第13話 宝石は訪問を受ける

 エルリスト王国王都、エルリスタは、広い。

 その理由は、王の住む城を守る為であったり、王都に別邸を構える貴族が多い為であったり、人が集まった為に何度も拡張工事をしたからであったりと様々だが、現実として、とにかく広い。

 エルリスト王国の代々の王は比較的賢君が多かった為、王都の拡張工事はしっかりと計画を練られ、既存の街並みを壊さないように、かつ煩雑にならないように行われた。だから、迷路のように入り組んで、地元住民でもよく分からない場所、というのは非常に少ない。

 だがそれでも、やはり人の目の行き届かない場所、というのは存在するし、それが1年の中でも特に人の多い時期ともなればなおさらだ。もちろんそうなる前提で普段より警備を増やし、見回りを増やし、気を付けているが、それでも限界というものは存在する。


「イアリアさん! すみません、傷を癒す魔薬はありますか!?」

「あるけど、どうしたの? 教会にも十分な備蓄はあるでしょう?」

「見回りから戻って来た神官が、怪我を! 教会にある魔薬では傷が塞がらないんです!」


 イアリアはその時、昼休憩の時間を使って教会内部に借りた部屋に引っ込み、昼食を食べながら魔薬の調合をしていた。そこへ、焦った声でそんな内容を聞かされれば、普通は急いで部屋から飛び出すものだろう。


「護符は使ってみた?」

「は、え?」

「傷が塞がらない程重傷なら、どちらにせよ魔薬では限界があるわ。でも確か今日の見回りで今の時間に戻って来れる距離と言うと、西側の路地の辺りでしょう? なら普通の傷じゃなくて、邪神の影響である可能性が高いわ。護符を使ってしっかりと関係者全員を清めてから、もう一度手当をしなさい」

「ですが! 怪我をしたのはニコラ神官で!」

「そう」


 だがイアリアは冷静に言い返しつつ、魔薬を作る作業を落ち着いて中断。今日もしっかりと身に着けている、内部空間拡張能力付きの鞄……マジックバッグから、いくつかの物を取り出して右手に構えた。

 そして、声の大きさを調節する事で移動していないように偽装しつつ、扉の前に移動。しっかり油を差していた為に音もなく動く鍵を動かして開けるようにして、


「で、それを叫んでいるあなたは誰?」


 そう声を掛けつつ、扉を開くと同時に、手に持っていたものを投げつけた。

 それはイアリアが作った中でも、特に強い閃光を発する魔薬の小瓶だ。しかも瓶を割る為の癇癪玉と一緒に投げたので、目の高さで目を焼くほど強い光が発生した事になる。

 イアリア自身はしっかりと閃光から目を守る魔道具を身に着けていたので問題なく、続けて取り出したのは長いロープと、ノーンズの髪を使った、コイン型の魔道具だ。そして案の定1人ではなかったし、何なら教会の関係者とも思えない黒尽くめの格好をして目を押さえている人間達を、手際よく縛り上げた。

 なおかつそうしながらコイン型の魔道具を押し当てるが、こちらも触れた瞬間に壊れていく。すなわち。


「何というか、ワンパターンなのよね。ほんと、頭が悪いわ」


 邪教の信徒か、邪神の影響を強く受けた人間達だ、という事だ。もちろんイアリアは彼らを縛り上げる際に、軽くとはいえ持ち物検査をしているし、追加でしっかりと猿轡も噛ませたので、もし邪教の信徒であっても自決も逃走も不可能である。

 ダメ押しとして、ロープでまとめて縛り上げられ、背中合わせに輪になって座り込む形になった彼らを囲む形で、強い光を発する魔道具を設置しておくイアリア。邪教の信徒であっても、しっかり光を当てれば邪神の影響を排除できるのは、とある子供達で証明されている。


「とはいえ、一応嘘ではないかだけ確認しに行きましょうか。西側は東側と比べて、祝福や護符の持ちが悪い、というのは聞いているのだし」


 光の眩しさにか、それとも何故自分が拘束されているのか分からないからか、呻き声を上げている人間達を、イアリアは一旦放置。

 見回りの神官たちが帰ってきている時間であるのは間違いないので、教会の表に当たる場所へと、ちゃんと効果の高い魔薬があるのを確認して、移動していった。

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