第23話 宝石は調べる
イアリアが商業ギルドに相談し、火薬を買って調合、作成した花火は、数こそ少ないが1発が大きいものだった。専用の大砲を使って上空に打ち出し、そこで花のような模様になる花火は、地上で爆発した場合、非常に危険だ。
だからこそ厳重に保管されていた訳だが、「事故」は起こってしまった。死者が出なかったというだけでは擁護しきれない失態であり、新たな花火を作ろうにも、もう元となる火薬も売って貰えないだろう。専用の大砲だってすでに引き上げられている。
商業ギルドとしても、信用を裏切られた形だ。とはいえ、独自に火薬を調合するのは、それはそれで危険だし、そもそも今から花火を作り直す時間は無い。
「やられたわね……」
用意していた手札が、最悪の形で利用された。それを理解したイアリアはそう呟いたが、思考は止めていない。そのまま、その「事故」があった時の事を、教会関係者全員に聞いて回り始めた。
もちろん教会側もその程度の事は既にやった後だろうし、それでも犯人が分からなかったから、こうして出入りを警戒せざるを得なくなったのだろう。その程度の事はイアリアにだって分かっている。それでも証言を集めたのは、自分で動かないと納得いかなかったから、というのが大きい。
「死者が出なかったあたり、邪教の信徒そのものでは無いと思うのだけど……」
「ん? どういう事だ?」
「手加減してるのよ。だって邪教の信徒からしてみれば、教会の神官なんて減れば減るほどいい存在じゃない」
「……確かにそれはそうなんだけど、もうちょっと言い方ってものが無かったかな、イアリア」
「聖人」であるところの双子にも話を聞くついでにそんな推測を零すイアリアだが、結局その口から、誰が犯人だ、という言葉が出てくることは無かった。まぁ、「事故」が起きたのは、イアリアが緊急指名依頼を受けて冒険者ギルドの本部に移動した、その日の夜だ。2日も経っていれば、犯人が外部から侵入していた場合、とっくに逃げおおせているだろう。それが教会関係者の認識だった。
そしてイアリアも同じ結論に落ち着いたのか、今度は壊れた壁を調べていたようだ。王都の教会は、大聖堂ほどとはいかないものの、他の場所にあるものと比べるとやはり大きい。「事故」が起こったのが裏庭だった事もあって、とりあえず表から見える範囲では何も異常は無かったし、教会の2階部分や鐘楼になっている尖塔といった場所が崩れる事も無かった。
しかし爆発の被害は小さくなく、裏庭に面した壁には、それこそちょっとした小屋なら入りそうなほど大きな穴が開いている。教会はその周囲を塀で囲まれているのだが、その塀も一番酷い所は高さが半分程度になっていた。
「……。修復は、塀を優先しているのね?」
「えぇ。犯人は外部に居ると思われますし、侵入が容易な場所がある、というのは、今の状況だと不安ですので……」
「まぁ、それはそうね」
一旦は納得したイアリア。……なのだが、一度部屋に引っ込んで戻ってきた後、その手にあったのは、白く塗られた柱のようなものだった。黄色い宝石のようなもの、というか、土属性の魔石が上部に埋め込んである。という事はすなわちあの柱のようなものは魔道具。そして今ここにイアリアが持ってきたという事は……と、そこまで考えた、修復の現場監督をしていた神官は、慌てて職人を塀の周りから退避させた。
何事、と、作業を中断する形になった職人達はいぶかしげな顔をしていたが、雨の日用のフード付きマントに全身を隠した人物が、何か白いものをもって近寄っていくのを大人しく見守っていた。この辺りはもちろん、王都の神官が勝ち取った信用である。
……そして実際、神官の判断は間違っていなかった。何故ならイアリアがその柱のような物を、修復途中の塀の近くに刺して。塀があった場所をなぞるように指を動かした、瞬間。
ゴンッ!!
という、結構派手な音と共に……本来塀があった場所に、本来の塀とほぼ変わらない厚みと高さの岩壁が、出現した。
魔法と言う不思議は、一般人には縁遠いものだ。それに準ずる魔道具も同じく。だから、あまりにも非常識で色々なものをぶっ飛ばしかねない光景を目にして唖然とする職人たちに、イアリアが言うには。
「修復作業に時間なんてかけてらんないわよ。職人の人達も、新年祭を楽しみにしてるんでしょう?」
……ちゃんと工事費を出したうえで、急な予定変更のお詫びとして更に報酬を上乗せし、それはイアリア自身が身銭を切った、という事で、職人達から不満は出ないどころか、教会にはすごい魔道具師がいる、という噂になったのだが、もちろん本人は露ほども気にしていない。
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