第7話 安全に経験値稼ぎ

 現在、俺に出来るのはポリゴンで物を作る事だけだ。

 魔獣に当たるかどうか分からないフライングソードで向かって行くほど無謀じゃない。


「じゃじゃーん」

「何作ってたの」

「俺にもできる物をということで作りました。ザ剃刀」


 これなら美術1でも作れる。

 金属の刃に三角柱をTの字につければいいだけだ。

 丸い棒だとポリゴン数が増えるので三角柱だ。


「ひげも生えてないのに。なんでこんな物を。それに剃刀って言ったら、ナイフの小さいのじゃないの」

「うんこれで良いんだ。さてどこに売ろう」


 俺は手始めにクラン・ヴァルドに銅貨50枚と書いて置いてみた。


「売れないね」

「しょうがない値下げするか。銅貨20枚ぐらいか。待てよ宿代が銅貨30枚だとすると。3千円ぐらいの価値か。そりゃ売れないな。でもナイフは高い。やっぱり銅貨20枚にしよう」


 しばらく経って。


「やっぱり売れないね」

「そんな事はない一つ売れている」


 やっぱり高いのか。


「なあ、イラス。これ何で売れないと思う」

「様を付けろ様を。まず形状が見慣れない。次に鞘がない。むき身で持ってたら危ないだろう。俺達は野営に持っていくんだぞ」

「鞘か。プラスチックのカバーは作れないし。待てよポリゴンでカバーを作ってボーンを入れれば」


 剃刀バージョン2が完成した。

 ぼちぼちとは売れるが売れ行きは芳しくない。

 固定ファンはついているようだが、ばか売れには程遠い。


 駄目だ。剃刀は失敗だ。

 よし次にいこう。


「じゃじゃーん。うちわとハエ叩き」

「見せて見せて」


 マリーが使ってみたが結果はどうだろう。


「使いづらい」

「なんで」

「ハエ叩きだけど、ぱしっと来ないの」

「ぱしっと来ないのか」

「うん」


 えーとなんだろ。

 俺も使ってみた。

 うーん、これはあれだな。

 柔軟性というかしなりがない。

 バネの機能を入れろという訳だな。

 よろしい。

 うちわも同様だな。


 しなりを入れてみた。

 いい感じに仕上がったが、単価設定が難しい。

 使われているハエ叩きを見せてもらった。

 なんとでかい葉っぱを切ったものだった。

 葉っぱとさげすむ事なかれ、葉脈が十分な強度を提供して、茎のしなりもちょうどいい。

 こりゃ売れんな。

 コスト的に葉っぱの勝ちだ。


 うちわはこの辺りでは使われていないみたいだ。

 あったのは扇子。

 うちわはかさばるからと言われた。

 それに模様がな。

 俺にデザインセンスを求められても。

 だが、アニメーションが俺にはある。

 空中に浮かせたうちわに扇ぐアニメーションをつける。

 手で持ってないとうちわが後退するのがなんとな、扇風機の代わりだ。

 銀貨1枚で土産物屋に売ってやろう。


 まだまだ頑張ってみますか。

 俺はパーティクル機能を使って、炎を作った。

 中心に点光源を仕込んで、これに透明な覆いをつけて取っ手をつけてランタンの完成だ。

 永久に燃えるランタンなんてチートに他ならない。

 これはヒット商品の予感。

 クランで銀貨10枚で売ってやろう。

 『永久に使えるランタンをディザが承ります。希望者は用紙に記入をして下さい』とポップを出しておけばいいだろう。


 そうだ、次はシンプルに行こう。


「じゃじゃーん、紙」


 俺が考え出したのは紙だった。

 2ポリゴンながら、テクスチャーも貼って紙に見える。


「使ってみるね」


 マリーが落書きを始める。


「板に書いてるみたいだけど、書きにくくはないよ」

「合格なのはありがたいが、釈然としない。ハエ叩きが2ポリゴンに負けるとはな」


 単価もそれなりにしないと。

 2ポリゴンで銅貨4枚でどうだ。

 羊皮紙は銀貨1枚からなので、お財布に優しいだろう。


 今日の仕事はここまでだ。

 お金も貯まって服も買えたし、身だしなみも気を使うようになってマリーは美少女になったが、変わらない。

 相変わらず俺と抱き合って寝てる。


「なあ、マリー。俺と一緒に寝るのは不味いんじゃ」

「男の価値は寝てみないと分からないって」


 マリーのお母さんの謎知識だな。


「もう十分に分かったろ」

「価値はね。日ごとに変わるの。金貨が銅貨になるのも珍しくないんだって。特に年ごろの女の価値は変わりやすいって。男の価値もだって」


 お母さん娘さんに何を教えているんですか。


「そうか、好きにして下さい」


 朝起きて、納品に行く石屋と土産物屋に、文房具屋が加わった。

 納品を終えてからクランに顔を出す。


「おはよう」

「ああ、おはよう」

「掃除ご苦労様」

「マリーちゃん今日も可愛いね。はむはむしたい」

「べーっだ」


 朝の挨拶が終わり。

 さて剃刀はいくつ売れたかな。

 2個売れている。

 ランタンの注文も5個も入っている。

 さてと掃除に掛かるか。

 待機室を掃除して、二階の宿泊室の掃除に掛かる。


 マリーはシーツを籠にいれる。

 洗濯は業者がやる。

 ベッドメイクも俺達はしない。


 二階の宿泊室が終わると、一階の応接室、クランマスターの部屋の掃除だ。

 クランマスターの部屋のドアをノックする。

 中から返答があった。


「おはよう」

「刃物を作れるのかい」

「ああ、作れるな。だが性能はまだ本物に及ばない」

「スキルは成長するもんさ。それに使い方もね」

「そのようだな」

「名剣が作れるようになったら教えとくれ。クランで買ってやろう」

「ああ、その時はな」


 こんな感じで俺の異世界生活は穏やかに過ぎていった。

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