第19話 去る人、来る人

「また、お使い依頼と薬草採取と魔獣討伐を同時に受けるつもり。お姉さんは体を壊さないか心配」


 ギルドの受付でそう言われた。


「手下がいるんで」


「依頼を代行して受けるのは規則違反よ」

「じゃ、紹介します。エンペラー4号、来い」


 ギルドの外で待たせているエンペラー4号呼んだ。


「きゃー、何よあれ。可愛くってとろけそう」

「手下だよ」


「触っても良いかな」

「触り心地は良くないけど、それでいいのなら」

「やった」


 お姉さんはカウンターから出て来てエンペラー4号を撫でくり回した。


「ほんと、硬いのね」

「そこらへんは要改造ってところです。これで依頼を受けて良いですか」

「この子がお使いするのよね。薬草採取は危ないと思う。まさか死んでも代わりがいるとか言わないわよね」


 どこのアニメの話だ。

 まあ、死んでも代わりはいるけど。


「薬草採取は大きいのが担当します。エンペラー5号、来い」

「この子が大きくなるとあんなのになるのね。がっかりだわ。いつまでも小さいままでいてほしいな」


 エンペラー5号を見て受付嬢はため息を漏らした。

 大きくはならないけど、言わぬが花だろう。


 エンペラー4号にお使いするように言いつけ。

 俺達は門の外に出る。

 門の外ではエンペラー3号が採取した薬草を持って待ち構えていた。


「ありがとな。エンペラー3号。今日の依頼だ」


 依頼書を見せるとエンペラー3号は駆け出して行った。


「さあ、マリー、俺達はオーク退治に行こう」

「うん」


 討伐はあっけなく終わり、クランに戻ると。


「私は遠征に出るわ。二ヶ月は戻らないつもり」


 リーナさんが寄って来て言った。


「えっ、リーナさん行っちゃうの」

「マリー、今生の別れでは無いんだから。笑顔で見送ってやろう」

「根性の別れ?」


「一生会えない訳じゃないって事さ」

「うん、分かった。リーナさん、さよなら」

「そういう時はまたねって言おう。さよならだと悲しいから」

「リーナさん、またね」

「また会える日を楽しみにしてます」


「ええ、またね」


 リーナさんがこの街を出るのか。

 寂しくなるな。


 程なくして俺達はDランクになった。

 そりゃ、3倍の速さで依頼を熟せばこうなるか。

 お使いの依頼と薬草採取の依頼ではもうポイントが入らないらしい。

 薬草採取はもういいだろう。

 エンペラー4号も護衛に戻す事にした。

 お使いはずっと続けるつもりだ。


 あれっ、クランに見慣れない女の人と青年がいる。

 誰だろう。


「ちょっと来い」

王打おうださん、何ですか」

「紹介しておく。アンリミテッドのリリーとジュエルスターのバイリーだ」

「よろしく。ディザだ」

「マリー」


「よろしくね」

「ディザ後輩とマリー後輩。よろしくな」


「借金王はどうした」

「彼なら故郷に帰ったわ。トイレットペーパーのない生活には耐えられないなんて言ってね。トイレットペーパーって何かしら。きっといい物なのね」


 なんだって、トイレットペーパーだとぅ。

 俺と同じ転生者か。


「借金王ってどんな人」

「アカジって名前で物凄く強い人よ。黒髪黒目のここらでは見ない容姿ね。肌も少し黄色味がかっているし」


 おっ、それって日本人なんじゃないのか。

 アカジって名前も日本人っぽい。


「帰ったってどこにどうやって」

「邪神を改心させて故郷に転移させてもらっていたわ」


 ああ、地球に帰ったのだな。

 俺は地球にそれほど帰りたいとは思わない。

 マリーもいるしな。


「そのペット可愛いわね。プリムには敵わないけど」


 エンペラー4号見てアンリミテッドさんは自慢げにそう言った。


「アンリミテッドさんも猫を飼っているの」

「そうなのよ。プリムっていうの。ほら」


 ロケットを出して似顔絵を見せてくれた。

 白い子猫がそこには描かれていた。


「ライオンさんは凄いんだよ。魔獣もやっつけちゃうんだ」

「ちっちっち。プリムは魔力を上げると大きくなるのよ。魔獣だからね」

「ディザも何か言って」


 張り合ってどうするんだよ。

 まあ、ペット自慢が始まるのはペット好きあるあるだな。


「どっちも可愛いよ」

「駄目よ。こういう時はガールフレンドの味方をしてあげないと」

「そうよ。ディザ酷い」


 なんで俺が二人に責められなきゃならんのだ。

 ジュエルスターに視線で助けを求めると、王打おうださんと話しこんでいた。

 いや、気づいているはずだ。

 この野郎無視しやがって。

 いまさら、マリーの味方をしても遅いのだろうな。


「俺、クランマスターに挨拶してくる」

「逃げたわね」

「うん、逃げた」


 逃げちゃ悪いか。

 くだらないけど楽しいな。

 俺は楽しさを覚えた。

 ディザの記憶もこんな毎日が楽しいと言っているようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る