第11話 宝石は丸投げる

 流石専門家と言うべきか、邪神もしくはイアリアに関する事の優先度が高いからか、イアリアが文章の解析を頼んだ2日後には、古い時代の魔道具と思われるハンドベルに刻まれていた文字の特定が終わったらしい。

 図の付いた文章にまとめられたその内容によれば、やはりあの文字は文章であり、教会の聖書にある中でも特に古い文言だったようだ。内容としてはどれもほぼ同じであり、女神の力によって不運を遠ざけ、幸運を守るものだったらしい。

 なおイアリアはその資料というか報告書を確認しているが、ハンドベルそのものは現在、判明した文言をしっかり彫り直しているところだとの事。明日には届くようだ。


「……問題は、魔道具として機能させる為に必要なものが、聖句だけではなかった、という事だけれど」


 そして彫り直すついでに、彫り直しで出た金属くずから、ベルの本体となる部分の金属を特定する為の調査をしてほしい、という追加依頼があった。まぁ、どちらにせよ、魔道具本体であるベルが無ければどうしようもない。

 だからイアリアもその追加依頼を素直に受けて、一つまみあるかどうか、という量の金属くずを相手に、慎重にその性質を調べ、銀だと思われるその金属が何なのか、特定しようとした訳だが。


「何かしら、これ。色は銀で間違いないけれど、ここまで何も反応しないって事は、絶対に別の金属よね。魔化生金属ミスリルは元の金属の性質が残るし、かといって、錆び落としで錆びを取る事は出来たのだから、金属ではある筈なのだけど……」


 ちなみにイアリアは、相手が古いとはいえ魔道具と言う事で、落とした錆も綺麗に洗って乾かして保管しておいた。もちろん錆の全てが残った訳ではないが、綺麗になった部分の金属くずと比較する事が出来る程度の量はある。

 その錆に対して同じく性質を調べる実験をしたところ、やはり劣化していたからか、こちらはある程度の反応が出た。


「…………少なくとも、合金ではないわね。もっとも、私の知らない金属でもあるようだけれど」


 の、だが。その結果は、イアリアをしても「知らない」ものだ。もしかすると或いは、鉱山を有して国境に接して、優れた鍛冶師を無数に抱える鉱山都市ディラージならば何か分かったかも知れないけれど、と呟くが、ここは王都エルリスタである。

 ううん、と考え込むイアリアだが、分からないものは分からない。それに金属の特定を依頼してきた意味は、これが新しく作れるかどうかだろう。イアリアが知らない金属という事は、少なくとも一般的に手に入るものではない事は確定している。

 つまり、複製もしくは再現する事は不可能だ。まぁ、だからこそ真っ黒に見える程に錆びてしまっても、大事に保管されていたのだろうが。


「とはいえ、あのベル自体の使い方が良く分からないのよね。……あのベルを持った状態で祈りを捧げて祝福の奇跡を起こしてもらう、のは間違いないでしょうけど。効果を高めるのか、広げるのか、そのどちらかでしょうし」


 と言う事を、王都の教会の偉い人向けの文章と言う形でまとめて提出したイアリア。イアリアはあくまで部外者であり、邪教に対しての協力体制を取っているという形だ。

 祈り願っても神官ではないから奇跡は起こらないし、少なくともこの時点で、あのベルに関して出来る事はもう無い。……まぁだから、ここから先は丸投げである。


「さて。それじゃ、庭の端に植えたマナの木に魔石を上げて、光属性の魔石を作って、護符作りに参加しましょう」


 やはりと言うべきか、イアリアも聞こえてはいる。祝福を願いながら見回りをした先であの護符を配った結果、教会から遠い程早く護符が壊れる事と、これも神の奇跡の一種なのか、壊れた事で正気に戻る人数が多い事が。

 よってマナの木の葉っぱで作る護符はいくら作っても足りない状態で、それこそ孤児院の子供達にも手伝ってもらっている程であり、それでもなお人手が足りないから、冒険者ギルドに手伝いの依頼を出した方が良いのでは、という話になっているとも。


「……影響がすっかり出ているのは良くないけど、一部でも冒険者を正気にしておけば、最悪よりはいくらかマシになるかしら」


 なおその、冒険者ギルドに依頼を出す、に込める意図は、イアリアの予想通りである。当たり前だ。


「敵の味方は、顕在であれ潜在であれ、少ない方が良いものね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る