第15話 変身の極意?

 手と手を繋ぎ合わせる。

 

 そして、心を一つにして叫んだ。


「「クロス・アバター!」」


 だが、嘲笑うかのように風が吹き抜けていくだけで、何も起こらなかった。


「おっかしいなぁ……」

「もう一回やってみよっ、もう一回」


 首を捻っているのはみつると、それを励ますように鼻息を荒げてるのは、恋人の真琴まことの、この両名であった。


 今二人は鬼神──『神形機ディヴァーター』化する訓練の真っ最中である。

 だがどうにも上手くいかないで難儀していた。今でもあーでもないこーでもない、と意見を出し合ってやっては見てるのだが変身の兆候すら見えないでいる。


『やっぱりパスの繋がりが弱いからじゃないですか?』

『エッチしておかないから、こういう風になるんじゃない?』


 好き勝手言っているのは一角の巨神──敬太と美久が変身した姿──であった。

 飽きてしまったのか、今は寝釈迦仏像のように横たわり、悠々としながら悪戦苦闘している二人を眺めている。


 そんな視線にもめげずに、真琴は更に熱心になってとんでもない意見を言い始めた。


「じゃ、じゃあさ。せめて身体を密着させてみたら、どう、かな?」


 語尾が恥ずかしそうに尻切れトンボになっているが、どうやら本気らしい。

 精神的な繋がりパスは問題無さそう。となると後は肉体的なものだが、まさか美久の言うとおり、男女の仲になるのは抵抗感がある。

 ならば、出来るだけそれに近い状態に、という真琴の説は、妥協案としては頷けるものではあった。

 とはいえ、どれ程密着させれば良いのかという疑問は残る。

 

「と、取り敢えずさ、このくらいからやってみようか?」


 そう言うと真琴はおもむろに光の左腕に自分の右腕を絡め、身体をピッタリとくっつけてきた。


 どこからどう見ても、熱々のバカップルである。


「まずは、これで、やってみよ?」


 そう恥ずかしそうに言いながらも、真琴は身体を更に密着させてきた。

 香水でもつけているのか、それとも真琴の体臭なのか、甘く良い匂いが漂ってくる。

 そんな真琴にドギマギしながら、光もまた覚悟を決めて変身の言葉を口にする。


「く、クロス・アバター!」


 すると


『え?』

『嘘っ!?』


 二人の身体が僅かに赤と青の光が立ち上るのが見えてきた。

 それと同時に身体が熱くなり、『力』が湧き上がって来るのが分かる。

 いけるか?

 そう思っていたが──


「あ、あれ?」


 ひかりはすぐに霧散してしまい、後には頬を赤らめさせて立っている、間の抜けた二人が立っているだけだった。


「あー。もう少しだと思ったんだがなぁ」

『どこがよ。結局変身出来なかったじゃん』

『狙いは意外に悪くないと思うんですけどねぇ』


 すでに変身している二人の感想に、なにやら難しい顔をしていた真琴であったが、やがて決心したように、今度はなんと真正面から抱きついてきた。


「お、おい? 真琴、お前?」


 元の世界でも、いやこちらの世界でもやったことが無い程身体を密着させてくる。

 心臓の音さえ感じさせられるような真琴の距離に、光は目を白黒させていたら、今度は先程より明らかに輝きを増した赤と青の光に二人は包まれた。

 

「よ、よぉしっ! こ、今度こそっ、先輩!!」

「お、おう! クロス・アバター!」


 今度はひかりが奔流となって螺旋を描く。

 湧き上がって来る『力』も先程とは比べものにならない。

 これならっ!

 と、思っていたが結果はやはり──


『あーダメ。全っ然ダメ』


 美久から揶揄されるまでも無く、失敗であった。

 ひかりは霧散し、後には睦まじく抱き合う二人の姿が残るのみ。


「むぅ……あと少しなんだが」

『もうさ、エッチするしか手は無いんじゃないの?』


 ケタケタと嘲笑する美久は無視して、光は真剣に考え込んだ。

 肉体的接触によって、パスは強まりつつある。だが、これ以上となると──

 と、そこまで考えて光は一つの結論至った。

 精神的な繋がりを伴った、肉体的接触ならばどうだ?


「真琴!」

「は、はいっ!?」

「今度は刺激が強いが勘弁しろよ!!」


 言うや否や、光は右手で真琴の尻を、左手で真琴の胸を揉みしだき、変身の言葉を叫んだ。


「クロス・アバター!」


 そして真琴に口吻くちづけし、あろう事か舌まで入れるという暴挙に出る。

 そんな恋人の暴挙に今度は真琴が目を白黒させていたが、その身体からは青い輝きがこれでもかと溢れ出た。同時に光の身体からも赤い輝きが怒濤の様に溢れ出る。

 その二つが螺旋を描くように絡み合い、天地を貫くかと思われるほど立ち上り、それが交わりあって爆発したしたかと思ったその跡にあらわれたのは、今度こそ紫がかった漆黒の巨躯に、黄金の女人像フィギュアヘッドを胸部に宿した鬼神の姿であった。


『おっしぁあああ!!』


 鬼神は拳を振り上げて、まるで勝利の凱歌を歌うように吠える。

 白い巨神、敬太と美久はあっけに取られたようにその威容を見つめていた。

 だが鬼神は振り上げたその拳を、自らの脳天に叩き付ける。


 鐘が鳴るような、澄んだ良い音が響き渡った。


『ってぇええ!? 何しやがるっ、真琴!!』

『先輩こそ、何やってんのさっ!!』


 鬼神が真琴の声で、がうがうと吠える。


『き、キスだけならまだしもっ、お、お尻とかオッパイ揉む必要がどこに有ったのっ!?』


 そのキスも舌を入れるディープキスだったのだが、これは良かったらしい。


『おまけにっ、き、キスの時舌入れるなんてっ!!』


 やはり、良くなかったようだ。


『ま、待て。一応理由は有るんだ』

『理由? 聞いてやろうじゃないさ』

『……性的興奮も有った方が、精神的パスもより強くなれるって思ったんだが、正解だったろ?』

『自分の彼女をっ、痴女扱いしたいのっ!? 先輩はっ!!』


 こうしてしばし、自分で自分を殴り続ける鬼神、という不思議な絵面ができあがったのである。

 それを見て、美久がポツリと呟いた。


『自分の彼女にセクハラして変身とか、マジサイテー』



 言い訳のしようが無い、それは正論であった。

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