第34話 宝石は魔石を作る

 仮眠の後も魔薬を作り続け、とても嫌な可能性が否定できない事に気付いて作り方を少し変えた後ぐらいで、ようやく冬の遅い太陽が昇り始めた。

 もっとも王都にある冒険者ギルドの本部は比較的端の方にあり、避難先が中心の王城である以上、色々な事情で避難が最後になる。何なら、鐘の音でも起きなかった住民がようやく気付いて慌て始めたぐらいだろう。

 だから冒険者ギルドに置いて、特に日の出による変化は無かった。もちろん、イアリアがその変化を感じられなかっただけである可能性もあるのだが。


「いい加減な量を作ったと思うのだけど、どこにこんな量を保管しておく倉庫があるって言うの?」

「本部ですからね。内部空間を広げた倉庫があるんですよ」

「…………そうなの?」

「はい。まぁ冒険者ギルド所属の魔法使いがそれにつきっきりになるので、普段はただの倉庫なんですけど」


 なお、イアリアが作った、絶対に個人ではないどころか大型店の仕入れかという量の魔薬の行方は変わらず。だからその点を疑問として口に出してみたところ、そんな返事があったが。

 ……冒険者ギルド所属の魔法使い、は、まぁ良い。魔力があるかどうかは魔法が使える、もしくは魔石を作れるかどうかでしか判明しないし、それが出来るようになるのはいつかは分からない。大体は幼少期に判明するが、時折成人して何なら子供が生まれてから魔法を使えることに気付く人間もいる。

 そういう人間を拾い集めるもしくは囲い込む、何なら怪我等の理由で軍を辞めた魔法使いをスカウトしているのだろう。だからそれはいいのだが。


「それに、最前線は激しい戦いが続いていますからね。傷を癒す魔薬が尽きない、というのは、大前提であると同時に士気を維持する為に必要な事ですから」

「……まぁ、分からなくはないけれど」

「なので、どんどんお願いしますね。材料はしっかり確保しておりますので」


 にこ! と圧の強い笑顔で、教会の護符に紐をつけて首から下げている冒険者ギルドの職員に言われれば、イアリアだって大人しく従うしかない。護符は直接触るか、身に着けている事で発動するのだから。

 なおイアリアは冒険者ギルドに缶詰めになっているが、教会の護符を作る為に必要な魔石が入っている箱の座標と、魔道具に変えた「元鐘楼の離れ」を維持する為の魔石を入れる座標への魔石の作成は止めていない。いずれは魔石が不自然に尽きない事に気付かれるだろうが、護符を作る手を止める訳にもいかないだろう。

 それに、護符を作る為の魔石とは言うが、その座標の箱は神官達が身に着ける、防御魔法を発動する魔道具に使う魔石でもある。見回りの神官に対する襲撃はその頻度を上げているし、今の状態で神官を減らされる訳にはいかないのだ。


「(……流石に、規模の大きい魔法を同時並行でいくつも使っていると、そこそこしんどいわね)」


 魔法とは、魔力というエネルギーを、意思によって操作し、世界を上書きする事だ。それそのものには何を消費する訳でも無いが、たとえそれが思考であったとしても、同じ行動を繰り返すというのは体力を消耗する。

 その消耗は普段の訓練と体力づくり、そして慣れによって抑える事が可能だが、消耗しなくなるという事は無い。特に現在のイアリアは魔石生みだからと、通常であれば周辺被害が大変なことになる魔法を、何なら眠っている間も使い続けている。

 ここ数年で、随分と魔法を使う魔石を作る事にも慣れてきたイアリアだが、それでもここまで大規模な魔法を使い続けた事は無い。魔法の数で言えば、以前北の山脈で行使したものの方が多いが、維持している時間と、魔法として現象になった時の規模を合わせると、現在の方が上だろう。


「(まぁ、スタンピードは本当のようだし、流石にここで休んでいる訳にはいかないのだけれど)」


 流石に外と隔離され、守られたこの場所から、教会の事も王都の外の事も分からない。だが、どうとでも使える魔法使いという手札を使ってまで魔薬を溜め込んでいるという事は、少なくともギルドマスターはそれが必要だと判断している、という事だ。

 ……イアリアは、まだ今一そのギルドマスター本人を信用していない訳だが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る