第56話 街を歩く

 一日一件の薬草採取の依頼は順調だ。

 着実にポイントが貯まっていく。

 シェードからの干渉はない。

 実に静かなものだ。


 午前中に薬草採取を終えて、俺とマリーは午後の街を歩いた。


「納品に来たよ」


 着いたのは土産物屋だ。


「ご苦労さん」

「在庫はまだある?」

「ふわふわ浮く奴がもうないね」

「じゃ今出すよ。【具現化】八面体」


「最近は人相の良くないのがうろついているから、気をつけなよ」

「へぇー、盗賊かな」

「身なりは普通で、武装もしてないし、盗賊には見えない奴らだよ」

「ほう、当てはまるのは詐欺師かな」

「それだと上手い話に気をつければいいから安心だけど、ちょっと不気味さね」


「今日は新作を持ってきたんだ。【具現化】知恵の輪」

「これはなんだい」

「カチャカチャ動かして外れたら、正解という遊びだよ」

「面白いね」

「いくつか置いておくから、じゃまたね」


 ふーん、人相の良くない男か。

 考え事をしていたら石屋の前に来ていた。


「坊主、久しぶりだな。また石のタイルを売りにきたのか」

「せっかく来たんだから、置いていくか。【具現化】石のタイル」


「嬢ちゃんも綺麗になったな。これだとしっかりつかまえておかないと、さらわれるかもな。がははは」

「マリーは強いのよ。魔獣を何匹も倒したんだから」

「悪い悪い、気分を悪くしたか。それだけ嬢ちゃんが美人って事だ」

「褒めても好きになったりしないよ。ディザ、美人だって」

「マリーは可愛いよ。じゃ、おじさん行くね」

「また石のタイル売りたくなったら、いつでも来い」


「マリー、クランハウスに寄ろう」

「うん」


 昼のクランハウスに人は少なかった。

 テントとカンテラとジャンプ傘を補充して、事務のお姉さんに話し掛けた。


「商品を補充しておいたよ。何か伝言は入ってる?」

「特にないわね。そうそう、クラン・デスタスのメンバーが帰ったそうよ」

「それは知ってる」

「Aランク依頼を根こそぎ受けたものだから、このクランのAランクはみんな遠征に出ちゃって寂しいな。ディザ君は遠征しないわよね」

「うん、遠征はやったばかりだからね」


 ここの用事はもういいな。

 タルコットさんへの雑用を片付けよう。


「ええと失敗だな」


 空き地で草刈り機を使った結果、俺はしょぼくれた。


「消えちゃったね。草刈り機」

「そうなんだよ。刃が大きい石に当たったらご覧の有り様だ」

「こうなったら、刃のパーツは別売にしよう」


 ええと、草刈り機にネジ穴を開けて。

 うがぁ、螺旋のモデリングがめんどくさい。

 ええと、円運動しながら、へこます。

 これにぴったり合うネジを作るのはどうやったら。

 隙間がないと入らないよな。

 かといって合ってないと固定が上手くいかない。


 ムービーを作る目的なら、ネジとネジ穴が合わなくても問題ない。

 ただ具現化してあると無理だ。

 こんなのやってやれっか。


 作成依頼を出そうっと。


「刃のポリゴン数も増やしたし、これで大丈夫のはずだ」

「私にも使えるかな」

「子供用のを作るよ」

「これで庭の手入れもばっちりね」


 うん、大ヒット商品の予感。

 今度、冒険者ギルドにも売ってみよう。


 商業ギルドに行く。


「配送依頼お願いします」

「偉いわね。たしかこの間も来てたわね」

「うん、実は俺が商売をしているんだ」

「大人をからかっちゃいけません」


 本当なんだけどな。

 まあいいか。


「これからもちょくちょく来るから、よろしく」

「はい、よろしくされました」


 指定された倉庫に行って具現化した商品を箱詰めする。

 馬は厩に繋いだ。


 冒険者ギルドに納品に行く。


「お姉さん、こんにちは」

「こんにちは。納品ね。魔法カードと振動包丁を100個。倉庫にお願いね。それと鷹は便利ね。増やせない?」

「うん、簡単だよ。【具現化】鷹。手紙を運ぶ仕事をしろ」

「ありがとう。助かったわ」


「じつはこんなのも作ったんだ。【具現化】草刈り機」

「なんの道具?」

「草を刈る道具なんだけど、冒険者に需要あるかな」

「うーん、一般家庭向けね。それも庭持ちのね」

「野営に持って行けたら良いのに。野営に草が邪魔って事はよくあるのよね。草があると蛇なんかが近づいても気がつかないから」

「なるほど、それなら」


 モデリングを立ち上げ草刈り機を組み立て式に改良する。

 エンジンで動いている訳じゃないので、ぶった切っても問題ない。

 鞄に収まるぐらいの大きさになった。


「【具現化】組み立て式草刈り機」

「良いわね。これなら馬に載せたり出来るわね。いくつか置いてみるわ」


 冒険者ギルドの中に冒険者がいつもより少ない。

 Aランクが居ないのは分かるけど、他はどうしたんだろ。


「お姉さん、冒険者が少ないようだけど」

「Aランク達の遠征に、みんなついて行ってしまったの」


 へぇー、そういう事もあるか。

 何か嫌な予感がする。

 気のせいかな。

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