第15話 宝石は確認する
その後、イアリアが虫下しの魔薬を作る為に部屋に戻った時には、まだ光を浴びた状態の推定不審者達は大人しくしていた。なのでイアリアは見張りをしてくれている人に挨拶して部屋に入り、さくっとブラッドリーチ用の虫下しを調合する。
それを怪我をした神官の所に持って行き、戻ってきたところで推定不審者達への問いかけが行われたが、その時点では既に影響は完全に抜けていたらしく、自分達がどうしてこんな大勢でイアリアの所へ来たのかは分からない、と言っていた。
もちろん身元も確認したが、教会に良く出入りする顔なじみという事で解放される事になった。護符も反応しなかったし、そもそも今の教会に、余力はあんまりない。
「……リトルがいれば、追跡してもらったのだけど」
イアリアはそう呟く程度には怪しんでいたのだが、一度魔法学園に戻った際、出かけて戻らない師匠の様子を見に行ってほしい、と頼んで以降、事情があって別行動である。アイリシア法国でその事情については説明を受けていた為、そこはイアリアも納得済みだ。
だがまぁ今最優先にするべきなのは、神官が怪我を負った、という事である。何故なら王都の見回りを行っている神官は、皆光属性の防御力を上げる魔道具を身に着け、祝福という奇跡を祈りながら移動して行っていた筈だからだ。その魔道具はイアリアが作ったものなので、それこそ馬車に跳ねられて落下しても、少々の傷で済むだろう。
何故そんな魔道具を神官が身に着けているかというと、邪神の影響を防ぐ為には、光属性の魔力による魔法が最も効果的だ、とイアリアが突き止めたからだ。それに祝福は、祈っている神官自身には効果を発揮しない。だから神官を守る手段は必要だろう、と、イアリアが用意したのである。
「その防御を破ったって事よね? ダメじゃないの」
「いえ、防御が切れたところに襲い掛かられたそうで……」
「もっとダメじゃないの。こっちの防御が薄くなった事を、邪神もしくは邪教の信徒は感知できるって事よね?」
なお、その時の状況を詳しく聞いたところ、イアリアをしてそう断言せざるを得ない情報が出てきたし。王都の西側、護符も祝福も持ちが悪い、つまり邪神の影響が比較的強い場所だと、魔道具の効果切れも他と比較すると速い、という情報も出てきたのだが。
まぁ魔道具の効果切れが早まっているのは、分かっていた事だしむしろちゃんと防げているという事だから問題ない、と、無理矢理プラスの部分を拾い上げるイアリア。もちろん、マイナスの方が圧倒的に大きいのは間違いない。
「新年祭も近づいて来て、人もいよいよ増えてきたから、順当に邪教の信徒の活動も活発化している、という事なんでしょうけど……何なら邪神における祝福相当の奇跡を願って、相殺している可能性まであるのだけど……」
「見回りで立ち寄るたびに、冒険者ギルドや、騎士の皆様の詰め所には、祝福をかけているのですが」
「重ね掛けして効果が上がるものではないようだけど、やらないよりはマシ、ぐらいなものでしょうね。だって絶対狙われているでしょうし」
頭が痛い。と、魔薬作りと共に中断していた昼食の続きを食べながらイアリアは呟いた。そしてここで思い出したのは、あの、推定元の形を取り戻した、祝福の際に使うと伝わっている、ハンドベル型の魔道具だ。
鳴らす為の
「あれですね。どうやら祝福を願う祈りを捧げると、あの内部に光が出現し、それが音を鳴らすようです」
「光が」
「はい。またその音が聞こえた範囲全てに祝福の効果が表れ、また、その効果が通常の祈りよりも長く続くという事で、一番大きな通りの見回りに用いられております」
「……まぁ、それが一番手堅いわね。流石に教会の中でだけ使う、なんて安全策を取れる余裕はないわ」
どうやら、効果範囲、効果時間、その両方が上昇する、という効果のようだった。なお現在、遠距離でも連絡できる魔道具を使い、他の教会にも似たようなものが残っていないか確認しているらしい。
まぁ、それはそうだ。王都まで運んでくるのは間に合わないかもしれないが、以後も続くだろう邪教の信徒との戦いにおいて、「安全な場所」が確保しやすくなるのは間違いない。流石に奪われて悪用される、という事は無いだろうが、単に破壊されるだけでも痛手である。
「ところで、王都での新年祭には、夜空に花を咲かせると聞いたのだけど」
「? えぇ、はい。王城に務める魔法使いの方々が、その魔法で空に光の絵を描いてくれる他、商業ギルドの方々が、火薬を使った花火というものを打ち上げる予定ですね。毎年図柄が違うので、楽しみにしている方は多いでしょう」
「商業ギルドは、邪教について知っている?」
「必要な分の警告は出していますし、護符の配布に際して、ある程度は協力体制にありますが」
「そう。なら話は早そうね」
まぁそれはそれとして、イアリアは自分にやる事を探し、見つけ、実行する手を止める事は無い。
何しろ、こちらが手を止めずに妨害し続ける事が、邪教の関係者にとっては、一番嫌な事なのは分かり切っているからだ。
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