第57話 塩漬け依頼を頼まれる

「ちょっと、依頼を頼まれちゃくれないかい」


 クランハウスの顔を出した俺はクランマスターの婆さんからそう言われた。


「一日ぐらいなら、いいよ」

「オーク退治なんだがね。詳しい事は現場の村で聞いとくれ」


 冒険者が少なくなった余波かな。

 Cランク程度の依頼だが、手が足りてないって事だろう。


「分かったよ。よし、マリー行こう」

「うん」


 車を走らせる事一時間、現場の村はどこにでもありそうなこれと言って見る価値のない村だった。


「煌めきの三連星が来たからには安心してほしい」


 村長の所に行ったら既に冒険者が三人居た。

 あれっどっかで見た事のある奴らだ。

 歳はどっから見ても少年だな。

 俺達ともそんなに離れていない。

 誰だっけ。


「げっ、ディザ」


 三人のうち一人が俺に気づき声を上げた。


「思い出したぞ。モンド、二コライ、レッドだな。俺に喧嘩で負けてその後に冒険者になった元浮浪者」

「最初は俺達が喧嘩に勝った。一勝一敗だ。その所を間違えるな」

「はいはい、お前らまだ駆け出しだろう。オーク退治は早いんじゃないかな。今のランクを言ってみろ」

「そ、それは」


 黙り込んだ三人。


「村長さん、こいつらの方が到着は早かったが、こいつらは駄目だ」

「そんな事を言ってもあんたの方が若いじゃないか」


 おう、俺の今の見た目を忘れていた。

 小学一年生だもんな。

 だが、俺は覚醒者だ。

 三人とは違う。


「俺は覚醒者だAランクだし安心して任せてほしい」

「そちらの三人はCランクで覚醒者だと言っていたぞ。どうもあんたらみんな怪しいな」

「ほらよ、俺のギルドカードだ。モンドお前も出せ」


 モンドはためらった後におずおずとギルドカードを出した。


「Aランクの方はその通りだが、もう一つはFランクじゃないか。あんたら信用できないな」


 俺まで疑われてしまった。

 どうすんだよこれ。


「お前ら、FランクなのにCランクを騙ってたのか」


「どうする」

「モンド、やばいよ」

「これを失敗したらもう依頼は当分、受けられない」


「Fランクの依頼なら腐るほどあるだろ」

「それが雑用依頼、採取依頼、護衛依頼、討伐依頼の全て失敗して。これだったら誰も受けないからって特別に許可してもらったんだ」

「依頼失敗のペナルティで依頼が受けられなくなって、どうにもならなくなっているのか」

「そうだよ。ちくしょう。狩りなんかしたことがないから、ウサギを狩って日銭も稼げない。肉体労働はまだ子供だからって雇ってもらえない。これが受けられなければ浮浪者に逆戻りだ」


「村長さん、聞いた。こいつらこの依頼が失敗すると飢え死にだって。依頼で死ぬのも飢え死にするのも、遅いか早いかだから、やらせてもらえないか。ほらモンド達も頼んで」

「お願いします。パンも食えないんです」

「依頼金は半分でいいです」

「嘘言ってごめんなさい」


「うーん、飢饉で食えなくなった時は辛かった。こんな子供に同じ目に遭わせるのも嫌だが、死なれるのも困る」

「大人の引率が居れば許可してくれる?」

「そうだな。大人がいればな」

「実は討伐で怪我を負って、喋れなくなった人が俺の師匠なんだ。今、連れて来る」


 俺は一旦、村から出て、鎧の戦士を具現化した。


「お待たせ。こちらが俺の師匠です」

「ほう強そうだ。これならオークも倒せるだろう」


 村長が納得してくれて、オークを畑で待ち伏せる。


「ディザ、来たよ」

「マリーに任せる」

「うん、ライフルの錆にしてくれるわ」


 ライフルでオークの眉間をぶち抜いた。

 5頭いたがどれも見事なヘッドショットで終わった。


「今回の件は貸しだからな。後で返せよ」

「分かったよ。冒険者は恩を忘れないもんだ」

「Fランクがいっちょ前ね。そういうのは一皮むけてから言うものよ」


 なんか、マリーの一言がいやらしい意味に聞こえる。

 たぶんマリーは意味を知らないで使っているんだろうな。

 お母さん、お願いしますよ。

 娘さんに変な言い回しを教えないで下さい。

 まあ、普通の意味なら問題ないから、訂正はしないけど。

 死んでいる人に文句を言っても始まらない。


「何を。生意気だぞ」

「ライフルの錆になりたいの」

「モンド、相手が悪いよ」

「ちくしょう、強くなりたいぜ」


 頑張れよ、少年。

 モンド達を車に乗せて街まで戻る。

 街からタルを満載した馬車が何台も出て来た。

 酒蔵でもあって酒でも大量に運びだしたのかな。

 仕事が終わった後の一杯を飲める歳に、早くなりたいもんだ。

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