第68話 深まる謎
こうして
はっきり言って、メインとなるのは真琴とダルゴであって、光の出番はまるで無かった。
こうなってくると役立たずなのは光の方で、それこそお茶くみくらいしかする事が無い。
あまりの暇さ加減に嫌気がさしてきたとき、ふと今回の一件について疑問を感じ始めていた。
光がダルゴに説明した今回の陰謀劇についても、筋が通ると言うだけで、その裏付けとなる根拠が無い。
この一件、推理に満足して何か見落としてはいまいか。そう考えられるほど、光はある程度自分を客観視出来ている。
そんな事を考えていたら、ふと一人の人物の顔が脳裏をよぎった。
(……頼んでみるか)
多分いい顔はされないだろうな、と思いつつ光は出かけてくると真琴に言い残してその場を去ったのだった。
※※※※※※
「……で、私の元に来たというわけですか」
諦めにも似た、ため息混じりにそう言ったのはザクールであった。
「……あれからまだ実質半日程しか経っていませんよ? そうホイホイ情報が集まると思って貰っては困ります」
「まぁまぁ。情報収集力を当てにしてのお願いだよ。んで、今の段階で分かってることは?」
ザクールは仕方が無いとでもいいたげに肩をすくめて、判明している事を伝えてくれた。
「まず襲ってきた連中ですが、あなたが仕留めた遺体から分かりました。マリオンのははっきり言って遺体の損傷が激しく、難儀したので参考程度ですが」
これには正直胸が痛む思いだった。正当防衛とは言え二人も殺したという事実には変わりない。偽善、甘ちゃんと罵られようと、人を手にかけた事は覚えておかねばと思う。
「それで、その相手ってのは?」
「……『闇の左手』。歴史
やたら「だけ」を強調してくる辺り、ザクールにも思うところがあるのだろうか。
「……やつらの手口は、魔法の武器や魔法を使った殺しです。殺し屋としては二流以下ですね。魔法だけならともかく、魔法の武器まで用いてまで必殺を狙う……つくづく度し難い」
おそらくザクールにしてみれば、魔法の武器を使って殺しを行うというのは邪道と写るのだろう、と光は思った。どういうこだわりか知らないが、ザクールは「技」で殺す事に意義を見いだしている様子だ。まぁ殺し屋の意義や信条など、分からないし分かりたくも無いが。
「それで、オスカルとの関係は?」
「……あるか無いかと言われれば、あります」
「……なんだか煮え切らない返事だな」
「……無理もありません。やつらと接触したのはマルドレット嬢……」
誰だ、それは。と言いかけて次のザクールの台詞に息を飲み込んだ。
「……オスカルの妹です」
※※※※※※
「一体……なんで?」
「……それを今から調査するのではないですか」
絶句している光に「一体何を言っているのか」と言わんばかりにザクールは呆れ顔になっていた。
「……裏付けが欲しいためにわざわざ私の所まで足を運んできたのでしょう? 意外性のある情報一つで一々ショックを受けていたのでは身が保ちませんよ」
「それと」と、ザクールは思いついたように付け足した。
「ダラク大司教の裏も取っておいたほうが良さそうですね。……あの御仁、意外に狸ですから」
「オスカルを殺せと持ちかけて来た人が?」
「……そこが狸の狸たるゆえんですよ」
「いいですか?」と、出来の悪い生徒を教え諭すようにザクールは説明する。
「ダラク大司教が仮にオスカル側と繋がっていると仮定します。理由は、まぁここではお互い利害の関係が一致した、とでもしておきましょう。そうして第三者であるあなたに殺害
「んな無茶苦茶な」
光が悲鳴を上げそうな声になるのも構わず、ザクールは説明をし続けた。
「……仮定の一つですよ。一見乱暴に見えますがね。仮定だけならマルドレット嬢が黒幕のケースもありますが、聞きます?」
「いや……もういい」
「……賢明です」
結局の所、確たる証拠が無い限り、推理は推理でしかないのだ。
「……取りあえず私の報告をお待ちください。くれぐれも迂闊な動きはなさらぬよう……いいですね?」
※※※※※※
引き続き調査をしておきます。と言われて体よくお引き取り願われた光であったが、ザクールの話を聞いて正直足元が揺らいでいるのを感じていた。
今までの話や推理の経緯だと、オスカルの妹は被害者のはずだった。
だがザクールがもたらした情報は、それを覆しかねないものだ。
無論理屈
オスカルが直接『闇の左手』と接触し、犯人とばれるリスクを回避するため、妹を名代に立てた。
だが、その説は中身がスカスカで実の無いものだ。信頼出来る赤の他人ならまだしも、血縁者を
そもそも前提自体が間違っているとしたら?
初見の印象が悪かったせいか、オスカルが犯人と決めつけてはいるが、逆に被害者だとしたらどうだろう?
いくら考えても答えは出そうに無かった。
結局ザクールの言うとおり、謎を解くためには証拠が必要なのだ。
だが、神殿……というよりダラク大司教の要請次第ではあるが、一両日中には返事を出さなければ、下手をしたらこちらはオスカル殺害の片棒を担がされる羽目になる。
「……くそったれ」
飛んで入った災厄に、恨み言の一つも言いたくなる光であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます