第47話.先制攻撃

「よし、お前たち。昨日教えたことは全部頭に入ってるよな?」


 先ほどまでアドレイアと一緒にいた場所から少し離れ、リガルたちは最終確認を行っていた。


「「「はい、殿下!!!」」」


 それを聞く、テラロッドの同級生たちは、非常にやる気に満ち溢れている。


 何故なら、彼らは昨日の練習で、リガルの戦術の力をの当たりにしているからだ。


 ――もしかしたら、あのアドレイア陛下率いる王国の魔術師たちに勝てるのではないか?


 そんな気持ちが彼らの中には存在した。


 しかし、ただ一人。


 レオだけは違った。


「ん? どうしたレオ? 浮かない顔だな。まさか俺の勝利を疑っているのか?」


「い、いや……そんなことはありませんが」


 明らかに不安そうな表情をしているレオに、リガルがニヤニヤしながら話しかける。


 レオは、もちろんリガルの言葉を否定するが、それが嘘だというのは、誰が見ても明らかであった。


「別に隠さなくてもいいって。確かに、お前が疑う理由もよく分かるからな。けど、お前だって見てただろ? あいつらが3対6で戦った結果をよ」


 あいつら、というのは、今回リガルの指揮下で模擬戦をしてくれる、テラロッドの友達である。


 彼らは昨日、3対6で模擬戦のようなものを行った。


 6人チームの方は、彼らが自由に作戦を決めて戦うことが出来る。


 対して、3人チームの方はリガルが直々じきじきに指揮を執って、さらにリガル考案の新戦術を使った。


 結果、数で劣る3人チームが圧勝したのだった。


「け、けど、それは何の知識もない子供だから通用しただけかもしれません。アドレイア陛下に通用するかは未知数」


「確かにその通りだ。けど、もしも通用すれば、魔術師自体の力量差はカバーできる。さらに、こちらにはお前という秘密兵器がいるだろう。あいつらが敵魔術師の足止めをして、お前が敵の魔術師を遠距離狙撃で撃破する。俺は、不可能だとは思わないがな」


「……うーん」


 しかし、リガルがどんな説明をしても、レオの不安は払拭できない。


「まぁ、別に負けたって何があるわけでもないんだ。気楽にいこうぜ」


「まぁ……それもそうですね」


「あ、でも戦闘は本気でやってくれよ? 手を抜いたりしたら流石に許さないからな」


「いや、流石にそれはしませんって……」


 かくして、それぞれの心情はバラバラながら、アドレイアと別れて10分ほどが経過した。


 そして……。


「では、配置についたな? それと、作戦はちゃんと頭に入ってるだろうな?」


 リガルは声を張り上げて、確認を取る。


「「「はい!」」」


 すると、やはり先ほどと変わらず力強い声が返ってくる。


 元気すぎて、適当に言っていないか不安になるが。


 ともかく、指揮が高いのは、良いことだ。


 後は、各々が出来る限り作戦通りに動いてくれることを祈るのみだ。


「よし、それじゃあ! 進軍開始!」


 こうして、リガル達は動き出した。






 ――――――――――






 一方その頃、アドレイアは――。


「ということでお前たち。悪いがリガルのやつに付き合ってくれ。子供相手に気が引けるかもしれないが、手を抜いたりもするなよ?」


 リガル達がその場で去ったあと、アドレイアはリガルによって用意された、アドレイアの指揮官で戦う王国の魔術師たちを集めて、そう言った。


 その声音は、少し困ったようなものだった。


 魔術師たちからも、苦笑いがこぼれる。


 確かに、プロの魔術師がレオ以外は10歳以下の子供たち相手に、本気を出すというのは、だいぶ気が引ける。


 彼らが困ったように苦笑いを浮かべるのも、当たり前だろう。


 だがそれでも、アドレイアはリガルの頼みを守って、手を抜くようなことはするなと伝える。


 その辺りは、真面目なアドレイアの性格を表している。


 例え子供相手だろうとも、約束はたがえない。


「それでだ。真剣に作戦を考えようとすると、我々の負け筋は、敵の奇襲をまともに受けてしまうことだ。それを避けるために、兵を分けようと思う」


 兵を分けるというのは、兵法的には下策と言われている。


 例えば、自軍が20000の兵力を持っていて、敵が15000の兵力を持っていたとしよう。


 そんな時、自軍が兵を半分ずつに分けて、その状態で一方の軍が接敵したとする。


 そうすれば、10000対15000と、兵力の上で劣ってしまうことになる。


 つまり、敵に数的有利を与えてしまい、各個撃破される可能性が高くなる。


 本来は、数の上で勝っているというのにだ。


 だがしかし、それくらいはアドレイアも分かっている。


 それでも兵を分ける選択をしたのには、当然理由があった。


「いいか? 俺たちとリガルでは、決定的に違う点がある。それが、魔術師の質だ。あっちは初等部の学生、対してお前たちはプロ。実力の差は歴然。仮に2倍以上の敵と戦うことになっても、負けるわけないよな?」


「「「はい!」」」


 ――負けるわけがない。


 そんな至極真っ当な自信から、魔術師たちは力強くアドレイアの言葉に答えた。


 そして、10分が経過する。


「よし、それじゃあもうそろそろいいだろう! リガルが向かった方へ、一気に進軍しろ!」


 アドレイアの言葉に、魔術師たち全員が動き出す。


 かくして、戦いは始まった。






 ーーーーーーーーーー






 アドレイアが兵を分け、一気にリガルの下へ接近しようとする中、リガル達は何をしていたかというと――。


「……ほう。父上は兵を分けたか。やっぱりこっちを舐めているっぽいな」


 アドレイアは、別に手加減をするつもりはない。


 しかし、だからと言って、全力を尽くしているわけではなかった。


 矛盾していると思うかもしれないが、実はそうでもない。


 相手の動きを読んで、本気で作戦を組み立てていない。


 単純に戦闘自体で手を抜かないだけだ。


「だったら、こちらの秘密兵器をお見舞いして、一発度肝を抜いてやりますか! さぁレオ、お前の出番だ」


「はい」


 そう言って、レオがスコープの付いた杖を構える。


 そのレンズには、アドレイア率いる敵魔術師の姿が、きっちりと映っていた。


 そう、リガルたちは、高台に移動していたのだ。


 そのため、リガルたちは味方と敵の動きの全てを俯瞰している。


 今、この盤面は、完全にリガルの手のひらの上であった。


 そんなことはつゆ知らず、余裕を持っているアドレイア軍は、躊躇することなく無防備にガンガン突っ込んでくる。


 そこにレオは狙いを定めて、杖に魔力を流し込んだ。


 杖の先端に取り付けられた魔水晶が妖しく光り輝いて、そこから風の弾丸ウィンドバレットが飛び出す。


 距離は大体、リガルの目測で250m程か。


 だが、レオはそんな距離をいとも簡単に打ち抜く。


 上空という死角からの攻撃に、敵の魔術師は気が付くことすらも出来ずに、頭を抜かれる。


 本物の杖ではなく、決闘用の威力を弱めた杖を使っているため、派手に倒れこんだりはしないが……。


「いってぇ! 嘘だろ! なんかどこかからか撃たれたぞ!」


 僅かに痛みが走るので、撃たれたことは間違いなく確認できる。


 混乱したように叫んで、あっさりと即死判定となる。


「はぁっ……!?」


 それからは、先ほどまでの敵魔術師にあった弛緩した空気が一転、混乱の嵐へと変わる。


 おろおろと激しく動揺する的に、追撃の一撃をレオが放つ。


「危ねぇ!」


「おわっ!?」


 しかし、これは味方の魔術師が、レオが狙いを定めていた魔術師を、突き飛ばすことで、上手く回避されてしまう。


 本物のスナイパーと比べて、弾速が著しく遅いため、撃ったことがバレると、避けられてしまうのが難点だ。


 その後は、敵も馬鹿ではないので……。


「敵は前方から撃ってきている! 詳しい場所は分からないが、とりあえず遮蔽物に隠れて伏せろ!」


 1人の魔術師の指示を受けて、すぐに対応してくる。


 この辺りの対応の速さは、流石本物の戦場を経験しているだけあると言えるだろう。


 しかし、ここでさらに敵魔術師を悲劇が襲う。


「おお! 敵を見つけたぞ! 行け、アインス隊! 殿下に教えてもらった通りに陣形を組んで、一気に撃ち合うぞ!」


「ツヴァイ隊も行くぞ!」


「ドライ隊も遅れるな!」


 ここで、テラロッドのお友達軍団が現れたのだった。

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