第69話 剣の怪①
「おかえり、先輩。……どうしたのさ? 浮かない顔して」
帰宅した
「……ん、なんでもねぇ。ザクールさんのとこに行ったんだけど、めぼしい情報はまだそれ程掴んでいないんだと」
「ってことはよ、少しは分かった事があんのかよ?」
これはダルゴだ。光は『闇の左手』なる暗殺組織とオスカルとの関係を報告するべきかどうか迷った。
下手な言い方をすれば、ダルゴは猪のようにオスカルに突っ込んでいくのが目に見えていたからだ。
そこでマルドレットについて尋ねてみることにした。
「なぁ、ダルゴ。マルドレットってどんな子だ?」
「マルドレット? マルディがどうかしたのかよ」
「……俺達を襲ったのは『闇の左手』っていう暗殺組織なんだと。で、そいつらに接触していたのが、マルドレットらしい。ザクールさんが調べたところじゃ」
するとダルゴは目を見開いて驚き、光に掴みかかってきた。
「ちょっと待てよ! なんでそこでマルディが出てくんだよ!? マルディが俺を殺そうと!?」
「落ち着け。なにも仕組んだのがその子ってわけじゃない。接触したのがその子ってだけで、依頼をしたのか依頼を止めようとしたのかまではわかっちゃいねぇんだ」
そこまで言ってようやく納得したのか、ダルゴは掴んでいた手を離した。
「マルディは……小さい頃から大人しい子だったよ。オスカルがああなるまでは、兄貴にべったりでな。小さいときの口癖が『お兄ちゃんのお嫁さんになる』だったっけ」
「じゃ、兄妹仲は悪くはなかったわけ?」
真琴もまたオスカルとマルドレットの件については思うところがあるらしい。遠慮がちにではあるが、尋ねている。
「ああ。オスカルも妹には甘くてよ、仲の良い兄妹だって一族でも評判だったっけ」
ふむ、と光は考え込んだ。
オスカルが妹と無理矢理男女の仲になったのは、それなりの下地があったということか。
下手をすればお互い合意の元で結ばれた、といううがった見方も出来る。
だが、そこまで考えてそのことは一旦頭の隅に置いておくことにした。情報が少ないところで考えてもロクな結果にならない。
「それはそうと、真琴。『呪い返し』の手順は翻訳出来たのか?」
「うん、もうちょっと。まぁ、翻訳出来たとしてもモノに出来るかまでは、少し自信ないかな……頑張ってみるけどさ」
そう言いながらも、真琴の表情には手応えのようなものが感じられた。
「なにが問題なんだ?」
「なんていうのかな。遠回しって言うか、抽象的な文が多いんだよね。それこそ解釈に戸惑うくらい。まぁ、それでもポイントだけははっきりしているから、試行錯誤していけばなんとかなるかも」
「なるほどな……」
こればかりは仕方が無い。
魔法そのものは真琴の場合イメージとコマンドワードでゲーム的に処理できているが、儀式魔法となると勝手が違うのも無理はないことだ。
それよりも儀式のポイントだけでも掴めただけでも大したものだと言える。
「それよりもマスター。報告しておきたい事が」
そこに口を出してきたのは、黙っているとまるで存在感が無いマリオンだった。
「どうした? マリオン。何かあったのか?」
「いえ。少数ではありますが、作業中にこちらを注視している生体反応を確認いたしましたので、そのご報告を」
またか、と光は頭を抱えたくなった。
昨日の今日だというのに全く懲りていない。
仕事熱心な事でと、内心で唾でも吐きかけてやりたい気分だった。
「攻撃の意図は?」
「今回は観察に集中している様子です。敵と仮定しますが、すぐに襲ってくる可能性は極めて低いかと」
まぁ、確かに襲ってくるにしても、同じ手は使えまい。
しかし同時に敵はまだ諦めていないという証拠でもある。
気は抜けないなと思い、エルレインの事が心配になってきた。
「ちょっとまた出かけてくるわ」
「またぁ? 今度はどこにさ」
「女の子のとこ」
手をヒラヒラさせて真琴に言い返すと、むくれる真琴の言葉を背に、光はエルレインの所に向かうのであった。
※※※※※※
エルレインが入院している施療院に向かう途中、光は道に迷っていた。
「……おかしいな」
優れた方向感覚で道に迷わないのは真琴の専売特許だが、異常な記憶力を持つ光にしては珍しい、というかあり得ない事だ。一度ならず通った道が分からなくなるということは。
どこで道を間違えたのだろうと首を捻って歩いていたら、いつのまにか袋小路にはいりこんでいた。
気がつけば周囲に人の気配が無く、自分一人になっていることに今更ながら気がつく。
ことここに至って、流石に事態が異常な事になっているのを否が応でも知らされた。
おかしい。
まるで誰かに
光は嫌な予感がしてすぐさまスマホを起動させ、武装を召喚し装着する。
そしてゆっくりと振り向いた。
つくづく嫌な予感というものは当たるものらしい。
光はため息をつきつつ愛刀『村正』を抜いて身構える。
そこに人気は無く、一振りの名状しがたい剣が
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