第2章 遠征編

第21話 遠征に出る

 ゼットの悪評が物凄い。

 依頼主と揉めたなんてのはまだ良い方。

 ラストアタックをして、獲物を横取り。

 護衛依頼をすれば一緒にやる事になった他のパーティの女冒険者に言い寄るなど、やりたい放題だ。


「愚弟よ、まだ冒険者をしていたのか。なぜ、俺様が苦労していてFランクなのに、お前はCランクなのだ。さては寄生でもしているのだろう。バッファ家の面汚しめ」


 会って早々ギルドでこんな事を言われた。

 愚弟なんて言うなよ。

 血が繋がっているのがバレバレじゃねぇか。

 マリーが物凄い形相でゼットを睨んでいる。

 口答えするとゼットが怒るので、マリーにはゼットと喋るなと言っておいた。


「あなたとはもう兄弟でもなんでもない。放っておいてくれ」

「ふん、さては後ろめたい事があるな」


 俺は言葉を無視して依頼が貼ってある掲示板を眺めた。


「無視しやがって、覚えてろよ」


 こんな毎日を送ると、社畜精神でも限界がある。

 そうだ、遠征に出よう。

 他の街に出稼ぎに行けば、糞兄貴の顔を見ないで済む。


 お使い依頼が出来なくなるのは心苦しいが、精神衛生上この街は良くない。

 マリーの教育にとっても良くない。


「クランマスター、遠征に出るよ」

「そうかい、達者でな。一年に一回ぐらいは顔を見せるんだね」

「たまに寄らせてもらうよ」


 クランマスターとの挨拶も済んだし、早くこの街を出たい。

 マリーと二人オープンカーに乗って、ライオンを3匹と旅に出た。


「エンペラー4号なんて名前は可愛くないから、変えても良い」

「好きな様にしていいよ」

「じゃ、バナナ」

「バナナか。そう言えば少し色が似ているな」

「よし、エンペラー3号とエンペラー5号も改名しよう。何が良いかな。イオとカリストにしよう」


 木星の衛星から取った。


「見て見て、街が見えた」

「地図によるとあそこが目的地のルコスだな」


 新しい出会いなんかがあると良いな。

 門に到着。

 オープンカーを消して列に並ぶ。

 しばらくして俺達の番になった。


「こいつはお前達の従魔か」

「ええ」


 本当はスキルで出しているが説明がめんどくさい。


「強そうだな。分かっているだろうが、街の中で暴れさせるなよ」

「はい」

「バナナは賢いもん。暴れたりしないよ」

「そいつは悪かった。でも決まりなんでな。よし、通っていいぞ」


 宿を取ってギルドに顔を出す。

 ギルドはカウンターがあって依頼の掲示板がある。

 そして、酒場が併設されている。

 どこの街のギルドも変わりないな。


「昨日、クラッシャーさんと夜通し飲んだぜ」

「俺、大軍さんのグループに入ろうかと思っているんだ」


 会話に通り名が飛び交うのはどこのギルドも同じだ。

 活躍する人は通り名がある人達が圧倒的だからな。


 聞いていたところ、良く出てくるは『暴風』、『極速きょくそく』、『クラッシャー』、『大軍』の四人だ。

 この街ではこの四人が有名らしい。

 いずれもSランクで、クラン・デスタスに所属しているとの事。


「あら、可愛い子がいるのね」


 ボンテージファッションに身を包んだ女が立っていた。

 マリーを見る目が獲物を見る目だ。

 肉食獣の雰囲気がある。


 マリーが何かを察して俺の後ろに隠れる。


「何か用」

「男はお呼びじゃないわ。子供と言えどもね。股にぶら下げている物を取ってから出直しな」


 うわ、なんか濃い人だな。


「俺達は急ぐので」

「私は可愛い女の子とお喋りしたいわ」

「マリー、話したくない」

「マリーちゃんというのね。後10歳ほど経ったら食べ頃かしら」


「マリー、行くよ」

「ちっ、これだから男は」


「子供ってのは度胸があるな。あの暴風さんを前にあの態度。流石に暴風さんでも子供を半殺しにはしないか」


 と冒険者が言っているのが聞こえた。

 あれが暴風か。


「暴風さんってどんなスキルを持っているの」

「おう、勇気のあるガキか。耐性スキルだな。どんな攻撃にも耐えちまう。魔法でも物理でも毒でもなんでもだ」

「それじゃ無敵なんじゃない」

「それがな。一度に使えられる耐性は一種類。同時に違う種類の攻撃を仕掛けりゃダメージになる」

「なるほど」

「でもな、ダメージを負っても傷耐性に切り替えられると回復しちまう。厄介な人だよ」


 時間を置かずに色々な攻撃を切り替えるか。

 物理一辺倒の俺の攻撃では倒せそうにないな。

 まだ明確に敵になると決まった訳じゃないけど。


 冒険者がよくならず者と呼ばれているが、それが頷ける人だ。

 近寄りたくないが、マリーと一緒だと寄ってきそう。

 トラブルは御免なんだけどな。

 クラン・デスタスは要注意なのかも知れない。

 そう思うとクラン・ヴァルドは良い人の集まりだったな。

 剣聖さんとかは少し脳筋だけど。

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