ダンジョンズ&ドールズ

第28話 人形は眠る①

「んで、場所はここで間違いねぇんだろうな」

「おうさ、兄弟ぇ。じいちゃんから貰った地図が本物なら、ここに間違いねぇ」


 あれから四日。日もろくに射さないような薄気味悪い森の奥に一同はいた。


 いかなる森か、動物はおろか、魔物の気配すらない。鳥の鳴き声さえ聞こえないこの場所は、皆の恐怖を煽るのには十分だ。


「……困りましたね。こんな場所に二日も居なければならないとは」


 陰鬱そうにぼやいているのはザクールという隠密剣士である。

 彼はみつる達の道案内兼監視役として同行している身だが、今の所光達のお人好しぶりに振り回されている被害者と言っても過言ではない。


「ザクールさん。良かったら一緒に来る? そっちの方が安全かもよ」


 真琴まことが善意でそう誘うが、ザクールは頭を振ってそれを拒絶した。

 

「……そうしたら、あなた方全滅した時、陛下に報告する者が居なくなるではありませんか」

「一人でこんな場所にいたら、それこそ危ないと思うんだがなぁ」

「……一人でなら、なんとでもなりますので」


 生存能力には自信があると言うことだろうか。光の説得にも首を縦には決して振ろうとしない。

 巻き添え食わせている身としては、あまり後味の悪い結果になって欲しくないというのが正直な所ではあるのだが、ここまで頑なだとそれ以上言う台詞も思いつかなかった。


「それにしても、これが遺跡ねぇ……」


 外見を見るだけなら、典型的な地下迷宮であった。ただ、露出している施設と思しき部分が、精々田舎の一軒家程度の規模しかないので、あまり巨大な施設には見えないのである。


「俗に言うウサギ小屋ダンジョン?」


 ならどんなに楽なことか。真琴は楽観的に考えているようだが、この手のダンジョンは序盤で油断させて、奥深くで仕留めるというパターンが多いのだ。

 

「まぁ、油断は禁物だな」

「敵も死霊系が多いのかな」

「ゾッとしねぇ話だが、今回のラスボスはリッチって事だし、そう考えた方が妥当だな」

「なぁ、いつまでもクチャベってねぇよ、さっさと中に入ろうぜ」


 焦れたダルゴが急かすが物事には順番というものがある。


「まず装備の確認と隊列からだ」


 そう言って光は腰につけた袋の中を改める。

 チョークにくさび、小ぶりなハンマーに着火用の装備一式等など。


「それなんの役にたつん?」

「ダンジョンつったらこういった小物が役に立つんだよ。あと、10フィート棒が有れば言うことねぇんだがな」

「そんなモン、何に使うんだよ」

「距離計ったり、罠を探したり、まぁ使い道は色々だ」


 もっとも、そんな物は手に入らなかったので、無い物ねだりだが。

 それよりも確認しておきたいことがある。


「ダルゴ。お前、罠感知と解除の心得があるって本当だろうな?」

「なんだよ、兄弟ぇ。オイラの腕前を疑ってんのか?」

「生死を分ける大切な事だからな。まぁ過信でなけりゃそれで良い」


 実際、古代文明の人間は何を考えているのかと思うくらい地下の建造物、つまりダンジョンの罠に偏執的なまでこだわっている。


 理由としては外敵の妨害とか、お宝を守るとか様々だが、中にはただ侵入者を殺害するためだけの、悪意に満ちあふれたキラーダンジョンなどという素敵なものまであるのだ。

 その意味で罠を発見し、解除できる人間の有無は、ダンジョン攻略に大きな生存能力を与えてくれる最重要な存在なのである


「後は……隊列とこのダンジョンのクリア条件だな」

「クリアじょけん? なンですか、ソレ」


 エルフの少女エルレインがキョトンとした顔で尋ねて来る。


「リッチを倒す事じゃねぇのかよ」

「実はリッチを倒すのは絶対条件じゃねぇ。俺の『小烏丸』の現状での威力を確かめられれば良いだけの話だからな。それより優先するのはお前らの目的だよ」

「オイラ達の?」

「なんか、このダンジョンに来た理由をまだ聞いてないんだが。親父さん達からなにかを証拠に持ち帰って来いとか言われなかったか?」

「ああ。悪ぃ。言ってなかったけか。オイラ達が持って帰って来いって言われたのは『人形』だよ」

「へ? お人形??」


 真琴が面食らった様な顔をしていたが、無理も無い。


「おっとぉ、待ちなよマコト。そいつはな、古代人とドワーフ族が力を合わせて作り上げた、精巧なからくり人形でぇ」

「それが、このダンジョンのお宝か?」


 光は呆れた様に言ったが、古代文明とドワーフ族が作り上げたからくり人形。一体どんな物だろう? 少しだけ興味が湧いてきた。

 

「となると、罠も凝ったモンだと考えてよさそうだな」


 そう考えると気が重くなりそうだが、同時に楽しみでもある。この辺ゲーマー根性が丸出しであった。


「さて、順番だが。罠関係があるし先頭はダルゴ、カバーと対死霊系対策に真琴。中堅に魔法攻撃が出来るエルレイン。殿しんがりに俺が着く」


 それを聞いて、ダルゴが真っ赤になって怒り出す。


「なんでお前ぇが一番最後なんだよ!? まさか怖じ気づいたんじゃねぇだろうな!?」

「阿呆。んなワケあるか。後方からの奇襲に備えておかないと、体力の乏しい魔法使いからやられるぞ? 殿置いておくのはセオリーなんだよ、こういう場合」

「んでも、俺はともかく、自分の女房を矢面に立たせるなんて、男として恥ずかしくねぇのかよ」

「能力があるから安心して任せられる。なにもお宝よろしく女を守るだけが、男の役目じゃねぇさ」

「そんなモンかねぇ」


 ダルゴは理解はしたものの、納得まではいかないようだ。

 だが、今はそれで良い。


「さて、準備が出来たら早速乗り込むとすっか」


 光は不思議と恐怖よりも、気分が高揚していくのを感じていた。


 こうして一同はダンジョンへと向かうのであった。

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