第28話.狙撃手誕生

「俺の才能の使い方……?」


「あぁ。運動能力が無いのなら、絶対に相手から攻撃を受けないような遥か後方から、『狙撃』をすればいいんだよ」


「そげき……?」


 どうやら、この世界には狙撃という概念は存在しないようだ。


 だが、今はそれを説明するよりも……。


「まぁ、それはすぐに分かることなので、今は説明を省かせてもらう。それよりも、今やるべきことがある」


「……はい!」


 リガルに力説されて、希望が見えてきたのか、目に光がともり、レオは力強く力強く答える。


「よし。そのやるべきことと言うのは、お前の詳しい射撃の精度の高さを確認する事だ。今日の競技では、確かに凄い実力を見せてもらった。が、スナイパーに求められる技術は、あの程度では足りない」


「つまり、これからそれを見せろという訳ですね?」


「そうだ。では早速……」


 そう言いかけて、リガルは口ごもった。


「どこでやるんだよ?」


「…………」


 追及するように、先ほどまで沈黙を貫いていたアルディア―ドが疑問を呈する。


 正直、先ほどまでは、レオを見つけることばかりに気が向いてしまっていたので、その後の事など、頭にある訳もない。


 無言のまま、どうしようかと困っていると……。


「あ、あの、そういうことならば、学園内にちょうど射撃練習場がありますので、そこに行くのはどうでしょうか?」


「おお、そんなところがあるのか。しかし、勝手に使ってもいいのか?」


「はい、基本的に授業時間外は、生徒が自由に使用していいことになっています」


「へー、そうなのか。そういうことなら、案内してくれるか?」


「はい」


 そして、レオは歩き出す。


 リガルたち一行は、それを追った。


 ここまで、オロオロとしていて、完全に空気と化しているテラロッドも、一応話は聞いているようだ。


 リガルをしっかり最後尾から追いかける。


 そして、しばらく歩くと、射撃練習場と書かれた看板が置かれた、フェンスで囲まれた広場のような場所に辿り着いた。


「ここか。結構広いし、これなら問題ないな」


「はい」


「よし、じゃあ早速始めようか」


 射撃練習場に辿り着くなり、リガルは早速、準備を始める。


「定規なんかは当然存在しないからな……。大体の距離になるが……」


 そう言って、リガルは射撃の的の下まで行くと、そこから反対の方向に歩き出した。


「何やってんだ?」


 リガルの行動の意味が、イマイチ理解できなかったアルディア―ドが、リガルに尋ねる。


「いや、距離を測ってるんだよ。スナイパーの射程距離は、100mを余裕で超えるが……。そうだな……最初は50mくらいから確かめてみるか」


 この世界にも、測量のための定規のようなものは一応存在するが、今は持っていないので、自らの歩幅で距離を確認していたのだ。


 もちろん、この方法だと、おおよそになってしまい、1,2mの誤差は出てしまうが、こればかりは仕方ない。


 とりあえず、50mほどの距離を測って、試してみることにする。


 スナイパーとして起用するなら、リガルとしてはこれくらいの距離は軽くクリアしてもらいたいところではあるが……。


「い、いや、これは流石に遠すぎだろ……。当たる気がしないぞ」


 アルディア―ドは、その距離の遠さに、驚く。


 リガルとしても、自分ではとても当てることが出来ない距離だ。


 だが、精密射撃の競技で見せた、神がかり的なAIMを持つレオならば、行けるのではないかとリガルは思った。


 そして、彼の口から出た言葉は……。


「これくらいなら、多分余裕ですね」


「は?」


 その自信たっぷりのレオの言葉に、アルディア―ドは、鳩が豆鉄砲を食らったような表情をする。


「よし、見せてくれ」


 リガルは、その言葉に満足そうに頷くと、レオに言う。


 そして、それを受けて、レオは杖を構えた。


「では、行きます」


 一言断った後、レオは魔力を流し、ウィンドバレットを放った。


 僅かなタイムラグの後に、乾いた木の板を貫く音が聞こえる。


 リガルとアルディア―ドが、的のあった場所に視線を移してみると、中央を貫かれた的が地面に横たわっていた。


「お。おぉぉぉ!」


「こ、これは予想以上だな……」


 それを見て、驚きの声を口にするリガルとアルディア―ド。


 これくらいの距離なら、軽くクリアしてほしい、などと思っていたリガルも、ここまで正確にど真ん中を打ち抜くことは予想だにしていなかった。


 そしてそれは、嬉しい誤算だ。


「じゃあ、次は100mくらいを撃ってくれ」


「分かりました」


 そう言って、今度は自分で距離を測って、後退するレオ。


 リガルとアルディア―ドも、真剣な眼差しでそれを見つめる。


 こっそり、テラロッドも、呆気にとられた表情で、それを眺めている。


 そんな中、レオは再びウィンドバレットを放つ。


 レオが放ったウィンドバレットは、グサリと的を捉えた。


 今度も、当たった場所はど真ん中である。


「はは……マジかよ……」


 あまりの神業に、乾いた笑いを浮かべながら、つぶやく。


 アルディア―ドに至っては、口をポカンとあけたまま、ただずっと貫かれた的をみつめていた。


 あまりの衝撃に、我を失っているようだ。


「これは、決まりだな。スナイパーの試験は、合格だ!」


「え……。そ、それはつまり……」


「もちろん、スカウトさせてもらうという事だ。学園の高等部を卒業したら、俺が雇おう。給料は、まぁ一般的な新卒の王国魔術師と同じだけの額で」


「……! ほ、本当ですか!?」


 リガルの言葉に、声を弾ませて、喜びを露わにするレオ。


「あぁ。最も、スナイパーに必要な技術は、単純の狙撃の腕だけじゃない。スナイパーの任務における基礎的な技術や知識は、後から覚えてもらうことになるが……。まぁ、今はいいだろう」


「なるほど……」


「まぁ、なんにしろ、いますぐどうこうって話じゃない。詳しいことは、手紙で送るから」


「分かりました」


「…………」


 どこか上の空の反応をするレオに、リガルは不安になる。


 だが、別に重要なことを今話すつもりもないので、別にいいかと思いなおす。


 今まで劣等感を抱いて生きてきたレオだ。


 まさに、物語の主人公のような逆転人生に、夢見心地になるのも、至極当然のことだろう。


 そして、リガルたちは、レオと別れた。


「じゃあ、僕もここら辺で失礼させていただきます。用事も終わったようなので」


 その後、競技を観戦しに、競技場まで戻ろうとしていたところで、テラロッドとも別れることになった。


「あぁ、じゃあな。また今度」


「はい」


 深々と頭を下げるテラロッドを、軽く手を挙げて返事しながら、別れた。


「さて、これで俺もやることが出来たな」


「やること?」


 レオやテラロッドと別れた後、ふと呟いたリガルの言葉を、アルディア―ドが聞き逃さず尋ねる。


「あぁ、別にお前には関係ないんだけどな。ほら、狙撃手が手に入ったから、狙撃用の杖を作ろうと思ってな」


「あー、なるほど。双眼鏡を杖に取り付けるだっけ?」


「そうそう。もちろん、そのままくっつけるわけじゃないけどな」


「そうなの?」


「当たり前だろ。杖は細いんだぞ? どうやって取り付けるんだよ」


「確かに。けど、今日の感じだと、いらない気すらしてくるけどな」


「なんでだよ?」


「なんでって……ほら、今日あいつ、双眼鏡も何も使わずに、100m先の的のど真ん中を打ち抜いたじゃん」


「…………あ、そういえば」


 アルディア―ドの言葉に、リガルは今更、レオが肉眼で100m先の的を撃ちぬいたことを思いだす。


 レオは、射撃の腕だけではなく、視力も抜群に優れているようだ。


「あいつ、化け物かよ……。もしかして、とんでもないやつを手に入れちゃったかもな。俺……」


「かもな」

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