第29話 人形は眠る②
「おいちょっと待てよ、お前ら!」
ダンジョンの中にに入るや早々、叫ぶ
「どうしたのさ、先輩?」
「何カ、問題デモ?」
「まさかたぁ思うが、今になって怖じ気づいたンじゃねぇだろうな? 兄弟ぇ」
「じゃなくてっ!」
「お前ら、灯りも点けずによく無造作に入っていけるな!?」
言われて仲間三人はそれぞれ不思議そうに顔を見合わせる。
「このくらい明るけりゃ、問題無いんじゃないの?」
「見エるカラ、問題ナいと……」
「まさか兄弟ぇ、お前見えねぇの?」
「見えねぇよっ!」
その理由は簡単だった。種族的な特徴の差がここに来て出ているのだ。
『
エルフは星明かり程度の光源さえあれば、昼間の様に見えるし、ドワーフに至っては洞窟暮らしが長いため、やはり僅かな光量さえ有れば問題なく見える。
そしてこの一行の中で、この能力を持たないのは人間である光だけなのだ。
実に簡単で、盲点だった。
「あー……そうなんだ? じゃあ、魔法で明かり点けよっか?」
今やすっかりエルフの能力に目覚めた真琴が、そんな提案をしてくれるが、光は敢えて断った。
「気持ちは嬉しいが、
そう言って、野営の準備をしていたザクールから火種を貰い、松明に火を灯してようやく地下迷宮へと足を運ぶのだった。
※※※※※※
「罠は……無いな良いぞ」
迷宮の探索は思いのほか順調に進んでいた。
罠の事なら任せろというダルゴの言葉に嘘も慢心も無く、小ぶりなハンマー一つで壁や床を叩いては音だけで罠の有無を感知し、見事に解除していく。その手腕は惚れ惚れするほどだった。
「ところで兄弟ぇ。お前、さっきから何やってんの?」
「ん? これか?」
光は松明をエルレインに預け、真琴から借りたタブレットを使って、今マッピングをしているところであった。
「マッピング、つまりこの迷宮の間取りを描いてんの」
「そんな小さな石版に?」
ダルゴとエルレインが興味深げにタブレットを覗き込み、「へぇー」と感心したようなため息を漏らす。そこには方眼紙状にの下絵に、今まで通ってきた通路や部屋の間取りが簡単に描いてある。また、罠があった所には色違いでマーキングし、見た目にも分かり易い地図が描き込まれていた。
「東の方じゃ、こんな便利な魔導具使ってんの?」
「一般的とは言わねぇが、まぁ使っている奴結構多いぞ」
「他にも文章書いたり、複雑な計算したり、絵を描いたり出来るわよ。本当ならもっと色々な事が出来るんだけどね」
得意そうに語って見せる真琴に二人は呆れているのか感心しているのか、よく分からない顔をしていた。
「さて、この階は一通り見てきたんだが……妙だな」
「妙って何がでぇ?」
「……階段が見つからん」
「そう言えば、一通り見てきたわりにはそれらしい場所無かったね」
「ココ以外にモ、部屋有る思いマスか?」
うーんと唸って、光は改めて描いてきた地図を見てみた。どこかに不自然な間取りは無かったか。隠し部屋を作ることが出来そうな空間はないか。
そうしてしばらく見つめていた時、妙に間取りが合わない部分が有ることに気が付いた。
僅か三マス分だが、ぽっかりと空間が空いているのだ。
「この場所に戻って見るか。真琴、方向は分かるか?」
「はいはい、ばっちりだよ。先輩タブレット返して」
どこに居ても東西南北がピタリと分かる真琴は、その特技を活かして目的の場所へと先導する。光はエルレインから松明を受け取るとその後に付いていくのだった。
※※※※※※
「ここか? 兄弟ぇ」
「間違いねぇな。ここの所だけ角に
「んでも、妙だな。オイラ、この壁確かに確認したぞ? 音も聞いてみたけど、空洞になってるって音じゃ無かったし」
「疑うわけじゃねぇが、もう一度この壁の周辺を探ってみてくれねぇか。考えられるのは、もうここだけだ」
ダルゴは自分のプライドと天秤にかけるように、腕を組んで考え込んで居たがしょうが無いかとため息をついて再び探りだした。
壁に耳を当て、小振りのハンマーで壁を叩きながら、慎重に音を聞いていく。すると。
「ん?」
右角のある一点を探って居たとき、その動きが止まった。
「どうしたのさ?」
そんな真琴の問いを遮る様に、ダルゴは手で制すると、更に聞き耳を立てる。
そしてその一点に手を当て「ふんっ」と力強く押すと、その箇所がズルリと引き込み、やがて地鳴りのような音が聞こえて来たかと思うと、その壁が床に下がっていき、上から何かの液体が溢れてきた。
「みんな下がれ!」
光が指示するまでも無く、皆壁から素早く離れて身構える。
壁が下がって行くたび、空いた場所から甘くしかし薬品臭にも似た芳香の液体が溢れ、床を覆っていった。
そして空いた壁の向こうから現れたのは──
「お、女の子?」
そこには三人の少女が眠るように立っていた。それも美しい裸身をさらけ出して。
だが、同時に異様で有った。
三人が三人とも全く同じ顔をしているし、両腕も肘から先が湾曲した剣になっている。
長い鋼色をした髪はツーサイドにまとめてあり、それが光の持つ松明の灯火に照らされて、刃のように剣呑な光沢を放っていた。
「こいつ……まさか人形?」
ダルゴのその言葉がトリガーになっていたように、少女達は一斉に目を開いた。
そしてゆっくり近付いてきて両腕の剣を構える。
「個体識別コードに該当する者無し。侵入者と判断」
その双眸が銀色に怪しく輝いた。
「排除します」
戦いが始まった。
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