第45話 査察
ライオンが依頼の薬草を咥えて、無事に帰ってきた。
よしよし、数も減ってないな。
薬草を納品に行ったギルドがピリピリしている。
ピリピリしているのは職員だけで、冒険者の雰囲気は普通だ。
「お姉さん、何かあったの」
俺が受付嬢に話し掛けると受付嬢は声をひそめた。
「抜き打ちの査察が入ったの」
「それは大変だ」
たぶん業を煮やしてシェードがやったのだろうな。
「なんでも投書があったんだって」
本部との距離を考えると、
それにしても本部の職員も行動が早い。
早馬を飛ばしてきたんだろうか。
「ちょっと計算が合わないな。査察官は馬で来たのかな」
「
はい、シェードの企みだと発覚。
「それで、不正の証拠は出たのかな」
「いいえ。見張り塔の建築を調べているけど、安いのが気に食わないみたいで。ギルドマスターが生産系の覚醒者を舐めたらいかんと一喝したら、大人しくなったのよ」
「それなら、解決じゃないかな」
「それが、まだ居座っているの。後ろで目を光らせてね」
ああ、あの偉そうにふんぞり返っている眼鏡の男か。
まだ、一波乱ありそうだな。
「これ、依頼の薬草」
「本当に3日以内に持って来たわね」
「従魔が優秀なもので」
「良いわね。部下が優秀で。私の後輩なんか査察官に見られて、緊張してしまって朝からミス連発だわ」
「早く居なくなると良いね」
「まったくだわ」
俺が張り出された見張り塔建設の依頼書を取るといつの間にか査察官が後ろに来ていた。
「君が生産系の覚醒者か。その金額で不服ではないのか。不満があるなら言ってみなさい」
「一瞬で出来るから、人も必要ないんだ。材料もスキルが出すからこれでも高いぐらい」
「ふむ、そうか。可哀そうに騙されているんだ。それとも裏金で補填されているのかな」
「寄付してくれた人の考えに感動したんだ。お金は二の次なんだよ」
寄付した人も俺だがな。
お金が関係ないのは嘘じゃないけどな。
「ふん、平民はこれだから。労働の対価というのは正しく算出されなければいけない」
「事務仕事はお断りなんで。計算はギルドに任せてるよ」
「もう良い」
査察官は俺の答えがお気に召さなかったようだ。
ぷりぷりしながら去って行った。
一仕事終えた俺とマリーはポリゴンの着ぐるみを着て、街をぶらついていた。
今日のねぐらはどこの空き地にしようかな。
表通りから一本奥に入った道で、男が襲われているのを発見した。
「【具現化】鎧の戦士。あの男を助けてやって」
襲っていたのはチンピラだったらしく、鎧の戦士を見たら逃げて行った。
襲われていた男を見ると、なんと襲われていたのは監察官だった。
さて、着ぐるみだと喋れない。
鎧の戦士も喋れない。
困ったぞ。
苦肉の策で俺は喉仏の所を押さえて変な声を出す事にした。
「あー、危なかったな。ごほごほ」
「やはり、私の勘は間違いなかった。見張り塔建築には不正がある」
「聞いた話なんだがよ。見張り塔の建築費用を寄付してくれた人は大金持ちで、匿名になっているそうだ。ぐぇ」
喉を強く押さえてしまった。
「ぐぇ?」
「失礼、なぜかというと盗賊団に命を狙われているらしい。きっとあんたが寄付した人の居場所を知っていると思ったんだろうな。この街にいる限り狙われ続けるぞ」
「なんと、そんな裏が。私は帰る。この街のギルドには不正はなかった」
ちょろいおっさんだ。
ころりと騙されやがった。
チンピラはシェードの手の者かな。
それともただの物盗りか。
まあいいや。
この監察官が手を引けば。
この監察官が帰って盗賊団に狙われているなんて話が広まったら、次に来る人はいないだろうな。
それか、もっとまともな人が来るに違いない。
不正の証拠なんてないのだからな。
あるとすれば俺がポイント稼ぎをしているぐらいだ。
だがギルドの規約に、自分で出した依頼を自分でやったらいけないなんて物はない。
それには理由がある。
寒村から助けを求められた時に、同情した冒険者が依頼料を負担してやる事がまれにある。
とうぜんその依頼は負担した冒険者がやりたがる。
だもんで、禁止するルールはない。
依頼金の一割はギルドが取るし、依頼が問題ないかギルドで精査する。
まあ、そういう訳だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます