渡る異世界に鬼は無し

第14話 決意

「それで? 『神形機ディヴァーター』化した時の戦い方が知りたいと、そういうわけですね?」

「ああ、頼む」

「お願い、敬太君」


 敬太はみつる真琴まことにせがまれて、深いため息をついていた。


「あのですねぇ……っ、死ぬ間際でないと変身出来ないって人が、良く『勝算がある』なんて大見得切れましたね!? 流石の僕も呆れて物が言えませんよっ!!」


 何者かに取り憑かれ、暴れているというこの国の守護龍、黄金龍ゴールドドラゴン「デュラントー」を救うことを、国王に褒美として要求した光と真琴であるが、それには見過ごせない問題があった。

 鬼神、即ち『神形機ディヴァーター』化しないと攻略が事実上不可能なのだ。

 そこで変身に慣れていそうな、というか他に変身出来る者も居ないので、敬太達に変身や変身した時、武器はどうやって調達しているのか、といった事を聞きに来たのだ。

 で、それを聞いた敬太の反応がこれである。まぁ、無理もない事であった。

 あれだけ大見得切っておいて、肝心要かんじんかなめな事が出来ていないというのでは、見切り発車のそしりを受けても仕方が無い。敬太ががうがうと吠えるのも無理は無いのだ。


「あーもぅ……分かりました、分かりましたよっ。国王陛下からは『先達として、力になってやれ』って言われてますからね? 協力はしますよ、ええ」


 半ば投げ槍に頭を搔きながら、敬太は美久を呼んで練兵場へと二人を誘った。


「で、『神形機』化するのには、パートナー同士である二人の間に、ある程度パスが通ってないとダメなんですよ」

繋がりパス? なんだそりゃ」


 敬太は出来の悪い弟子か教え子に諭すように説明した。


「より強い繋がりっていうんでしょうか。精神的にも肉体的にも、強い繋がり──パスが必要なんです」

「精神的……メンタル面が大事っていうのは何となくわかるけどさ、肉体的繋がりって?」


 柴犬の様に小首をかしげて、今度は真琴が質問すると、美久が呆れかえった表情で、真琴に向かって


「あんた、自分は経験者って言ってたじゃない。何今更カマトトぶってんの」


 と、蔑むように言う。

 だが真琴はキョトンとした表情で答えた。


「あたし? あたし経験者じゃないよ? 男性経験ゼロだし」 

「はぁっ!? あの時言ったじゃない! 自分には経験が有るってっ。わ、わたしとケイちゃんがエッチな関係にあるって分かるって!」

「ああ、あれ?」


 真琴はようやく理解したしたという風に返答した。


「先輩と合体した経験が有るって言いたかったの。あれってさ、相手とエッチな関係になってるのと同じなんでしょう? 『シャクティ』だっけ、あのロボットを動かす力。あれを動かすのって、男と女がエッチしているときに発生する、その『シャクティ』ってエネルギーって解釈で間違いないんだよね?」

「あ、はい。その通りです」


 固まっている美久の代わりに敬太が恥ずかしそうに答えた。


「んじゃ、男女の繋がりって、そのぅ……」

「多分、真琴さんが今考えている通りかと」

「そ、そうなんだ……ってことで美久ちゃん、そういうことで、うん」


 何がそう言う事でなのだろうか。

 自分で言い出しておいて自爆したらしい。真琴は頬を染めて視線を泳がせている。


「何考えてんのよ、キモい」


 そうずっぱり切り捨てたのは、やはり美久だった。その表情に嘲りと優越感を滲ませて、だが。


「簡単に言えばね、エッチした方が変身しやすく、強くなれるのよ。ケイちゃんとわたしみたいにね?」


 そして、そんな爆弾発言を投下し、敬太の腕に身体を絡めていく。

 敬太は、困ったような、照れたような表情で、美久を引き離そうとするが、嫌がっている風ではなかった。


「まぁ、話は分かった。肉体的なモンはともかくとして、精神的な同調が必要っぽいってのはな」

「人の話聞いてた? あんた」


 美久が抗議するように責め立てるが知った事では無い。他人ひとの性生活まであれこれ言われたくなかった。


「ミクちゃんが言ってるのは極端に聞こえるかもしれませんけど、少なくとも半分を占める重要な部分ですよ、光さん。実際に僕たちが変身するところ見てて下さい」


 そこまで言うと言うと、敬太と美久は4~5メートルは離れて、お互いに手を向けそして叫ぶ。


「「クロス・アバター!」」


 すると二人の身体から、黄金と紫の光が立ち上り、互いに絡み合って螺旋を描き渦を巻く。

 そして竜巻のような力の奔流が収まると、そこには敬太達が変身した、白い巨神の巨躯があった。


『どうです? 心身の繋がりが強いと、離れていても変身出来るんです。光さんは男女の仲になることに抵抗あるみたいですけれど、力を得るためには割り切りも必要ですよ」


 違いますか? とでも言いたげに、巨神がプシューっとため息の様に排気する。

 それを聞いて光は渋面を浮かべた。

 美久や敬太の言わんとするところも分からないわけではないし、男の欲望としては恋人の真琴を抱きたいと思っている。

 だが、『力』を得るためだけに男女の仲になるのはなにか違うと思うのだ。青臭い理想論として言えば、もっとこう──

 そこまで考えて、答えが出させない自分に愕然となった。

 だが──

 ふと、袖を引っ張られているのに気がついた。真琴が柔らかい笑みを浮かべ、ゆっくりと首を振る。

 まるで「気にするな」とでもいってくれているようだった。


「……敬太! 美久! お前達の言いたいことは分かった! お前達が正しい!」


 光は声を張り上げて、巨神に向かって叫ぶ。

 

「だが、俺達も時間が有るわけじゃねぇ! コツだけでも良い。掴みてぇんだっ! 頼むっ、教えてくれ!」


 無論時間制限が設けて有るわけでは無い。光はあえて期限をぼかしたし、国王もそれに関して明確な期限を設けなかった。

 だが、光は時間はそう悠長に構えていられる程無い、と。そう思っている。

 残された時間はあとひと月。その程度しかない。

 黄金龍が怨霊らしき『何か』に、完全に乗っ取られるのは後ひと月が限度だと、そう思っている。

 その確信があるのは、他ならぬ黄金龍があの時、怨霊にダメージを与え、穏やかさを取り戻したときにささやいたのだ。


『私が私でいられるのは、後もってひと月。その間は何としても自分を抑えてみせる。だから──』


 と。それまでに黄金龍わたしを殺して欲しいと。

 確かにそう聞いたのだ。これは真琴も同じ意見だった。


 だが、こちとらハッピーエンド主義者だ。絶対に救ってみせる。


 ──そう決意する光であった。

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