第58話 人さらい組織、現る

「はぁ、嫌な時代になったもんだね」


 クランマスターの婆さんがため息混じりにそう言った。


「何かあったの」

「子供が消えたっていう依頼がてんこ盛りさ。冒険者が少なくって手に負えない」

「俺達にその依頼やって欲しいのか?」


「そうさね。受けて貰えるかい」

「良いだろう受けるよ」


 とは言ってみたものの。

 どこから手をつけるかな。


「ライオンさん、消えた子供を探して」


 ライオンはぴくりとも動かない。

 ヒントが少なすぎるんだな。

 消えた子供の家に行ってみるか。


 消えた子供は15人いるらしい。

 そのうちの一人の家にやって来た。

 門の前で声を上げる。


「ギルドで依頼を受けてやって来ました」

「帰った帰った。詐欺師が多くて困る。遂に子供の詐欺師まで現れたか」

「私達、詐欺師じゃないもん」

「マリー駄目だよ。聞く耳を持たない」


 次の家に行ったがそこでも追い払われた。

 二つの家に共通しているのは裕福な家庭だという事だ。

 行ってないが残りの家も同じだろう。


 身代金目的の誘拐かな。

 それなら、犯人から要求がありそうなものだ。


 このままでは埒が明かないな。

 囮捜査という言葉が浮かんだ。


「俺が誘拐されるから、マリーはクランマスターに知らせてほしい」

「駄目よ。現実的じゃないわ。眠らされているうちに事が終わるかも。隷属スキルなんて物もあるのよ」

「詳しいな」

「お母さんから教わったわ。人さらいは眠らせて抵抗できなくして。そして、隷属スキルを使うんだって。囮は私がやる」

「危険だ。許可できないよ」


「子供達を助けないと。奴隷にされるのは物凄くつらいって聞いたのよ。人さらいに会ったら、股間を思いっきり蹴り上げてやりなさいって言われたわ」

「しょうがない。上空からは鷹が、地上ではネズミに見張らせる。ついでにポケットにネズミを入れておこう」


 こんなんで大丈夫か。

 でもこれしか思い浮かばない。


「【具現化】鷹とネズミ。マリーを見張るんだ。もう一匹のネズミはマリーのポケットに隠れて。アジトを見つけたら帰って来い」


 それから、マリーを裕福な家の子供に見せる為、思いっきり着飾らせた。


「うん、お嬢様に見える。捕まったら怯えたふりをして、なるべく会話は少なくするんだ」

「分かったわ。任せて」


 マリーが街をぶらつく。

 俺が下手な尾行をすると犯人に警戒されるので、監視は鷹とネズミに任せる。


 マリーが歩くルートは打ち合わせてある。

 要所で俺はチェックを入れた。

 さらわれて欲しいような。

 さらわれて欲しくないような。

 そんなモヤモヤした気持ちで経緯を見守る。


 路地から大通りに出る場所で、マリーを待つ。

 遅いな。

 ちっとも来ない。

 一時間経過してもマリーが現れないので、誘拐が確定した。


 無事でいてくれ。

 祈りながら鷹とネズミの帰りを待つ。

 すぐにネズミが1匹帰ってきた。

 アジトは見つけたかの問いに首を振るネズミ。

 馬車を使われたのかの問いに頷くネズミ。


 馬車が使われたのか。

 街にはもう居ないらしい。

 そして、鷹が帰ってきた。


 アジトを見つけたかの問いに首を振る鷹。

 見失ったのかの問いに頷く鷹。


 上空からの監視は深い森になど入ると、どうしようもない。

 頼みの綱はポケットに忍ばせたネズミだ。

 祈るような気持ちで門のそばで待つ。

 日が暮れてもネズミは帰って来ない。

 深夜になり体育座りして待っていたら足がもぞもぞするので気がついた。


 やった、ネズミが帰ってきた。


「アジトは。アジトは見つかったのか」


 頷くネズミ。

 やったでかした。

 お前は俺の永久家臣だ。

 絶対に消さないぞ。

 それにもう任務にも出さない。

 目印に首にハンカチを巻いてやろう。


 名前も与えてやろう。


「お前はカルメだ。ネズミ軍団の長だ。16匹の部下を率いるんだ」


 どこか誇らし気なネズミ。

 こんな事をしていたらいけない。

 早く行動しないと。

 クランハウスに行き、閉まった扉を叩く。


「ディザだ。人さらいのアジトが分かった。扉を開けてくれ」

「うるさいな。何事だ」


 不寝番のクランメンバーが扉を開けてくれた。


「クランマスターを起こしてくれ。必要なんだ」


 それから、クランハウスは慌ただしくなった。


「ガセじゃないだろうね」


 夜中に起こされて少し不機嫌なクランマスター。


「絶対に大丈夫だ。Aランクの階級を賭けたって良い」

「よし、野郎ども出陣だよ。所在が分かっている奴を起こしに行きな。大急ぎだ。門番にはクランマスターが門を開けろって言ってたと伝えな」


 空が白くなる頃に人員が集まり出陣となった。

 朝早く門を開けさせられた門番が恨めしそうな顔で俺達を見送った。

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