第17話 宝石は森を歩く
単独で森に分け入り、魔薬に使う素材を、それこそ見つける端から環境を壊さない限界まで採取し始めたイアリアだが。
「まぁ、こうなるわよね」
王都を守る守役騎士の視線が切れた直後から始まり、3人から5人を1グループとした襲撃は断続的に続いていた。もちろんイアリアはその全てを返り討ちにしているし、しっかりと拘束している。
ただ、拘束しただけでは当然、邪教の関係者が回収しに来るだろう。そしてイアリアは単独行動中で、教会関係者に連絡をして回収してもらう、という訳にもいかない。教会にそんな余力は無い上に、イアリアが単独行動をする意味がなくなるからだ。
だがここで邪教関係者、あるいは強く邪神の影響を受けた人間の数を減らす事はイアリアの目的の1つだ。ならば返り討ちにして、拘束したこの人間達を、どこか絶対に拘束出来て、邪神の影響を排除し、その後も可能なら拘束し続けられる場所に移動させる必要がある。
「受け取るだけ受け取っておいて良かったわね。もっとも、私でなければあっという間に魔力枯渇を起こしていたでしょうし、魔石もどれほど必要になるか分からないけれど」
だから単独行動は無理だとされていた訳だが、そこをイアリアがどう解決したかというと。実はイアリアは、エルリスト王国北部の山脈を探索し、そこから繋がる地下通路の捜索に参加していた。その地下通路の捜索の途中で、兄弟子であるジョシアから、あるものを受け取っていたのだ。
それは、結局複数の国にまたがって広がっている事が判明した、広大極まる地下通路の始まり。隠し部屋に設置してあった、転移魔法という超高難易度の魔法を魔道具に落とし込んだものの図面だった。
イアリアがそれを読み解いた限り、どうやら目的地を声に出して発動する、という形にする事で、転移の行先を任意に変更する事が出来るし、魔道具に移動先の証拠が残らないようになる、という仕組みだったらしい。そして、転移が可能なのは何も人だけではない。必要な魔力が多いだけで、物のやり取りも可能だ。
「あら、返事が……何よ。相手の数を減らせるときに減らすのは基本でしょう? 普通の人であれば避難になるんだし、文句なら邪神か邪教の重役に言ってほしいものね」
そしてその転移魔道具の図面を元に、イアリアはマナの木を加工して、必要な魔力を随時自分から吸い上げるように設定し、遠く東にあるアイリシア法国、その中央である大聖堂にいる筈のジョシアと、手紙でやり取りをしていた。
なおかつ昨日の時点でイアリアは、王都に邪教の影響が強く出ている事が確定したから、邪教の関係者を炙り出して捕縛、そちらに転送する事で、全体の人数を削りたいが、受け入れは可能か、と、確認を取っている。
それに、何とかする、という返事があったから、イアリアは自分を囮にして、少なくとも行動を操られる程度に邪神の影響を受けたか、自ら行動する程度に邪教に染まっている人間を釣り出す事にしたのだ。それを今更『ちょっと人数多くない?(意訳)』と言われても、と、その返事を一笑に付すイアリア。
「まだまだ気配は途切れていないんだから、この程度で受け入れが止まると困るわ」
そう言いつつ、再び襲い掛かって来た襲撃者、いや、手に武器ではなくロープを持っているから、誘拐者だろうか。そんな正気も定かではない彼らに、イアリアは、こちらも自身から魔力を吸い上げる形で発動する、強い電流を発生させる棒型の魔道具を容赦なく叩きつけた。
バヂン、バリッ、バヂヂッ、と音が響き、ぐったりと気を失って倒れる誘拐者達。イアリアはそんな彼らの手足をしっかり縛りあげて、猿轡を噛ませる。そしてさらさらと小さなカードに先程届いた手紙の返事を書くと、「転移、アイリシア法国大聖堂内中庭、空きスペース」とはっきり声に出して、転移の魔道具を起動させる。
カードの内容は『まだ序の口ですら無いわよ。文句なら私に執着する邪神に言って頂戴』だ。まぁ、ド正論である。
「さあて、後何人釣れるかしら」
……ちなみに、イアリアの本当の目的は、この大量捕縛ではない。何故ならイアリアは王都の東門から外に出たが、そこからゆっくり、山の中を通りながら、王都をぐるりと回るように移動していたからだ。
そしてその途中に太く長い木の杭のようなものを定期的に打ち込んでいく。魔道具も使って素早く、地面より更に下にだ。もちろん誘拐者達を撃退し、その気配が一瞬でも途切れた瞬間を狙って、だが。
完全に地面に埋まってしまうほど深く打ち込んだ杭は、当然ながら魔道具である。割と最初の方で見つけた野生のマナの木の、特に太い枝を使って、マナの木そのものを再生させながら作ったそれは、大変な数があった。
「ま、釣れれば釣れるだけいいのだけど。だって、それだけ王都から人が減るって事でしょう? 一般人なら避難になるし、邪教の関係者なら相手の数が削れるわ」
その独り言すらもブラフとして、きっちりと魔薬の材料は採取しながら、イアリアは移動を続ける。何しろ、既に時間は大して残っていないのだから。
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