宝石と王都(後)

第1話 新年を迎えた宝石

 魔法を使える人間、というのは、大きく2つに分かれる。


 1つは魔法使い。宿して生まれてきた魔力の分だけ、世界を自分の意思で上書きする事が出来る人間。

 数日に一度小さな魔法を使うだけで数年もすればその魔力を使い切ってしまう者から、毎日のように地形を変えても老いて死ぬまで一切魔力が減る様子すら無い者まで、その魔力の量には個人による差が大きい。


 そしてもう1つは、魔石生み。魔力を宿して生まれてくる点と、その魔力が尽きたらただの人になる点は魔法使いと同じ。

 ただし魔石生みの場合、世界を上書きする力を自らで行使する事は出来ない。何故ならその名の通り、その魔力は石の形を取って固まるからだ。

 そしてその石の形に固まった魔力――魔石を使えば魔力の有無に関わらず誰でも、魔石がある限りいくらでも、魔石に込められた魔力の分だけ世界を上書き出来る。


 そしてその特性の違いにより、魔法使いは国の武器あるいは盾として召し上げられる事が多く。対して魔石生みは、人ではなく資源として見られ、扱われることがほとんどだった。

 何故同じ魔力を宿した人間なのに、魔石生みの魔力は石に変わるのかは分かっていない。また、どれほど膨大な魔力を持っていても魔石生みが魔法使いになる事は無い。


 だから、魔法使いであれば魔力が多い事が喜ばれ。

 魔石生みであれば、魔力が少ない事を祝福される。



 ただし。

 ――稀に、魔法使いが魔石生みに変わることは、確認されている。




 その日、夜明けを迎えた王都エルリスタは、不思議な空気に満ちていた。

 今日は1年の始まるとなる日であり、新年祭という祭りの本番の日だ。ここから数日はお祭り騒ぎが続く、大変賑やかな日だ。

 だが王都は、1年が切り替わるその直前で、非常に大規模な魔物の大群による襲撃――スタンピードに襲撃された。だから新年祭どころではなく、王都に住んでいる人間も、新年祭の為にここ、エルリスト王国の各地から集まって来た旅行客も関係なく、その中心となる王城に迎え入れ、避難させた。

 しかしそこからも防衛戦は続き、魔物の群れは尽きる様子を見せず、最前線では神官が刃物を持った人間に襲撃されるという事件もあって、いつ王都の大門が破られてもおかしくない、というところまで状況は悪化していた。


「なんだったんだろうな、あの音」

「鐘の音だったみたいだけど、どこの鐘だ?」

「きれいだったねー」

「花火は見れなかったけど、いいものが聞けた」


 ただし。スタンピードが襲撃してきた次の日の夜。新しい年が始まるその直前に、どこからか軽やかな鐘の音が鳴り響いた。

 その鐘の音はどこから響いたのか不明だったが、それを聞いた魔物は明らかに動きが鈍くなり、混乱したように立ち尽くすものもいた。一方で防衛戦をしていた騎士や冒険者は、尽きたと思った体力が湧き上がる感覚を覚えている。

 いつまでも尽きないと思われた魔物の群れも、その鐘の音が響き始めると、波が引くように数を減らしていった。結果として、翌朝にはスタンピードの撃退は完了、避難は解除された。


「――――で、そこまでは避難所で聞いたんだけど」


 とりあえず今の所は公になっていないその真実は、王都存在する教会で、取り壊そうにも資金不足で手つかずになっていた小さい塔。元は鐘楼だったそれを、とある冒険者が魔道具であったと見抜き、改造を含めて修復。1年の切り替えに起動させた。

 ただし、それを起動したのは、その正体を隠して行動する1人の女性であり、その方法は、実質自らを囮にするような形だった。

 と、いう事を、本人から聞いた、教会が認定した「聖人」の1人……創世の女神と同じ色の、銀色の髪を持つノーンズという青年は。


「でもね、イアリア。他に方法は無かったのかな?」

「……だって内部犯が子供だなんて思わないじゃない。そして内部犯がいるのが確定しているのに、そんな大事な事を誰かに相談できたかしら?」

「……それはまぁそうだけど」

「しいて言うのなら、絶対に影響を受けないあなただったけど。私の事をド下手くそな演技をしてまで疑う形で隔離したのは誰だったかしら?」

「……それは悪かったと思ってるけど……」


 その本人、本名をイアリア・テレーザ・サルタマレンダという、本来なら伯爵令嬢であるはずの元平民であり、ついでに言えば、魔石生みに変わった元魔法使いに、言い負かされていた。

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