第29話.別れ
――6月15日。
アルディア―ドたちエイザーグ王族が、ロドグリス王国に滞在する、最後の日をついに迎えた。
学園祭2日目である昨日は、競技を見るのではなく、屋台などの出し物を回って楽しんだ。
昨日からはグレンやイリアも合流したため、アルディア―ドと2人だけの時よりも、よっぽど騒がしかったが。
まぁ、そんな時間もあっという間に終わりを迎えた。
最初は、アルディア―ドの性格も相まって、不安なものだったが、何とか無事に今日という日を迎えることになって、一安心といった感じだ。
親交を深めるという、本来の目的も十二分に達成することが出来た。
リガルとアルディア―ドは、もう表面上での友人ではなく、間違いなく普通の親友と言えるだろう。
もっとも、アルディア―ドが親友だなどと、リガルとしては断固認めたくないかもしれないが。
そんなわけで、現在は朝食を終えて、少しだけ自由に過ごした後、城を出て城門にまでやってきた。
リガルたちロドグリス王族も、全員総出で見送りだ。
そして、城門にまでたどり着いたのと同時に、エイザーグの従者たちが馬車を用意して、こちらにやってくる。
「ロドグリス王。
「いやいや、こちらこそ有意義な話が出来た。エイザーグ王。4年後、貴国に訪問するときは、是非とも楽しみにさせていただこう」
別れの時が訪れ、アドレイアとエルディアードの2人が、言葉と握手を硬く交わす。
2人は、両国を背負う王として、じっくりと今後の事を話し合うことが出来たようだ。
リガルだけでなく、アドレイアもしっかり目的を果たすことが出来たようだ。
「じゃあな、アルディア―ド。また今度」
それを見て、リガルの方も、アルディア―ドの方に声を掛ける。
流石に、無言のまま別れるわけには行かない。
「いや、また今度、って……。軽すぎだろ。これでもう当分会えないってんだから、もう少し別の反応ないのかよ?」
「4年後にまた会えるだろうが……。別に
「いやいや、4年だぞ!? だいぶ遠いだろ! 親友との別れだぞ! もっと悲しめ!」
「はぁ……。なんだよそれ……。最後の最後までうるさい奴だなぁ」
だが、アルディア―ドは、リガルの反応が納得いかなかったようで、軽い言い争いになっているようだ。
まぁ、これも別に本気で怒っている訳ではなく、これほどの軽口を叩き合えるほどに仲良くなったと、プラスに取ることが出来る。
大人になってまで、こんなことをしてたら問題だが、2人が7歳児であることを考えると、良いことだろう。
「くっ……。納得いかないが、まぁいいか。4年後に再会した時は、また決闘をしようぜ! 俺も研鑽を積んで、必ずやリガルに勝ってやるからな!」
「はぁ……!? やだよ! 大体決闘は10戦やって、お前が4勝しただろうが」
「またそんなことを! あんな勝ち方納得できるか! 俺は正々堂々勝たなきゃ気が済まないんだ!」
「別に手は抜いてないよ」
「いや、手を抜いてなくても、本調子じゃなかったじゃんか!」
「まぁ、それはそうだが……」
流石に、リガルの方が分が悪く、口ごもってしまう。
「という訳で、次に会ったらまた決闘をするぞ!」
「あぁ、分かった分かった。分かったよ」
しつこく決闘に誘うアルディア―ドに、面倒くさくなったリガルは、投げやりに頷く。
どうせ4年後の事だと、その場しのぎをしたというわけだ。
実際、アルディア―ド相手なら、「そんな約束したっけ?」ととぼけてすっぽかすことも出来そうだ。
ここで、ダラダラと絡まれ続けるよりは、頷いてしまった方が楽だろう。
「絶対だ! 絶対だからな!」
しかし、その後も、何度も何度も念を押されて、アルディア―ドが静かになることは無かった。
そのせいで、リガルは最後の日まで辟易としていると、2人の間にグレンが割って入った。
「アルディア―ド殿下! 俺も頼むぜ! 俺ももっと強くなって、次こそは1本は必ず取って見せるからよ!」
「おう、グレン! いいぜ! お前との決闘もすごく楽しかった!」
相変わらず、タメ口のグレン。
それを全く意に介さないアルディア―ド。
リガルが知る限り、2人が一緒にいる時間は、そんなに多くなかったはずだが、やはりこの2人の性格もあって、簡単に打ち解けてしまうようだ。
なんとも、恐ろしいほどのコミュ力である。
そして、1日目の昼食の時に、グレンはアルディア―ドと決闘するという話をしていたが、グレンの口ぶりから察するに、一度も勝つことは出来なかったようだ。
まぁ、実力者であるアルディア―ドが相手なのに、魔術を勉強し始めてからまだ日が浅いグレンが勝つのは、難しい。
当然の結果だと言える。
「グレン程度じゃ、どんなに頑張ろうとも、アルディア―ド殿下に勝てる訳が無いと思いますけどね……」
「はぁ!? なんだとイリアこら!」
アルディア―ドに次こそは勝とうと、息まいていたグレンの言葉を聞き逃さなかったイリアが、ボソッと呟く。
それに対して、グレンが噛みつく。
いつもの光景だ。
「あはは……。そんなことないって。グレンなら絶対に強くなるよ」
こんな時でも普段通りのグレンとイリアの姿に、アルディア―ドすら、苦笑いだ。
あのアルディア―ドが、イリアを宥めて、お世辞まで言っている。
これには、リガルも驚きだ。
アルディア―ド本人に言われては、これ以上イリアも、グレンをバカにすることも出来ないので、黙り込む。
「グレン様も、リガル様の弟ですからね」
アルディア―ドに続いて、フィリアもグレンを持ち上げる。
「そ、そうかな? ははは」
2人に言われて、照れたように笑うグレン。
とても、嬉しそうだ。
お世辞だろうが、それはグレンには伝わらない。
伝わらない方がいいことだし、全てが万事解決だ。
とはいえ、グレンが本当に実力があるのは事実だ。
リガルも、グレンとは何度か手合わせしたことがあるので、ある程度の実力は知っている。
転生する前のリガルに対して、10本中1本取れるくらいの力はあった。
(グレンだから、やっぱりアホで動きが単調なんだけど、運動神経がアホみたいにいいんだよな)
運動神経だけなら、間違いなくリガルを遥かに凌駕していることだろう。
その後、少しだけ談笑していると、ついにその時は来た。
初老の執事が、エルディアードの元に近づいてきて、何やら耳打ちをする。
「分かった。ではロドグリス王。また4年後」
「あぁ、また4年後。エイザーグ王」
その後、このような会話がされ、リガルはもうアルディア―ドたちが旅立つことを理解した。
エルディアードに続き、その正妻、アルディア―ド、フィリアと、次々に馬車に乗り込んでいく。
リガルは、それをただ無言で見守っていた。
そして、馬車が動き出す。
リガルがそれを目で追っていると、アルディア―ドが窓から顔を乗り出して、手を振っているのが見えた。
一瞬、無邪気に手を振ることに恥ずかしさを覚えたリガルだったが、手を振ってくれるアルディア―ドに対して、無反応は酷いので、控えめに手を振り返したのだった。
こうして、4日間のエイザーグ王族訪問は終わったのだった。
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