第20話 クラン加入

 俺達は討伐を続けCランクになった。

 クランに正式加入となった。

 別に儀式とかはない。

 顔もみんな知っているので紹介もしない。

 クランマスターが一言、加入したよと言っただけで終わった。


 商売も上手くいっているし、討伐も今のところ問題はない。

 平穏無事だな。


 ある日、クランの待機室にいると高校生ぐらいの若い男が入って来た。


「俺様をクランに加える栄えある栄誉をあげよう」

「誰だお前」


 クランメンバーの一人がそう言って睨みつけた。


「俺はゼット・バッファ。バッファ家、嫡男なるぞ」


 あの男どこかで見たことがある。

 ああ、糞親父の息子か。

 ディザの異母兄弟だな。

 もっともあっちは正妻の子だが。

 何の用だろう。


「寝言は寝て言え。お前、ギルドで一回も見たことがないぞ。冒険者なのか」

「まだ加入はしていない。しかし、俺様の能力があればSランクは堅いだろう」

「ほう、覚醒者か」

「いや、覚醒などしておらん。しかし、容易い事だ」


「一昨日来な」

「クランマスター」


 騒ぎを聞きつけてクランマスターの婆さんがやって来た。


「なぜだ」

「クラン・ヴァルドは実力主義だ。貴族の坊ちゃんはママのおっぱいでもしゃぶってな」

「侮辱したな。後で後悔しても遅いぞ」


 こんな奴と半分でも血が繋がっていると思うと嫌になる。


「そこにいるのはディザじゃないか。お前はなぜここに居る」


 厄介な奴に見つかった。


「このクランのメンバーだからだ」

「はっ、お前がか。役立たずで捨てられたお前がクランメンバーだと「ディザは凄いもん。無敵だもん」」


「女、話を遮ったな」


 ゼットが剣を抜いてマリーに切りかかる。

 俺は腰に刺したポリゴン剣をアニメーションで抜いて受け止めた。


「この剣はお前がやったのか」

「悪い事は言わない明るいうちに家に帰れ」

「黙れ。俺に命令するな」


「エンペラー5号来い」


 エンペラー5号が入って来てゼットの前に立ちふさがる。


「威嚇だ」


 吠えるアニメーションと噛みつくアニメーションをする。


「くそう、覚えてろよ。剣の魔道具にペットの魔獣など俺なら簡単に手に入る。ディザに勝って、俺の方がクランにふさわしいと認めさせてやる」


 ゼットは足音を立てながら、クランハウスを去っていった。


「ディザ、あの男と知り合いかい」


 そうクランマスターが尋ねた。


「不肖の兄貴なんだよな。認めたくないけど」

「ああいう男はしつこいよ。気をつけるんだね」

「ああ、分かった」


 ゼットはどういうつもりなんだろう。

 まずは情報を調べないと。

 ディザの記憶によるとあの兄貴とは食事も一緒にした事がない。

 挨拶もだ。

 たまに廊下ですれ違う事があっただけだ。

 接点はほとんどない。

 たしか学園に通っていたはずだ。

 ああ、今年で卒業か。

 騎士団から声が掛かるとか。

 内務省から声がかかるとか。

 自慢してたな。

 どこからも声が掛からなかったと見た。

 なんだ、就職浪人かよ。


 冒険者ギルドをこそっと覗く事にした。

 ゼットは今受付と揉めている風だった。


「なぜ、俺様をSランク登録しない」

「規則ですから。出来ませんと何度言ったら。推薦状を持って来て下さい」


「俺様の名前が推薦状代わりだ」

「いくら貴族様でも、ギルドの規則を曲げられません」

「おい、いくらでも金を出す。俺様をSランクに推薦しろ」


 おお、場が静まり返った。

 意外な才能だ。


 ゼットの背後で誰かが大笑いした。


「今、笑った奴出てこい。切り捨ててくれる」


 剣を抜いて振り返るが、誰も名乗り出ない。

 そして、ゼットの背後から、また笑いが。

 振り返るゼット。


 そして、笑い声の渦が起こる。


 おー、笑われているな。

 自業自得とも言えるが。


「この屈辱。絶対に忘れん」


 大股で、ゼットは冒険者ギルドを出て行った。

 俺はこそっと後をつけた。

 次に門を叩いたのは傭兵ギルドだった。

 傭兵を金で雇おうという事か。


 上手くいくかな。

 しばらく入口を見張っていたら、太った男と片目の男と一緒に出て来た。

 そして、再び冒険者ギルドへ。

 結果は見なくても分かる。

 Fランクスタートだろう。

 傭兵が推薦してくれてもCランクがいいところだな。

 冒険者登録している傭兵は多いとは言え、二つのギルド両方で高ランクはあり得ないと思う。

 大人しく冒険者をしてくれると良いな。

 でもやらかす確信が俺にはある。

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