第22話 宝石は戻る
全力でイアリアが魔薬を作って納品し、依頼達成となったのは、指名依頼が持ち込まれた3日後の事だった。なおその間イアリアは冒険者ギルドに寝泊まりしていた為、教会へは戻っていない。むしろ、そうやってギリギリまで時間を切り詰めて魔薬の作成をしていたから3日で済んだと言えるだろう。
まぁイアリアも、どうせ作るならと可能な限り光属性の魔石を混ぜ込んでいたから、普段作るより若干とはいえ時間がかかったのも確かではあるのだが。それでも、1人の魔薬師が作ったと言っても、大半は信じないだろう量の魔薬が冒険者ギルドに納品されたことになる。
「これで足りなかったら、流石に面倒見切れないわよ……」
「他の魔薬師から買い付けている分もありますし、流石に足りると思いたいですね」
依頼完了の手続きの際にそんな会話があったが、イアリアは作った魔薬の3割ほどを自分の
さて、緊急指名依頼を無事(?)達成し、すっかり沈むのが早くなった太陽がギリギリ空の端に残っている中を、もう気の早い灯りを掲げて夜の賑わいを作り出している人々の合間を縫ってイアリアは王都の教会に戻った。
冒険者ギルドと王都の教会は、それなりに距離がある。が、イアリアは座標指定で魔法を発動する事が可能になっていて、自分の目で見る必要はない。よって、光属性の魔石が枯渇した、という事にはなっていない。何しろイアリアは、もうほぼ無意識でも魔石を作るための魔法を発動できるようになっていたからだ。
「……今なら、眠っていても獣避けの魔法を維持できるかもしれないわね」
という事でもあるし、イアリアの魔力には底が無いのだから、あらゆる害意や敵意に類するものを通さない、高難易度の防御魔法であっても維持する事が出来るだろう。そしてそれを砦等の単位に適用した場合、難攻不落どころではない事になる訳だが、流石にイアリアもそこまで発想する事は出来なかったようだ。
まぁそれはそれとして、たった3日とはいえ教会を離れていたのだから、その間に何が起こったのかという情報は共有しておきたい。具体的には護符の配布状況とか、神官による見回りは無事続けられているのかとか。何故なら、再び襲撃が無いとは言い切れないどころか、いつまた襲撃されてもおかしくないからだ。
なんて考えながら、王都の教会に戻ったイアリア。
「ん……?」
新年祭の為に来たついでに観光する旅行客、巡礼の一環として祈りに来た信者、近くで喧嘩が起こった等で運び込まれる怪我人。そういう人々が出入りしていた筈の入口は、守役騎士と思われる、全身鎧で固めた人物によって見張られていた。
しかも外に出る分には何も問題は無いようだが、中に入るには護符に触れる必要があるようだ。そして護符が壊れた場合、近くで待機している神官によって祝福の奇跡がかけられるらしい。そこまでしてようやく教会の中に入れる、という事になっている、と見て取ったイアリア。
「……何があったの?」
「あぁ、アリア様。申し訳ありませんが、護符に触れて頂きたく」
「何かあったのね」
対外的な場所では「アリア」という名前で通してほしい、というイアリアの要望は、過不足なく教会側に伝わっている。よって神官に「アリア様」と呼びかけられた時点で、現在のこれは外の何かを警戒していて、なおかつ外の人間に聞かれる場所では詳しくは話せない事だと把握したイアリアである。
だからそう言いつつも素直に護符に触れて、今も首の後ろひっかける形で発動している、光属性の防御魔法を展開する魔道具のお陰で護符は無反応。なので守役騎士に通して貰えたイアリアは、すぐ教会の奥に移動した。
ここまでより深刻というか、うろたえているというか。総合してあんまり良くない空気を感じつつも、イアリアはとりあえず、この3日に何があったのか、どういう経緯で守役騎士が常駐するようになったのかを、顔見知りになった神官に聞いてみたのだが。
「……裏庭に持ち込んだ花火に、火がつけられた!? 被害は!?」
「教会の、裏庭に面した壁に大穴が。火傷の重傷者も多数。重傷者の方は、イアリア様に作っていただいた魔薬で回復しましたが、壁の修復はあまり進んでおらず。花火は、その……全て、損なわれました」
「……なるほど。なおかつ、その犯人も分からないまま。それで、中に入る人のチェックをあそこまで厳しくしたのね」
聞いた内容は、イアリアが用意した、光属性の魔石を使用し、光属性の魔法としての効果を持たせた花火。それが保管されていた状態で火をつけられ、実質的な爆弾として使われた、というもの。
いくら無数の可能性を想定し、可能な限りの対策を用意するイアリアでも、完全に想定外の状況で、騒動で、限りなく人為的な「事故」だった。
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