第16話 宝石は外出する
商業ギルドからイアリアが戻って来た時、商業ギルドの人間を1人伴っていた。教会は相変わらずばたばたと忙しい空気が満ちていたが、それでも一緒だったのがイアリアである為、すんなりと奥へ通される。
ただその、商業ギルドでもそれなりの地位にあると思われる人間が帰った後で、改めてやって来た商業ギルドの人間が、教会の裏手にあるスペースに何かを設置した、となると、流石に神官たちもあれは何だと様子を見始めたようだ。
なおそちらへの説明はイアリアが担当し、簡潔で分かりやすい説明を受けた神官たちは皆納得したので、設置自体に問題は無かったようだ。
「さて、と……」
当然ながらその設置物もイアリアによる、対邪教、対邪神の手の1つだ。ただしこちらは準備に時間がかかるし、使用するタイミングも決まっている。だからひとまず後回しにして、イアリアは次の手を考え始めた。
何故なら1度とはいえ、イアリア自身に誘拐の手が迫っている。と言う事はつまり、邪教側にそれだけの余裕があるという事だ。もちろん、忙しい中で無理に手勢を割いたのであれば一番良いが、最悪を考えるのであればそうなる。
それでも多少の余裕を削ったという事にはなる訳だから、イアリアが王都に来たかいはあった、というべきだろう。ただし、その人員自体は既にどこにいるか分からない。すなわち、再び相手の余裕に戻っている可能性がある。
「……やっぱり、見回りと祝福だけでは、足りていないわね」
何より、神官が襲われたという事と、襲われた際に光属性の防御魔法を展開する魔道具が効果切れしたタイミングを狙われたという事から、やはり王都における邪神の影響は、既に大分大きいと見るべきだ、とイアリアは判断した。
協力を拒んだ(イアリア視点)冒険者ギルドや、そもそも関与しようのない王城がどうなっているかは分からないが、それ以外、いよいよ新年祭に向けて国の各地から人が集まって来た都市としての部分では、創世の女神の力より、邪神の力の方が大きいという認識だ。
ただし、こちらにはそれだけの力の差をひっくり返す手札は無い。というか、こちらで出来る事はやった現在の状態で、それでも少しずつ押されている、という事だろう。
「だから、こっちの手札を増やすしかないのだけど、流石にこれ以上無理は言えないし、人手も増やせないし……」
そういう意味でも、冒険者という動ける人間を多数抱える冒険者ギルドが頼りにならないのは痛手だったのだが、そこをいつまでも言っていても仕方ない、とイアリアは考えを切り替える。
人手は増やせない。時間もかけられない。かといって、既に王都に入れる人数の上限に挑戦しつつあるこの状況で、そこまで大きな動きも出来ない。随分と制限が多いが、それはただの条件である。
それらを満たして邪神の影響を排除する事が出来る手札、と、イアリアはしばらく考えた結果。
「……。ちょっと素材が足りないかしら」
今この状況で、さっき誘拐されようとしたイアリアが王都の外に出る。もちろん多数の反対が出たが、
「王都の外なら、少々派手に迎撃しても大丈夫でしょう? それに、いざとなった時に魔道具の追加が出来なくなったり、光る魔薬が底を尽いたら詰むわ」
と、まさしくその誘拐未遂を自力でどうにかした事を前に出して説得。なおかつ、魔石が尽きる前には必ず戻ってくると約束して、外出の許可を得た。
もちろん王都の東側の門から外に出たイアリア。目指すのは、程近くにあってそれなりに人が入っている、山に続く森だ。
「素材採取も当然だけど……やっぱり、人数は減らせるところで減らさなければね」
まぁその目的の中に、自分自身を囮にして、邪教の影響を受けた人間を釣り出し、無力化する事が入っているのだから、心配されるのも当然だったのだが。
ただし。
「かなり力業ではあるけれど……もう、手段を選んでいられるような余裕は、どこにも無いもの」
イアリア自身が誰にも言わなかった本当の目的は、また別だが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます