第24話 宝石は備える

 塀と同じく、教会の壁も魔道具を使って石壁を出して、それを整え、隙間を埋めるという形で思いっきり工期を短縮する事に成功したイアリア。作業の邪魔になった可能性と、日当という形で給料をもらっている職人が煽りを食らわないようにという意味で追加料金を出したが、今のイアリアにとっては大した金額ではない。何しろ緊急指名依頼で受け取った報酬は、全て内部空間拡張機能付きの鞄マジックバッグに入れているのだから。

 ただしイアリアは教会に戻って、また外へと出て行った。そして以前と同じく王都の周りをぐるりと回って戻ってくる。その間も当然のように襲撃があったのだが、これも前回と同様にアイリシア法国の大聖堂へと転送して事なきを得ていた。

 イアリアはこの、襲撃者の転送を「避難」だと認識している。受け入れる側である大聖堂にもそれを伝えているし、了承が返ってきている。だから遠慮なく、しっかり時間をかけて外を回っていたのだが。


『イアリア。妹弟子。流石にちょっと人数が多くないかな? 王都がガラガラになってないかい?』

『馬鹿を言わないで頂戴。この程度、減った内には入らないどころか、ますます増える一方よ』


 メモによるそんなやりとりがあったりしたが、それはさておき。冒険者ギルドには、依頼でとはいえ大量の魔薬を保管させた。であるなら次は教会である。とばかりに、色々な魔薬を作っては教会の倉庫に保管していくイアリア。なお倉庫には先んじて、光属性の清掃魔法を展開し続ける魔道具を設置しておいたイアリアだ。

 もちろんこちらも、イアリアの部屋にある転移を防ぐ魔道具と同様箱型であり、内部座標を指定する事で離れたところから魔石を補充できる。問題はその補充タイミングをどうやって知るか、だが、イアリアはその箱の内側にもう1つ魔道具を設置していた。これは箱の角、上から3分の2ほどの長さがある棒の形をしていて、触れる魔石が無くなったら通知する、それだけの効果しかない。

 とはいえ、簡易的に魔石の量を確認するだけならこれで十分だ。そして実際、イアリアはその通知に従って魔石を補充していた。……の、だが。


「……また? 随分と発生率が上がっているわね」


 問題は、少し前から発生している不可解な現象だ。それは倉庫の中に入れられていた魔薬の内、いくつかが消えるというもの。しかも誰かが持ち出したとかではなく、中身が消えて瓶が割れている。

 落としてしまった、という訳ではない。棚の奥の方に違和感を覚えて、その手前の瓶をどけて見たら、割れた瓶の残骸だけが残っていた、という事もあった。中に何が入っていたのかはイアリアが調べても分からなかったが、その現象が発生し始めたのが、イアリアが魔道具を設置して少ししてから、という時点で、邪神関係の何かなのだろう。

 邪神にも祝福あるいは護符に対応する何かがあるとして、それが魔薬の形を取って紛れ込まされているとするなら、イアリアが魔道具を設置していなければ、それこそ教会は内側から瓦解していた可能性が高い。のだが。


「にしても、露骨になって来たというか、なりふり構わなくなってきたというか……」


 お陰で、魔石を作っていない時間の方が短い気がするイアリアである。まぁ、それはそうだ。光属性の魔法は、邪神の力を相殺する。と言う事は邪神の力が持ち込まれれば、それを相殺する為に消耗は進むのだ。

 それ以上に問題なのは、花火による「事故」の時から考えれば、教会に内通者がいる可能性が高い、という事なのだが。まぁそれはそうだ。イアリアは管理を厳重にする為、間違っても好奇心旺盛な子供達や、部外者である冒険者達が近寄らないように、あの花火については教会関係者全員にきちんと説明していた。

 しかし逆に言えば、関係者以外には、あの荷物が花火とそれを打ち上げる特殊な大砲だとは分からない。何しろ厳重に梱包されていたのだから。そしてこのタイミングで、花火を台無しにする動機があるのは、邪教の信徒だけだろう。


「……」


 けれど、おかしいわね。と、イアリアは口の中で呟く。そう、おかしいのだ。だって神官は交代で王都の見回りに出て、その全員が光属性の防御魔法を発動する為の魔道具を身に着けている。そもそも、見回りの目的は、王都の通りとその周辺に祝福を願う事だ。願った神官本人に影響はないとはいえ、邪神の影響はまず出ないだろう。

 だからと言って、教会の中でもこれまたこれでもかと祝福が願われている。どうやら誰かが思いついたらしく、複数人の神官で協力して守りの奇跡を願い、対象を教会そのものとしたところ、上手くいったそうなのだ。すなわち、教会の敷地内に入った時点で、邪神の影響は大幅に減衰するか、消えうせる。

 そう。すなわち、内通者だったとしても、内通者であり続けるのは大変難しいのだ。それこそ、邪神の影響なしに心から邪神を奉じる、邪教の信徒の中でも特に熱心な人間でも無ければ。


「…………」


 イアリアは深く下ろしたフードの下でしばらく思考し、しかしその間も魔薬を補充する手を止める事は無く。結果として普通に作業を終えたように、倉庫を後にした。まだまだ、魔薬の備蓄は必要量には届いていないのだから。少なくとも、この倉庫ぐらいは一杯にしなければならない。

 だと、いうのに。


――ズドン!!


 その日の夜。

 よりにもよって、倉庫が、爆発を引き起こす魔道具によって吹き飛ばされる、だなんて。

 流石のイアリアでも、思っていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る