第26話 剣を売る

「納期までには必ず終わります。任せて下さい」

「そう言って一週間だ。納期は後三日だ。一本も出来てないが、大丈夫だろうな」

「ええ、必ず」


 ギルドで上に何も着ていない角刈りの半裸の男と職人らしき人が話している。

 なんかまた濃ゆい人だ。

 巻き込まれるの嫌だな。

 逃げておこう。

 入口に引き返して外に出て中の様子を窺う。

 その時、さっきの職人が出て来て俺にぶつかった。

 悲しいかな子供の体格では大人に敵わない。

 俺は尻餅をついた。


 職人の目が俺の剣に釘付けになる。


「これはどこの工房ですか。紹介して下さい」

「いや、俺が作ったんだけど」

「スペアはあります」

「あると言ったらある。ないと言ったらない」


 モデルは既にあるからスペアを作るのは容易い。


「どっちですか」

「何本でも作れるってのが正しいかな」

「おお素晴らしい。神の導きに違いない。その剣を10本売って下さい」

「話によっては売るよ」

「こんな所で立ち話も何ですから、工房にいらして下さい」

「分かった。マリー、行くよ」


 ギルドの中に声を掛けるとマリーが走って来た。

 またもや俺にぶつかり俺は尻餅をついた。

 俺ってもしかして貧弱なのか。

 いや、たまたまだ。


 工房は表通りの一等地に建っていた。

 立派な建物でさぞかし儲かっているのだろうと思う。


 中に入ると職人が何人も働いていて、俺達は商談用の小部屋に入り腰をかけた。


「10本の剣を寸分たがわず仕上げてほしいと大軍様から注文を受けたのですが、職人が失恋しまして」

「役に立たなくなったと」

「失恋は悲しいわ。お母さんもよく食欲が爆発してた」

「人によって症状は色々さ」


「職人さんは仕事が嫌になっちゃったの?」

「ええ、8本までは仕上げたのですが」

「これから10本は仕上がらないと言う事かな」

「そうです」

「儲かりそうだから、作ってやるよ」


 俺は剣10本をポリゴンで作った。

 職人が喜びの表情を見せる。


「ありがとうございます。おや、誰か来たようだ」


 怒鳴る声が聞こえてきた。

 耳を澄ますと何やら聞き覚えが。

 ゼットの野郎じゃないか。


「宙を飛ぶ剣を寄越せ」

「手前どもは魔道具の類は扱っておりません」

「ここは街一番の工房だろう。なら看板を下ろせ」

「そんな無体な」


 俺はお茶のおかわりを注ぎに来た職人見習いに話し掛けた。


「今来ている迷惑な客を俺ならあしらえる。伝言を伝えてくれるかな」


 俺はある事を囁いた。

 見習いから作戦を聞いた職人が戻ってきた。


「この剣を売りつけると良い」

「ありがとうございます」

「なに良いって。取り分は俺9のこの工房が1ね」

「はいそれはもう」

「じゃ行って」


 職人がゼットの元に戻る。


「黒い笑みのディザも好き」

「そうかな。悪い顔してたか」

「うんしてた。お母さんもたまにそういう顔してたよ」

「しー、ゼットが話している」


「この剣は気高い剣なのです。持ち主を選びます。持ち主にふさわしくないと剣が判断したら逃げる事もありえます。よろしいですか」

「俺様なら使いこなせるはずだ。早く寄越せ。どうやって使うのだ」

「剣に触れて念じればいいのです」

「おお、こうか。素晴らしい」


 満足したゼットはお金を払い帰って行ったようだ。

 ふふ、仕返しだ。

 ゼットがピンチになった時に剣を消してやろう。

 きっと大慌てするはずだ。

 漏らすかもな。

 今からその時が待ち遠しい。


「大軍様にこれから納品に行きます。一緒についてきてもらえないでしょうか」

「ちょっと嫌だな。あの人なんか危ない匂いがするんだよね」

「そう言わずに。取り分1、9で良いので」

「しょうがないこれも金の為だ」


 ギルドの酒場で大軍さんは飲んでいた。


「大軍様、剣が仕上がりました」

「見せて見ろ。ほう美しい剣だな。【多腕】アーミースラッシュ」


 背中から8本腕が生えてきて、10本全ての剣を抜き別々の動きを見せる。

 大軍の通り名はこの多くの手から名付けられたのか。


 10本の剣で攻撃力10倍なんだろうけど。

 でも、剣聖さんの方が凄いかな。


「重い。軽く出来ないか」

「出来るよ」


 俺は剣の重さをなしにしてやった。


「いいな。とても良い。アーミースラッシュ」


 剣の風切り音が凄い。

 これなら剣聖さんに対抗できるかも。


「気に入った。今度からうちのグループの剣はお前の工房に任せる」

「えっ本当ですか。それはありがとうございます」

「坊主、良い職人だな。名前を聞いておこう」

「ディザだ」

「何か相談事があったら俺の所に来い」

「その時は」


 濃ゆい人だと思っていたが普通に良い人だな。

 上半身裸の意味も分かったし。

 いい仕事だったのかも。

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