第48話.逆転の連続

 敵軍が混乱する中、登場したのは、リガル達とは別行動をしていた、テラロッドの友達軍団。


 しっかりリガルの教えを忠実に守り、3人組を組んで進んでいる。


 もちろん、3人組ごとの距離は、数十メートルほど程開けている。


 そして、敵魔術師を視認するなり、一斉に攻撃を開始した。


 レオの狙撃に対応するために、地面に伏せていた敵魔術師たちは、これに対応できなかった。


 連携も何もなく、ただ防御を行いつつ逃げ出すしかない。


 それでも、流石は王国に駐留している、ロドグリス王国の中でも高い実力を誇る魔術師たちである。


 散り散りになりながらも、魔術学園初等部の学生ごときの攻撃はかすりもしない。


 だがそれでも、未だ事はリガルの予定通りに進んでいた。


「おお! よしよし、いい感じだぞ! レオ、ガンガン撃ちまくって敵を倒すんだ!」


「もちろん分かっていますよ!」


 ――もしかしたら、本当にこの子供のままごと集団みたいな魔術師たちだけで、あのアドレイアに勝つことが出来るかもしれない。


 リガルの作戦通りに事が進んでいる様子を見たレオは、少しづつそう思い始めていた。


 そのため、普段よりも興奮気味であるように思える。


 しかし、当たらない。


 いくらレオが天才的な狙撃の腕を有しているからと言って、狙撃は敵に警戒されているため、簡単に避けられてしまうのだ。


「はぁ、もう少し弾速の速い魔術でもあればいいんですけどね……」


「それは無理な願いってもんだ。当たらなくて悔しいかもしれないが、敵にはこちらを狙撃できるほどの射撃精度を持った魔術師はいない。危険は無いし、根気強く撃ってくれ」


 珍しく、疲れたようにぼやくレオ。


 それをリガルは宥めるが……。


「いえ、移動しましょう。ここら辺から撃つんじゃ、どれだけ続けても、絶対に当たりませんよ」


 レオは決意したように、杖を構えるのをやめて立ち上がる。


 だが……。


「おい、待て待て。お前の狙撃の援護が無くなったら、敵魔術師が動きやすくなっちゃうだろうが。今の状態で十分有利なんだから、別に変化を求める必要はない」


「今の状態で十分有利――。本当にそうでしょうか?」


「え?」


 リガルはレオの行動を止めようとするが、レオは引かない。


「相手も少しづつこちらの攻撃に対応してきている。その証拠に、時折ですが敵も反撃しています。さらに、敵が合流すれば、こっちが不利になることは確実」


「っ……。た、確かに……」


 そう。


 現状が有利だからと言って、この有利な状態がいつまでも続くとは限らない。


 相手も学習し、対応してきているのだ。


 ずっと同じことをしていれば、一時の優位など、一瞬で覆されてしまう。


 リガルたちが勝つには、守りの一手を打つのではなく、攻めの一手を繰り出さなければならないのだ。


「……分かった。あいつらが踏ん張ってくれることを信じて、俺たちは移動しよう。そして、確実に敵を一人一人削っていく!」


「了解!」


 そして、すぐに2人は移動を開始した。






 ーーーーーーーーーー






 一方そのころ、テラロッドの友達こと、アインス隊、ツヴァイ隊、ドライ隊は敵をひたすら追いかけていた。


 だが、やはり地力の差と言うべきか、中々攻撃を当てることが出来ない。


 それどころか、時折反撃まで飛んでくる。


 反撃は、上手く3人組のうちの防御担当がしっかりとガードして、誰一人としてダメージを受けてはいないが。


 それでも、アインス達は自分たちが優位を失いかけていることに、気が付き始めていた。


 そして、時間が経過するにつれて、敵の反撃は激しくなっていき……。


「うおっ、やべっ」


 ついに、アインス隊の1人が被弾する。


 だが、被弾しても彼らは慌てない。


「落ち着け! フィーアは一旦下がって支援役のフンフと交代するんだ」


「分かってる!」


 そう言って、攻撃を受けた少女、フィーアは後ろに下がって回復を入れる。


 この模擬戦では、実戦に近づけるために回復をありとしている。


 だが、決闘用の杖による魔術を受けた程度、傷のうちに入らないので、ポーションを使って回復するのはもったいない。


 なので、受けたダメージ×3秒間、手を上げて魔術を使用しないことで、回復したという判定にしている。


 また、本来は戦場のど真ん中で回復など入れたりはしない。


 しかし、リガルの考えた3人組を組むことによって、誰か1人がダメージを受けても、残りの2人がそれをカバーすることで、戦闘中に回復を入れることが出来るようになったのだ。


 そのための、回復ありルールである。


 そしてそれは、見事に機能した。


 本来なら、例え9対4と、人数の上では敵軍を上回っている状況でも、一瞬でそれを覆し、プロの魔術師である敵軍が勝つだろう。


 だが、このリガルの新戦術が見事にハマったことで、有利とは言わないまでも、上手く敵の攻撃を凌ぐことには成功していた。


 アインス達は、数で勝っているのに、押しつぶせない現状に、非常に悔しい思いをしているが、リガルとしては、足止めをしてくれるだけで、十分である。


 何故なら、この隙にリガルたちは移動を済ませ、先ほどとは別の高台に陣取ることに成功していたためだ。


 そして、一度収まったレオの狙撃が、再び牙を剥く。


 狙撃が来なくなったことで、敵魔術師たちは、何かトラブルでもあったのかと勝手に決めつけて、レオの存在を忘れていた。


 そんな状況で、先ほどとは異なる、しかも死角から攻撃を放たれては、避けることは出来ない。


「うわっ、撃たれた!」


 突然、敵魔術師が叫び声を上げる。


 レオに狙撃されたのである。


 もちろん、当たった場所は頭。


 即死判定である。


 これで、敵魔術師側は3人。


 だが、今回で位置がバレたので、リガルたちもまた移動をしなくてはならない。


 とはいえ、1人減っただけでも、随分と戦いやすくなった。


 若干劣勢だったアインス達が、少し押し始める。


 さらに、先ほどまでは、アインス達のほとんどの攻撃を防ぐのではなく回避していた敵魔術師。


 しかし、今は1人落とされて、余裕がなくなってきたのか、回避する率が減って、防御する率が一気に上がる。


「行けるぞ! 一気に押し込め!」


「くっ……。狙撃も警戒しなければいけない上、何故か凄く戦いづらい!」


 勢いづくアインス達とは対照的に、敵魔術師は本当に苦し気だ。


 新戦術とレオという天才スナイパー。


 この2つの武器はしっかりと、大きな効果を発揮している。


 だが、このまま一気に畳みかけようとしたところで、問題が発生した。


「あれ、何か遠くに誰かいないか?」


 一番最初に気が付いたのはアインス。


 隣にいたフィーアも、アインスの言葉に反応して、その視線の先を追うと……。


「あれは……。もしかして、もう半分の敵!?」


 そう、100mほど離れた場所には、全速力でこちらに向かってくる敵軍の姿があった。


 半分半分に分かれて、リガルたちを捜索していたため、結構分けた2つの軍は遠くにいたが、こちらで怒っている激しい戦闘音に、慌てて向かってきたのだろう。


 これまでの有利な間に、2人撃破しているとはいえ、これで9対8。


 たった1人しか人数で上回っていない。


 9対4ですら、若干厳しい状態だったのに、そこから敵の人数が2倍になったのだ。


 かくして、リガルたちは移動していてつゆ知らぬまま、大ピンチに陥ってしまったのである。

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