タイムラグ

『タイムラグ』



君が決めた選択に間違いはない。


君に振られたあの日。

僕は、君を追いかけなかった──……。



霧立ち込める夜の港に、大粒の雨が降り注ぐ。

助手席に放置していたビニール傘を持って外へ出た。

湿気ったタバコに火をつけると、甘ったるい香りが体中に纏(まと)わりつく。

こうしていると、彼女とのかけがえのない日々が今にも蘇(よみがえ)るように思えた。

このまま君との思い出とともに、紫煙に消えていければいいのに……。



彼女と出会ったのは大学二年の春。

僕は、個別指導塾でバイトをしていた。

受け持った生徒のひとりが、当時、高校三年生の彼女だった。


打ち解けるうちに、二人とも幼い頃に両親が離婚していることがわかった。

彼女は母方に、僕は父方に預けられた。

彼女は父親が、僕は母親が好きだった。

お互い好きな方に見捨てられたというわけだ。


付き合おうと言ったのは、彼女からだった。

まさか両思いであるとは思いもよらなかったので、僕は柄にもなく気持ちが沸き踊っていた。

彼女となら、上手くやっていける自信があった。


変化が訪れたのは、彼女が大学に進学してからだった。

彼女を学内で見かけて感じたことは、彼女はかなりモテるという事実だった。

講義の合間には、違うお友達が毎回そばにいるし、彼女もなんだか普段より明るく見えた。

今になって思うと、そちらの方が彼女の本来の姿だったかもしれない。


徐々に会うことも少なくなって、たまに会えば気まずい沈黙が流れるようになっていた。

彼女が何を考えているのか。僕にはさっぱりわからなかった。


別れ話を持ち出したのも、彼女からだった。

ちょうど僕が大学院に入った頃だ。

僕は、自分でも意外なまでにすんなりと別れを受け入れていた。

きっと僕よりも彼女に似合う人がいる。

そんな気がして止まなかったから……。



——流行りのJPOPに合わせてスマホが点滅する。

眩い光と、けたたましいメロディのダブルパンチに軽いめまいを覚えた。

認証ロックを解除し、電話にでる。


「はい」


「ちょっといいか」


「教授、お疲れ様です」


「学外で教授はやめてくれ」


「……父さん」


「ちゃんと挨拶しないと夕栞(ゆうか)さんに失礼だろ。

それとも父さんの再婚に反対なのか?」


今日は父さんの再婚相手である夕栞さんと、三人で夕食をとる約束だ。

そして、夕栞さんこそ僕の元彼女である。


「ごめん。今から行くよ」


父は僕らが付き合っていたことを知らない。

知らない方が良いだろう。





ーあとがきメモー


応募作品になります。

制限は1000文字以内。

YouTubeの概要欄に載せることを加味する。

テーマ等は、イラストと楽曲から引き継ぎ。

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短編小説 卒塔葉しお @sitaiketaro

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