第12話 宝石は首を傾げる

 護符作りの手伝いを、冒険者ギルドに対する依頼として出した結果、やってきたのは比較的冒険者ランクの低い冒険者達だった。まだ見習いとか新人とか、そう呼ばれる若い或いは幼い冒険者だ。

 とはいえ、それも当然だろう。教会における護符作りの手伝い。危険などどこにも無い、むしろ裏事情を知る人間なら、護符に触れるという事は邪神の影響が自動的に排除されるという事で、冒険者ギルドの本部より安全だと判断するだろう。


「……流石に、何かあった時、最前線で体を張るような冒険者は来ないわね」


 当たり前なのだが、ぼそっとイアリアはそんな事を呟いたりしていた。もちろんイアリアだって年若い人間を優先して守る事に異存は無い。だがそれはそれとして、敵になり得る人数を減らしておきたい、というのも本音だった。

 人の手が増えた事で、護符を作る量は増えた。簡単な手伝いの仕事、と聞いて来たらしい低ランクの冒険者が、その仕事の量に目を白黒させていたが、与えられた仕事はこなそうと必死になっていたから大丈夫だろう。

 教会の庭の端にイアリアが植えたマナの木は、元々教会というのが魔力の多い土地だったからか、イアリアがちょくちょくその根元に大量の魔石を埋めるからか、葉っぱを取る端から次の葉っぱが伸びていくようになっていた。


「ところで気のせいでなければ、マナの木を植えてから、その周囲に女神の花がたくさん生えてきているわよね?」

「そうですね……?」


 なお護符を作る為に必要な材料の内、魔石はイアリアがいくらでも補給する。しかしもう1つの材料である女神の花は、流石に限りがある……筈だったのだが。

 マナの木をイアリアが(許可を取って)庭に植えて、葉っぱを取るからと魔石を与えて水をやった結果、すくすく育ったその根元に、女神の花が群生し始めたのだ。自分の気のせいではない事を確認したイアリアだったが、確認された神官も首を傾げている。

 まぁ、マナの木は割とどこにでも生えている植物だ。そしてその素材を使うのは魔力に関わる人間だけであり、必要になった時に探せば十分だった為、素材を採取しやすい場所に植える、という発想は無かったのだろう。


「……魔力に適応する、という変異が起こった木、というだけの筈なのだけど。魔力に適応した結果、魔力を栄養と認識して、魔力を通しやすいように変化した結果、周囲の魔力を集める効果もついていたのかしら」

「魔力を、集める?」

「女神の花は、光属性と闇属性の魔力がある場所に生えるのでしょう? そういう植物って、必要な魔力が多い場所だと生えやすくなるのよ。たまにある天然の魔力だまりが薬草の群生地になるのと一緒ね」

「な、なるほど……?」


 と、イアリアは考察して説明したが、それを説明された神官が良く分かっていない風だったので、それ以上は続けないことにした。それはそれとして空き時間に「マナの木の周囲が人工的な魔力だまりになる可能性」と題して、論文を纏めていたが。

 とはいえ、今現在重要なのは、教会の敷地内にマナの木を植えると、その根元に女神の花がたくさん生えるという事だ。教会の敷地にはよく生えている、もしくは女神の花が元々群生しているところに教会が建てられる、と言っても、それでも数には限りがある。

 女神の花は護符を作るにあたって、必要な材料だ。護符はまだ行き渡ったとは言えず、根本が手つかず状態である以上は護符も壊れ続ける。だからその素材の補給は、非常に重要だった。まぁ、だからイアリアが教会の敷地内に許可を取ってマナの木を植えたのだが。


「まぁでも、女神の花が無ければ護符は作れないのだから、助かる事は間違いないわ」

「そうですね。これも女神様の思し召しでしょう」


 なので、そうまとめて話を終わらせた。何せやる事はいくらでもある。護符を作るだけでもまだまだ手は足りていないのだ。既にイアリアは魔石を作るだけなら、ほとんど無意識でも特定の座標に魔石を出現させることが出来るが、それをすり潰すのはやはり手間がかかる。

 この状況を解決するには、問題の根本をどうにかするか、護符の質を上げる事で効果時間を延ばすぐらいしかないが、根本はともかく護符の改良もすぐには難しい。


「……作る魔石に込める量を、少しずつ増やしてみようかしら。今なら護符はどんどん入れ替わるのだし、少しずつなら効果が上がっても、護符が行き渡ったからとか祈りが増えたからとかで、勝手に納得してくれるでしょうし」


 それはそれとして、とりあえずすぐに出来そうなことは、思いつき次第実行するイアリアである。

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