第79話 頭目に勝つ
「野郎ども突撃だ。盗賊ごときに負けるんじゃないぞ」
冒険者達が突撃して行く。
「ディザ後輩、覚悟は見せて貰った」
ジュエルスターが来てそう言った。
「えっ、覚悟って何の事」
「殺し屋に対峙して逃げなかった事だ。盗賊にも向かって行っただろう。勇気ある行動だ。ここは俺達に任せて先に行け」
ジュエルスターさん、それは死亡フラグと言う物だよ。
任せて先に行けというと死ぬ確率が高い。
死んだと見せかけて美味しい所を持って行くというのもあり得るけど。
「モンド達三人が心配なんで、少し戦いを見てから行くよ」
「ディザ、ごめん。俺達はお前の事を売ったんだ」
そうモンドがそう言って謝った。
「どういう事?」
「お前を見張ってたんだよ。役人を倒したから、黒だと思ってイラスさんに相談したんだよ。そうしたら、ジュエルスターさんを紹介された。後は門の所でマイクロスライムをディザにつけて後を追った」
「俺って疑われていたのか」
「信じる為に疑うっていうのもあるんだってさ。行動を見張って無罪を証明するんだって。俺、裁判で証言するよ。ディザが盗賊達と戦っていたって」
「気持ちはありがたいが裁判は既に始まっている」
「夕方までに出席すれば良いんだって。弁解の時間は少なくなるけど」
「そうか、頑張ってみるよ」
少しの間、見ていたが、冒険者達が劣勢だ。
唯一ジュエルスターさんだけが盗賊に負けてないだけだ。
やっぱり死亡フラグだったか。
俺が頭目と戦いに行ったら、なんとなく悪いような気がした。
見捨てるみたいなんだもの。
俺には微かに勝算がある。
それは。
「ぐっ、腹が痛ぇ。腸がよじれるようだ」
「くそっ、俺もだ」
盗賊達が苦しみ始めた。
集団食中毒ではないよ。
ポリゴンで作った寄生虫を干し肉と酒に入れておいたのだ。
味テクスチャーを貼って味をつけて。
酒のは透明に作ったから、見た目は全く分からないはずだ。
干し肉のも肉の色にしてあった。
今、寄生虫は盗賊達の腹を食い破っているところだ。
後は任せてもいいだろう。
集中力の途切れた相手なら、格上にも勝てると思う。
俺は一人頭目のアジトに向かった。
頭目のアジトもツリーハウスだった。
「出て来い! 出て来なければ火を放つ!」
俺は大声を上げた。
火を掛けるつもりはない。
証拠が燃えたら、面倒だ。
ただ、こう言わないと出て来ないと思ったのだ。
「火なんざ怖くないが、出て行ってやる」
返答があった。
出て来た頭目はあの美女作戦の時の頭目だった。
やはり頭目は一人だけだ。
ジュエルスターさんがやられたのもこいつだろう。
頭目がツリーハウスから飛び降りる。
俺はライオン100頭を作ってけしかけた。
ライオンは頭目に触れると光になって消えて行く。
どういう能力だ。
触ると即死なのか。
「がはっ」
俺は頭目の蹴りを食らって飛ばされた。
口の中に鉄さびの味を感じた。
サンダーアローは効いたな。
ファイヤーアローは駄目だった。
「【具現化】巨大ゴム輪。縮め」
「とりゃ」
苦し紛れのゴム輪も体に当たると破壊された。
「ぐはっ」
頭目の反撃のパンチを腕をクロスして受ける。
飛ばされて右腕が曲がっているのに気づく。
アドレナリンがあるためか。
痛みは感じない。
だが、次食らったらやばいかも。
逃げるという考えと同時にマリーの顔が浮かんだ。
駄目だ。マリーの為にも負けられない。
考えろ。
ゴム輪は生物ではない殺せないはずだ。
厳密に言えばポリゴンも生物ではない。
「く、くるな」
俺は怖がった素振りを見せた。
油断させる為だ。
俺は左手で小石を投げる。
投げた小石が頭目の体に当たり溶けた。
溶けた小石の落ちた所から煙が上がる。
溶かす能力なら、ジュエルスターさんのスライムは対処できない筈だ。
それにパンチを食らったが俺は溶けてない。
「そうだ、その怯えた表情をもっと見せろ」
頭目がそう言った。
頭目は勝利を確信して油断している。
考えろ俺。
溶かすのは酸によるものもあるが。
熱で溶けるのもある。
ああそうか。
熱か。
それなら、合点が行く。
「お前の能力は見破った。熱を放つのだろう」
「ふん、分かったところでどうなる。今まで手加減してたのが分からないのか。お前なんか一瞬で殺せる。【灼熱】最大パワー」
頭目はマグマのようになった。
熱気がここまで伝わってくる。
寄生虫には頼れない。
たぶん、とっくに体内で燃え尽きていただろうから。
だが、これに対処するのは簡単だ。
「【具現化】アイスアロー。最大出力だ、食らえ」
アイスアローが頭目に当たり爆発を起こした。
頭目の体の半分は吹き飛んだ。
やった勝ったぞ。
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