争ならともかく、侵略戦争にまで手を貸す義務は無いからな」
「では何故?」
「土地をくれるらしいからな。アルザートを侵略して手に入れた領土の広さに応じて、エイザーグと我が国の国境付近の領土を」
「……! え、けど何でそこまでしてエイザーグはうちの国と共同で攻めようとするんですか? 自分たちだけで攻めた方が旨味があるはずなのに……」
そう、アルザートは内戦が始まるのだ。
攻めるのに、大量の兵力など必要ない。
自国の兵力だけで、十分沢山の領土を手に入れることが出来るだろう。
なのに、ロドグリスに不必要な協力を要請してまで、領土の取り分を減らす意味が分からない。
「それは、恐らく勝ちすぎないためだろう」
「? どういうことです?」
「簡単な事だ。同盟国であるエイザーグが、勝手に大量の領地を手に入れていたら、我々はどう思う?」
「え……? あ……!」
そう言われて、リガルは理解した。
さっきまで、リガルはエイザーグの目線になって考えていた。
しかし、ロドグリスの視点に立って物を考えてみると、確かにエイザーグに対して、若干の悪感情を覚える。
「つまり、我が国との関係を崩さないように、我が国にも利益を分けようとした……ということですね?」
「そういうことだ。勝ちすぎないことの重要性を、エイザーグ王は若いながらよく分かっている」
「なるほど……。ありがとうございました。全て納得できました」
「そうか。まあ、アルザートの侵略については、また後々情報を教えるからな」
「はい。それでは、失礼します……」
かくして、また新たな戦火が、アルザートの地にて巻き起ころうとしていた。
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