第9話 宝石は請け負う

 マナの木はそこらへんに生えているし、イアリアが教会の敷地の端に許可を取って穴を掘り、土属性の魔石を詰めたところにマナの木の枝を挿して水を与えて見たところ、若木サイズのマナの木へと変わったりしたので、葉っぱの補充は問題ない。

 女神の花も、教会が外に出さないというだけで数が無いわけではない。型抜き機(仮称)も、教会がその構造を商業ギルドに特許を出願し、正式に「シギルシアリンガー」という名称が付いた。この出願者がイアリアではなく教会だったのは、イアリアの提案である。


「個人より教会と言う組織が作ったものだ、という方が、きっと特許の通りは良いわ」


 というのが表向きだったが、この「シギルシアリンガー」はいくらでも応用が利く道具だ。その特許を取ったという事は、教会に高額の特許料が当面転がり込み続けるという事になる。つまりイアリアから教会への、実質的な資金支援だった。

 何しろ教会は、支援を受けられるところ限定とはいえ孤児院を経営している。そしてこの後の動き的に、狂魔草を回収して無毒化する為に、大量の食べ物も必要だ。イアリアが地下道で邪教に洗脳された子供達を見つけているので、保護する子供の人数も増えるだろう。

 元々お金なんて全然足りてないところに、更に出費が進む事が確定しているのだ。教皇辺りは、それが邪神と戦う事だ、と覚悟しているだろうが、だからと言って資金が目減りしていく一方、というのは、色々な意味でよろしくないだろう。と、考えた結果である。


「この功績を讃えて「聖人」に……」

「ならないわ」


 大変感謝された勢いでそんな会話もあったがともかく。

 そんな訳で、正式に護符として認定されたそれの量産体制も整ったところで、さて後は何が出来るか、と考えていたイアリアのところに、あるものが持ち込まれた。

 それはこの、王都にある教会で保管されていた魔道具らしきものだ。ただし劣化が激しく、元が恐らく、手に持って鳴らすベルだったのだろう、と言う事しか分からない。


「…………随分と年季の入った骨董品ね?」


 こういう時の言い回しは、貴族をしていた時の経験からである。というのはともかく、この古びた謎の道具を持ち込んだ神官によれば、これはかなり前の時代から伝わる道具らしい。それを何故今持ち出したかといえば、残っている文献や口伝から推測するに、これは祝福を行う時に使っていたものだったようだからだ。

 祝福、という神の奇跡。これが邪神に対して大変効果がある事が分かった。ならば、その祝福を行う時に使われていた道具にも、何か大きな意味があるのでは。そしてここまで多様な魔道具を作り、魔薬師として大量の知識を保有しているイアリアなら、これが何なのか分かるのでは。王都の教会の上層部で、そう思いついた誰かがいたようだ。

 ある種無茶ぶりなのは分かっているので、その話と謎の道具を持って来た神官は非常に申し訳なさそうだった。それはそうだ。何しろイアリアには、出来る事がたくさんある。


「まあ、いいわ。古くから祝福をする時に使っていた道具、なんて、私も気になるし」


 ただ、その中でもイアリアにしか出来ない事、となると、一気に減る。何故ならイアリアが、出来るだけ誰でも出来るようにしたからだ。そしてこの目の前の道具の解析というのは、その少ない中に入るだろう。

 何しろイアリア自身はあまり自覚していないが、魔薬師ではなく、魔道具職人としても十分やっていけるだけの知識がある。そして元魔法使いという経歴で魔法使いの教育を受け、ついでに魔力が創世の女神の力であり、意思によって世界を上書きしているのではなく、再創造している、という事実も知っている。

 つまり、少々どころかかなり無茶な性能や構造であっても、魔法を使えば実現すると知っている。そしてイアリアは元から賢い為、それを知ったという事は、その発想の制限が取り払われたに等しい。


「(きっと師匠なら「一番いい状態の時に戻れ」の一言で終わるのでしょうけど、ね)」


 なお、イアリアにその辺の自覚が無いのは、大体比較する方がおかしい相手を比較対象にしているからである。

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