第9話 冒険者登録

「おはよう。剣が出来たよ。名剣とは言えないけどそれなりだと思う」


 クランマスターの部屋で俺はそう言った。


「そうかい、剣聖を呼んできな」


 しばらくして。


「こいつは掃除の子供じゃねぇか。まさか俺の弟子にしろって言うんじゃないだろうな」

「剣を売ってくれるそうだ」

「ほう、見せて見ろ」


 俺はポリゴンの剣を差し出した。

 剣聖は剣を軽く振る。


「軽いな」

「重く出来るよ」


 俺は剣を重くして渡した。


「こいつは中々いい。切れ味がどうか試してみないとな。ちょっと行ってくる」

「そんなに待てないよ」

「じゃ、今日の夕飯時にな。俺はザッグ。流派は倍化剣だ。通り名は分かっていると思うが剣聖だ。まあ、ランクはSだな」

「ディザだ。通り名は無い。マスター、今日から冒険者を始める」


「そうか、気をつけな」


 部屋を出てマリーと一緒にギルドに向かう。

 ギルドに入ると、何で子供がという視線が俺達に刺さる。


「登録に来た」

「坊や達、大丈夫? 魔獣を狩る仕事なのよ」

「こう見えて覚醒者だから」


「がはは、はったりだな。坊主、嘘をつくなら言う事を選べ」


 俺は腰の剣を空中で舞い踊らせる。


「これでも不満」

「ほんとなんだな。御見それしましたぁ」


「心配ないようね。じゃちゃっちゃと登録するわよ。用紙に記入してね」

「ディザ、私の文字書けない」

「お姉さんお願い」


 名前はディザ。

 6歳と。

 スキルはポリゴン。

 武器は剣と。

 特技は物づくり。

 埋まったな。


「武器は?」


 マリーが俺に尋ねた。


「お姉さんライフルって書いてやって」


「ライフルってのが分からないけど」

「俺がいま背負っている遠距離武器だよ」


 ライフルは昨日ショップで買って具現化しておいた。


「その筒がライフルなのね。吹き矢みたいな物かしら」

「うん、その理解で合ってるよ」

「君たちはFランクになりました。冒険者は自己責任だから、良く考えて行動してね」

「分かった」

「うん」


 Fランクのタグを受け取り首に掛ける。


「マリー、依頼を見よう」

「うん、文字読めないけど」

「教えてあげるよ」


 依頼を見ながら文字をマリーに教える。

 マリーは基本的な文字と数字を覚えた。

 さすが子供だな、吸収が早い。


「これにしよう」


 俺はCランク相当からジェノサイドベアの依頼を手に取った。


「ディザ君、これはちょっと早いと思うな」


 依頼を持っていくと受付嬢にそう言われた。


「平気だよ。なんなら試して見る? 練習場があるんでしょ」

「そうね。子供に死なれるのも寝覚めが悪いから、見せてもらおうかしら」


 裏の練習場で皮鎧を着た丸太を前に、俺はライフルをマリーに渡した。


「筒の先から弾が出るからよく狙って」

「うん、頑張る」

「筒の先端の突起で的を狙うんだ」

「分かった。やってみる」


 マリーがライフルを構えたので、素人ながら映画なんかを思い出して姿勢を直してやる。


「やって」


 マリーが念じると、引き金が引かれるアニメーションが実行され、弾がでたようだ。

 発砲音はしない。

 着弾音だけがする。

 ポリゴンのライフルは火薬で弾を発射する訳ではないから、反動はない。

 子供の体でも楽に扱える。


 着弾地点を探すと丸太に当たっていた。


「マリー、弾のアニメーションを初期化して慌てずに発射だ」

「頑張る」


 三度はずし、四度目で皮鎧を貫いた。


「凄い、貫通しているわ。これなら当たればいちころね」

「隠し玉はまだまだあるから。見てて」


 俺は腰につけた手榴弾を投げた。

 手榴弾は転がり、丸太の根元で止まった。

 そして、オブジェクトの破片をまき散らした。


 やはり爆発音はしない。

 丸太が破片に削られる音だけだ。

 丸太は根元からぽっきり折れた。


「へぇ、凄いけど、止まっているもの限定なのね」

「まあ、見せられないけど、まだ必殺技はあるから」

「うんうん、お姉さんも安心だわ」

「じゃ、行くから。マリー、行こう」


 二人で門を出て、車を出してそれに乗った。

 森までドライブだ。

 ポリゴンの車のシートは硬い。

 尻が痛くなる。

 あとでバネを仕込んでおこう。


 さあ、森に着いた。

 車を消して、ここからは歩きだ。

 ジェノサイドベアはどこにいるかな。

 皆目分からん。

 冒険者を舐めてた。

 ポリゴン能力も索敵は出来ない。


「マリー、困った。どこにいるか分からん」

「そういう時は糞を探すのよ。それと足跡と樹に付いた毛ね」

「おう、詳しいな」

「マッサージの時に聞いたの」

「よし任せた」


 歩く事30分、物凄い大量の糞を見つけた。

 これだな。

 俺にも分かった。

 後は毛と足跡だな。


 痕跡を辿り、かなり近づいたと思う。

 よし、準備オッケーだ。

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