第46話 仕方なく護衛依頼を受ける

 門の外で俺とマリーはライオン達の帰りを待っていた。


「どうしたの」


 俺の表情が曇ったのが分かったのだろう、マリーが尋ねた。


「薬草採取に出したライオン達が帰ってこない」


 そろそろ帰って来てもいいはずだ。


「探すのに手間取っているんじゃないの」

「そうだと良いんだが」


 その時、ライオンが一頭だけが帰って来た。

 何か言いたそうなライオン。

 喋れないのがこんなにもどかしいなんてな。


「魔獣に襲われたのか」


 首を横に振るライオン。


「もしかして人に襲われたのか」


 頷くライオン。


「ちくしょう、やられた。シェードの野郎の仕業に違いない」

「どうするの」

「仕方ない薬草採取依頼はキャンセルだ」


 ギルドに行くとシェードが居て、俺がライオンに頼んだ薬草を換金してた。


「その薬草どうした」

「落ちていたので、拾ったよ」


 黒だな。

 だが、証拠が無い。


「そうか、拾い食いとは結構な事だ」

「僕は側室の子供なのでね。貧乏なんだ」

「俺なら落し物は落とした人に届けるな。ネコババはしない。泥棒だもんな」

「ああ、名前が書いてなかったものでね」

「言ってろ。マリー、行くぞ」

「うん」


 尻尾は出さないか。

 俺を挑発しているのは知っている。

 俺が剣を抜いた瞬間にクラン・デスタスのメンバーが俺を返り討ちにするのだろう。

 少し離れた所で、油断なく目を光らせているのが分かっていた。


「お姉さん、薬草採取は全部キャンセル」

「あら、ペナルティで薬草採取は受けられなくなるけど良いの。期限が過ぎたら依頼は失敗になるけど、依頼によっては遅れてもペナルティが発生しないわ」

「良いんだ。当分、薬草採取は受けない」


「それなら、Aランクの依頼があるわ」

「確認してみる」


 掲示板を見るとAランクの護衛依頼が一つ貼ってあった。

 おかしいだろ。

 シェードが俺より先に依頼をチェックしないはずはない。

 罠だ。

 絶対に罠だ。


 盗賊をけしかけてくるのだろうか。

 それなら依頼達成に自信がある。

 受けるべきか。

 受けるべきなのだろうな。

 死中に活を求めよう。


 依頼書を剥がして受付に持って行く。


「これ受けるよ」


 俺達が手続きをするのを遠くで、シェードが観察している。

 手続きが終わる頃にはシェード達の姿はなくなっていた。


「はい、手続きは終わったわ。気をつけてね」

「ああ、分かっているよ。何かトラブルの予感があるけど、平気さ。トラブルがあると分かっていれば油断が無い」

「そうね。油断が一番怖いわ」

「じゃあ、行ってくる」


 待ち合わせの場所は倉庫街だった。


「ええと、13番倉庫と。あった。ここだ」


 タルみたいな体型の温和そうな商人が待っていた。

 隊商は3台の馬車で構成されているようだ。


「君たちが依頼を受けてくれたのかな」

「もし、気に入らないのなら、断っても良いよ」

「ふむ、私は人を見る時に服装を見る。浮浪者が豪華な服を着ていても貴族と同じかと問われた場合。答えは着こなしに差が出ると言っておこう。浮浪者が豪華な服を着てもどこかにだらしない所が出る。そう思っている」

「それで俺達は合格なのかな」

「ふむ、分からない。こんな事は初めてだ。何が分からないと言えば。お嬢さん、腕につけているアクセサリーはなんだ」


「ディザがプレゼントしてくれたの。時計よ」

「あの一抱えもある大きさの時計がこの大きさ?」

「ああ、俺がスキルで作った」

「売れる。これは売れる」


「そんな事より、俺達は合格なのか」

「合格だとも。この縁を逃すなど考えられない」


 結局、服装を見るという話はなんだったのだろう。

 合格なら、まあいいか。


 腕時計は前に作って売り出すのをすっかり忘れてた。

 今なら作成依頼で洒落たデザインの腕時計が作れるはずだ。


「男女でデザインを変えられるよ。宝石もどきを埋め込んだ奴とかも作れる」

「マリー、お花が文字盤に描いてあるのが良い」

「子供用ってのもありだな」


「素晴らしい。社交界に旋風を起こせるぞ。そうだ君たち名前は? 私はタルコットだ」

「ディザだ」

「マリーだよ」


「それでは、道中で商談といきましょう。さあ馬車に乗って」


 護衛は良いのかよ。

 まあ俺達は馬車の中でも、ライオンが外で見張っているしな。

 しかし、戯れに作った腕時計がこんな所で役に立つとは。

 世の中、何があるか分からない。

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