第41話 宝石は断じる
カラァン、カラァーン、と、軽やかな鐘の音が響き渡る。その音源は、イアリアがいる「元鐘楼の離れ」の屋上、かつては鐘が設置されていた、今はがらんどうになっている筈の場所だ。
だが。実はイアリアはこの「元鐘楼の離れ」を魔道具化する際に「この塔が元々ある種の魔道具だった」事に気が付いていた。イエンスが気付いても理解できなかった謎の魔力の流れは、イアリアがその魔道具としての機能を殺さないようにしながら結界を張る機能を付け加えた結果だ。
そして魔道具としての機能を読み取ったイアリアは、屋上部分に見た目を偽装する魔道具を設置して空のままに見せかけ、その内側に、マナの木に銀メッキを施した「舌の無い鐘」を設置していたのだ。
「え……? え、な、なに、これ?」
邪神は戸惑っているようだが、その間ももちろん鐘の音は止まらない。この魔道具である塔、それも、イアリアが解析、修理したあのハンドベルと同じ時代か、それ以上前に作られたと思われる塔を起動する為には、大量の魔力が必要だった。
これを通常の神官が起動しようと思えば、それこそ数人から数十人がかりで祈りを捧げなければならないだろう。だからこそイアリアは数日をかけて、「床にあった儀式跡の下」に作った空間に、大量の光属性の魔石を溜め込んでおいたのだ。
「昔の人は、すごいわね」
まるで年越しの数を数えるように、止まらず響き続ける鐘の音。イアリアが解析、読み解いた効果の通りに、今「元鐘楼の離れ」と呼ばれていたこの小さな塔の屋上では、舌の代わりに光の球体が、イアリアが設置した急造の鐘を鳴らしているのだろう。
その光景を見る事は出来ないが、無事に起動している事は、魔力を自分から直接持って行くように設定した分が生きている分だけ、魔力が減っていく感覚で分かる。そもそも、銀メッキを施したとはいえイアリアが設置した鐘は木製だ。こんな音が鳴る訳が無い。
それでも、鐘としての最低条件。銀ないしそれに準じる金属を用いた、魔力の通りが非常に良い材質で作られている事。これを満たす事は出来たらしい。イアリアは鐘の音を聞いた時、まず真っ先にそう安堵した。
「この鐘楼は水の道の上に建てられている。本来なら井戸にするべきところを、絶対後で倒れる危険がある塔を建てたのも。その塔を、儀式を行う必要がある規模の奇跡を願う場所として作ったのも」
「……ど、ういう、こと?」
そして。イアリアは決して、手を抜かない。
邪神が自分に執着している事。魔力が思い切り減っていく感覚があるなかでも、それを利用する為に、もう絶対に邪神にも邪教の関係者にもこの塔に手出しをする事が出来ない、それを分かった上で。
「この塔はね。水の道を通して創世の女神の奇跡を行き渡らせるものよ。恐らくは、これを起動する儀式の事を新年祭と呼んでいたのではないかしら。確かに聞いていて気持ちの良い音だわ。これが、本物の鐘を使って、高位神官が儀式をして願った奇跡であれば、もっと遠くまで……それこそ、国全体に響いていたかもしれないけれど」
「え……」
「まあでも、今だって王都とその周囲ぐらいは丸ごと包み込めるでしょうから、きっと大丈夫ね。とりあえず今は王都が守れれば良いのだから。人間だってそんなに弱くは無いのだし」
せめて「今依り代に降ろした力」は全て消し飛ばす為に、時間稼ぎとして、言葉を紡いでいる。
「そん、な……そんな、ことが。できる、わけが……」
「出来るのよ。ほら、聞こえない? 魔獣が弱ったり恐慌を起こしたりして逃げ出す叫びと、傷が治って体が軽くなって剣の切れ味も盾の強度も上がった人間達の鬨の声が」
「そんな……だって、そんなこと、あるわけ……」
「あるのよ」
邪神が紡ぐ、依り代を動かして発せられる言葉が弱くなっていく。それを確認しながら、イアリアは断言した。
「だってこの塔は、
それは、祝福という奇跡を願った際に使われるハンドベル。小さな鐘。
その、完全な上位互換と言えるものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます