第71話 手乗りライオン

 盗賊の話題も過去の話となりつつある。

 盗賊のとの字も出て来ない。

 俺はドラゴンの運送屋でしこたま儲けた。

 冒険者から文句がでると思ったのだが、重たい物はドラゴンでは運べない。

 穀物や鉄製品などは馬車で運んでいた。

 貴重品や量が少ないけど急ぐという人がドラゴンを使っている。

 とうぜん、バランスをとらないといけないという事で、ドラゴン便は値上げして馬車の二倍程度に落ち着いた。


 もう働かなくても良いかなと密かに思っている。


「ディザ、アクセサリーの在庫が少ないよ」

「分かった補充しておく」


 マリーとの店は完全に道楽となっていた。


「この新作のてんとう虫シリーズは可愛いね」

「お客さん目がお高い。当店のお勧めです」


 どこでそんな言葉遣いを覚えたのかマリーが一端の店員に見える。


「マリーさんが連れているバナナとっても可愛い。私も欲しいな」

「ディザ、ご指名よ」


「ポリゴンの仔ライオンは餌を食べず良く懐く。ペットに最適だよ」

「でも、もう少し小さくならない」


 うーん、縮小すれば手乗りライオンとかも出来る。

 やってみるか。


「【具現化】手乗りライオン」

「きゃー、かわいい」

「どう、気に入った」

「はい、この子を家に連れてきます」

「値段がね。ちょっと高いんだよ。さすがに銅貨10枚って訳にはいかないんだ」

「ええ、必ずお金、持って来ます」

「じゃあ、鳥かごに手乗りライオンを入れて、ご成約と貼っておくよ」


 手乗りライオンのかごに皆の目は釘付けになった。


「こっち見たよ」

「可愛い。癒される」

「貯めたお小遣いで足りるかしら」


 やべっ、値段決めてなかったよ。

 金貨1枚だと高過ぎか。

 ハムスターのような物だと考えたら、銀貨1枚が妥当だろう。

 久しぶりに創作意欲が湧いたぞ。

 この手乗りライオンが遊ぶ玩具を作ろう。

 中に入って車を回す奴だとか、ハイプだとか。

 斜めに木を固定して木登りや、プールなんてのもいいな。

 水槽もついでに作るか。

 透明なポリゴンを使えば水槽は容易い。


 さっそく作って見た。

 大型の熱帯魚が入りそうな水槽に本物の砂を入れて。

 遊び道具を入れる。

 そして手乗りライオンを10頭入れて、一頭で銀貨一枚の張り紙をした。


「うはー、何ですの。この可愛いのは」

「マガリーヌ、いらっしゃい」

「マリー、酷いですわ。新作が出来たら、真っ先に持って来てくれる約束」

「てんとう虫シリーズは届けたよ」

「もちろん、この可愛い天使の事に決まっていますわ」

「これ、今出来たばっかりなんだ。手乗りライオンって言うんだよ」


「仕方ないですわね。一人下さいな」

「一頭の間違いじゃなくて」


 俺は思わずそう言っていた。


「もう家族ですわ。一人に決まってます」

「おう、そうだね。お嬢様、水槽はどうする」

「もちろん、一式、買っていくわよ」


 おう、セレブ買いだ。


 俺はネコ科が好きなんだよな。

 あの滑るような骨が無いようなしなやかな動き。

 あれが堪らん。


 そうだ。

 手乗り虎とか手乗り豹とかも作ろう。

 作成依頼を出してと。


 水槽に虎と豹と黒豹が加わった。

 ライオンはもう既に半数が売れている。

 売れるの早いな。


「なんですの。この色違いは」

「仔虎と仔豹と仔黒豹だ」

「この子達も貰います」


 やっちゃう、あれを作っちゃう。

 禁断のあれを。


「じゃじゃーん。【具現化】手乗り仔パンダ」

「何ですの。この熊みたいな生き物は。きゅんと来過ぎて死にそうですわ」


 手乗りパンダを水槽に入れたら、店にいた全員が水槽の前に集まった。

 やべっ、調子に乗り過ぎだ。

 パンダの威力舐めてた。


「あー、一人一頭ね」


 俺は声を張り上げた。


「酷い、みんな欲しいのに」

「そうよ、横暴よ」


「うるさい。それなら手乗りパンダは金貨10枚にするぞ」

「えー、おたんなす」

「そんな事を言うと禿げるよ」


「禿げるのは嫌だから銀貨1枚で売ってやるけど、一人一頭は守ってもらう」

「仕方ないわね」


「押さなくていいから、在庫は十分あるから」


 金を持っている物はみな手乗りパンダを買っていった。

 金がない奴の根切りがしつこい。

 予約券を渡して帰ってもらったが、何となく小学校に業者が物を売りに来た光景を思い出した。

 買えないで指を咥える奴が何人かいた。

 前世では俺も買えない奴の一人だった訳だが、こういう光景は少しいたたまれない。

 分割払いみたいな制度を考えるべきだろうか。

 それとも銅貨10枚のアクセサリーにくじをつけるとか。

 それだと金持ちのチャンスは何倍にもなる。

 不公平を無くすのは難しい。

 俺が考える事でもないような気がする。


 しかし、パンダは禁断の技だな。

 やらなきゃ良かった。


「ところで、今日はどうしたの。てんとう虫シリーズの注文かな」


 マリーがマガリーヌに話し掛けた。


「大変ですわ」

「どうしたの」

「盗賊がまた出没し始めたのよ。お父様が被害に遭わないか心配でたまりませんわ」


 頭目が捕まらなかったから、また来るかもとは思っていたが、案の定だな。

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