第75話 マリー毒に倒れる

 夜中、表が騒がしい。

 窓から外をみるとイオ達が殺し屋と思われる人間と戦っていた。

 俺が出ないと駄目かな。

 玄関の扉を開けて外に飛び出た。


「【毒手】乱れ打ち」


 イオ達に毒が効くものか。

 ポリゴンだからな。


「ふん、毒が効かない敵とは何度もやってます。【毒手】溶解の手」


 手刀がかすめたイオが光となって消える。

 くそう、そう来たか。


「【具現化】ファイヤアロー」

「【毒手】石化」


 魔法の矢を石にされた。


「【毒手】溶解の手」


 カリストが消えた。

 ここは物量で対処するしかないのか。


「【毒手】毒の爪飛ばし」

「危ない!」


 殺し屋は毒の爪を飛ばし、思考していた俺は反応が遅れた。

 マリーが俺を庇い毒の爪を受けた。

 いつもはマリーは起きてこないのに。


「嫌な夢を見たの……」

「マリー、しっかりしろ」


 くそう。


「【具現化】雌ライオン1000頭」


 雌ライオンの群れが殺し屋を飲み込んだ。

 光になって次々に消えて行く雌ライオン達。

 物量でも押し負けるのか。


 そうだ。

 マリー!!


 マリーは荒い息をして熱を出していた。

 医者は来てくれるだろうか。

 ぼやぼやしてられない。

 門前払いを食えばそれだけ助かる可能性が減る。


 雌ライオン達を見ると戦いは終わっていて殺し屋の姿はなかった。

 引き分けたのか。

 それよりマリーだ。


 そうだ。

 イラスだ。

 毒に詳しいはずだ。


 バナナを使いに出す事にした。

 マリーの額に手を当てると物凄い熱だ。


 俺はポリゴンに氷魔法を貼って冷却シートを作って貼ってやった。

 マリー死ぬなよ。

 マリーをベッドに寝かせイラスの到着を待つ。


「毒を食らったんだってな」

「来てくれてありがとう」

「それで毒のサンプルは?」


 ポリゴンのピンセットでつまんだ毒の爪を見せる。

 それをイラスは手に取って舐めた。


「この毒はポイズントードの毒だな。これなら解毒剤がある」


 イラスは収納バッグから薬を出すとマリーに飲ませた。


「助かるよね」

「いや分からん。子供だと毒に対する耐性も低い。同じ量だと大人に比べて重症化しやすい」

「そんな」

「もう、医者でも打てる手はないだろう」


 そう言ってイラスは引き上げた。


「マリー」


 俺はマリーの手を握った。

 そして心の中で励まし続けた。


 朝になってもマリーは目を覚まさない。


「あー、飯を食わないと」


 俺は朝食を用意した。

 味がしない。

 食った感じがしない。

 でも、一口食ったらもうお腹いっぱいだ。


 無理しても食うんだよ。

 吐きそうになっても食うんだ。

 俺が倒れたら誰がマリーの面倒をみる。


 そうだ。

 花で部屋を一杯にしよう。

 匂いテクスチャーのいい香り付きで。


 ポリゴンの花で部屋が飾られた。

 花の香りが部屋に満ちる。

 心なしかマリーが微笑んだ気がした。

 もっと出来る事はないか。

 音楽は出来ない。

 ぬいぐるみを置いてもポリゴンでは硬くて気持ちよくないだろう。


 くそう、何で出来ないんだ。

 くそが、何が万物生成だ。

 出来ない事の方が多いじゃないか。


 俺はマリーが歌ってくれた子守唄を歌った。

 お世辞にも上手いとは言えないが、その時マリーが微笑んだ。


「お母さん」


 そう、マリーが呟いた。


「お母さんなら、ここにいる」


 俺はマリーの手を握って言った。

 マリーからの答えは無いが笑みが安心した物になったように思う。


 俺は食べるのも忘れて声が出る限り子守唄を歌った。

 そして、マリーが目を覚ました。


「いい匂い。お母さんの夢を見たわ。お母さんに言われたの。あなたを待ってる人が居るわって」

「そうか……」


 それっきり、俺は言葉が出なかった。


「お腹減ったわ」

「よし、飛び切り美味い物を食わしてやるよ。バナナ悪いがお使いに行ってくれ」

「もう少し寝るわ。食事が出来たら起こして」


 まだ、マリーの具合は悪そうだ。

 俺はバナナの到着を待って、おかゆに似た料理を作った。


「マリー、食事が出来たよ」

「美味しいね」


 とりあえず、マリーは目を覚ました。

 良くなると信じたい。

 俺の出来る事は、二度とこんな事が起こらないように殺し屋を始末する事だ。

 冒険者ギルドに殺し屋の情報を提供してくれるよう依頼を出そう。

 冒険者としての資格は凍結されているが、依頼は出せる。

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