第36話 ゼット犯罪者になる

 冒険者ギルドに行くとみんな顔は一様に明るい。

 スタンピード鎮圧に協力した者はボーナスが出るからだ。

 特に今回は素材もたんまり採れた。

 ボーナスは頭割りなので駆け出しにも優しい。

 死ぬ確率は低ランクほど上がるから、バランスが取れているとも言える。


「こいつ、俺達を殺そうとしやがった奴だ」


 見るとゼットが冒険者達と揉めている。


「ふん、平民などいくら死んでも構わん。それに俺は覚醒者様だぞ」

「知ってるぞ。こいつのスキルは逃げ足。臆病者のスキルだ」

「愚弄するか」


 あーあ、剣を抜いちゃって。


「剣をただちに収めなさい」


 受付嬢が警告を発した。


「こいつらは俺様を愚弄したんだ。万死に値する」

「従わないのですね。ギルド職員の権限であなたを除名処分にします」

「なんだと、もう一回言え」


「何度でも言います。除名処分です」

「くそう」


 ゼットは受付嬢に逆上して斬りかかった。

 近くに居た冒険者が鞘のまま剣を受け止めた。


「警備兵を呼んで下さい。殺人未遂です」

「くそう。【逃げ足】」


 あーあ、逆上しちまって、お尋ね者になっちまったな。

 どこまで落ちていくのやら。


 これでゼットの顔を見なくていいのかと思うとせいせいするな。

 ダンジョンの入口を探すにあたってオフロード車のモデルを買った。


 車がでかいと6人でも悠々と座れる。


「まだ、着かねぇのか」

「ライオンの足で3日ですから」


 えーと、痕跡を探しながら歩くとすると、平均で赤ちゃんがハイハイする速度ぐらいか。

 そうなると車だと1時間ぐらいかな。

 意外に遠いな。


「そろそろ、近いみたいです。木が邪魔でこれ以上は車では進めません」

「しゃあねぇ、徒歩で行くぞ」

「おう」

「仕方ないわね」

「ディザ後輩、ご苦労」

「山登りだぁ」


 ライオン500頭を護衛に山を登る。

 枝はフライングソードが掃ってくれるので楽なもんだ。

 程なくして目的地に着いた。

 ダンジョンの入口は岩山の天辺にある。

 通りで見つからない訳だ。

 こんな所でロッククライミングするとは思わなかった。


 最初ゴブリンの兆候が見られなかったのは、きっと岩を降りる手段がなかったからだ。

 大きい体のオークしか降りれなかったのだろう。

 岩の所々に階段が刻まれている。

 オークが作ったんだな。


 ライオンの護衛が器用に岩を登り、次々にダンジョンの中に消えて行く。

 ライオン10頭のグループにこの場所の地図を持たせた。

 ギルドまで届けてくれるだろう。


「ここは一つ、早い者勝ちって事にしねぇか」

「おう良いぜ」

「面白いわ」

「もとよりそのつもりだ」

「じゃ、それで」


「フライ。私が一番乗りね」


 アンリミテッドがフライの魔法でダンジョンに飛び込んだ。


「慌てる乞食は何とやらだ」


 剣聖は危なげなくひょいひょいと跳んでダンジョンに入った。


「【流動】風よ持ち上げろ」


 王打おうだは風を操りふわりとダンジョンに入っていった。


「スライム変身」


 ジュエルスターは透き通ったスライムに変身して岩を登って行く。


「マリー、足場が悪いから気をつけて」

「うん」


 俺達はゆっくりと登り始めた。

 ダンジョンの中は暗く、俺は永遠に燃えるカンテラを作って照らした。

 洞窟の通路は血しぶきが所々に跳ねている。

 戦闘の跡を思わせる。


 戦闘音がするのでその方向に行ってみたら、ライオンがオークと戦っていた。

 ご苦労様。

 経験値をたっぷりと稼いでくれよ。


 俺はマリーに機関銃を渡した。

 これは、弾が飛ぶアニメーションが3メートルの距離しかない。

 しかし、連射性能はばっちりだ。

 弾が岩に当たると銃が消えるので、わざと短い射程になっている。


 マリーが機関銃を乱射する。

 ライオンにも当たりオークが死ぬと共に光になって消えていった。


「失敗。失敗」

「連射すると色々な場所に当たるから、気をつけて」

「うーん、ライフルに比べるといまいちね」

「岩に当たっても消えない武器か」


 硬い金属を再現した武器が良いのだろうけど。

 そんなのあったかな。

 ここは一つ逆に考えよう。

 柔らかいもので威力があって使いやすい。

 火炎放射器だ。


 魔法テクスチャーを炎に貼れば実現可能だ。


「【作成依頼】火炎放射器と炎のアニメーション」

「作成料として金貨5枚を頂きます」

「分かった」

「作成完了」


 ええと、大人用の大きさだから、小さく縮小して子供用にと。


「【具現化】火炎放射器。どうぞ」


 マリーは火炎放射器をしょってノズルを前に向けた。


「えい。炎の鞭が伸びるのね。派手で気に入ったわ」


 機関銃は俺が使おう。

 前衛はフライングソードに任せれば良いだろう。

 さてと実戦といくか。

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