第20話 宝石は合流する
ノーンズ達がこのタイミングでエルリスト王国の王都に来たのは、もちろん新年祭に参加する為だ。つい昨年「聖人」に任じられたばかりであり、その直後から狂魔草を捜索する任務を受けて北の山を探索していた。そしてそこで邪神の依り代になっていた少女を発見し、アイリシア法国まで護送。つまり、お披露目がまだなのだ。
その王都入りの方法が、身分を隠して屋台を営業する、だったのは、もちろんアイリシア法国を総本山とする教会も、王都で邪教が何かをしようとしている、というのを知っているからだ。この忙しいタイミングで、正面から堂々と「聖人」として王都入りするのは、混乱を加速させて邪教に利する行為となってしまう。
ついでに言えば、この屋台でスープを作るために使われている魔道具には、それはもう念入りに祝福の奇跡が施されているらしい。当然、その魔道具によって作り出された水には、創世の女神の力が宿る。
「胃袋から市民の浄化を進めるとは、教皇様も思い切ったわね」
「それぐらいはしないと間に合わない、って判断をするに至る報告を上げたのは君だよ、イアリア」
合流したその夜になって、今度も人目をはばかるようにこっそりと王都の教会にやってきたノーンズはそんな事を言っていたが。まぁでも、そうやってスープを配っていたかいはあったか、ここまでと比べてやや騒動の件数が減ったらしい。やっぱり影響が取り除ききれてないわね、とイアリアは呟いたが、イアリア自身に出来る事はもう、本当に地道な事だけだ。
まぁそれはそれとして、魔道具にセットする魔石にも祝福を施して貰った場合はどうなるのか、という事を、まだギリギリ余力のある神官を捕まえて検証したりしていたが。ちなみにちゃんと効果があったので、今後は神官が身に着ける、光属性の防御魔法を展開する魔道具と、そこに使用する魔石にも祝福を施す事になった。
これはもしかすると、護符の効果も上げられるんじゃないかしら、などと呟くイアリアだが、ここでちょっと驚きだったのは、イエンスとノーンズ、それぞれ創世の女神のものと同じ、黄金の目と銀の髪を持つ双子。その2人の冒険者仲間であり、幼馴染であり、そしてそのまま「聖人」になる2人を守るための守護騎士になった元冒険者の4人が、中位より少し上、ぐらいまでの奇跡を願う事が出来るようになっていた、という事だ。
「あなた達、まともな信心があったのね」
「どういう意味だい、イアリア」
「だって、女神の色を持つ双子を直接見てるんでしょう」
「どういう意味だよイアリア」
「あら、はっきり言っていいの?」
なおイアリアの双子に対する印象は、基本ぽやぽやな天然と、肝心なところでやらかす悪戯好きである。
まぁだが、奇跡を願う事が出来るのなら、と、守護騎士になった4人にも全力で仕事を振るイアリアである。なおイエンスとノーンズは、女神の色を持っているからか、奇跡の発動は出来ないようだった。まぁそれならそれで仕事はある、と、護符作りの現場に放り込むイアリア。
王都の一般神官は流石に止める、と思っていたらしいノーンズ達だが、事ここに至るまで、王都に来てからイアリアは全力で役に立っている。明らかに邪教の信徒によって神官が襲撃されていた事件もあった事で、若干申し訳なさそうにしつつも、それぞれに振られた仕事の補助に入っていた。
「……もうイアリアが「聖人」でいいんじゃない?」
「絶対に嫌よ」
気のせいかイアリアはどこかで聞いたような問いかけをノーンズからされていたが、もちろん即答で一刀両断だ。躊躇いの欠片も無い。
とはいえ、祝福の奇跡を願える人数が一気に4人も増えて、しかも全員しっかり体力がある、という事で、護符作りはさらに加速。……ちなみに彼らは年末ギリギリまでスープを売る予定なので、ちゃんと必要な睡眠はとって貰っている。
まぁそのついでに、魔道具だけではなくそこに使う魔石と、何なら具材と鍋を含む調理器具にも祝福をかけてみれば更に効果が上がるかも知れない、と、提案する事を忘れないイアリアだったが。
「なぁイアリア。なんか思ってたより働いてないか?」
とはいえ、イアリアが手を抜く時は全力で抜くと知っているイエンス。流石に全力も全力では、と疑問に思ったらしく、合間でそんな問いかけをしてきたのだが。イアリアの答えは決まっている。
「私が王都についた時には、初手から全力で働かざるを得ない状況だったのよ」
「お、おう」
「まさか冒険者ギルドのギルドマスターが「冒険者アリア」を舐めてかかってるなんて、私だって思わなかったのよ……!」
「……ん? え、は? ギルドマスターが?」
「そうよ。邪神の影響を排除するっていう行動を前提とした指示を出している事と言い、その後ギルドマスターの部屋に行ったらいきなり襲われる事と言い、他にどういえと?」
「ええー……マジかよ……」
それは確かに、と、イエンスは納得の様子を見せたが……「いや、でもなぁ……?」とまだ首を傾げていた。
イエンスの勘は鋭い。それはイアリアも知っている事だ。そのイエンスが、ギルドマスターが「冒険者アリア」を舐めてかかっている、という事に違和感を覚えたのだとするなら……それは恐らく、間違っていない。
「何か引っかかるの?」
「だってよ、冒険者ギルドの、一番上の人間なんだろ?」
「そうね」
「各地の支部長ですら、あれだぞ? その支部長の上にいるのがギルドマスターだろ?」
「あれ。…………まぁ、分からなくはないけれど」
「そんな、こう、なんつーか……雑な判断? みたいな事、するかぁ……?」
うーん、と、感じた違和感をどうにか言葉にしようとするイエンス。そこまで聞いて、イアリアもここまで立ち寄った冒険者ギルドと、そこの職員、支部長の事を思い出したが……なるほど? と、納得する部分があった。
何しろどこの支部でも、一応は末端であるギルド職員まで全員頭が回って対応が早く的確だった。それをまとめる支部長が一角の人物であるのは間違いなく、ギルドマスターというのはその頂点に立つ人間だ。
冒険者は、「自由」のみを自らの上に置く。そんな冒険者をまとめ、管理し、上手く動いてもらう為には、当然ながら相応の能力が必要である。そしてその能力は多岐に渡り、立場が上がれば上がる程より高い能力が要求されるのは間違いない。
「……。だとしても、今考えても本当の事は分からないわ。そうだったとして、正面から聞いても絶対に教えてくれる訳がないのだし」
「まぁそれもそうか。そもそも、イアリアを舐めてかかる理由が分かんないしな」
疑問を投げかけられたが、答え合わせは不可能だ。そして分からない事を悠長に考えていられるような余裕は、どこにもない。
だからイアリアはそうして話を打ち切り、イエンスもそれ以上考えない事にしたようだ。
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