第8話 宝石は工夫する

 そんな訳で、魔道具と魔石を作りながら色々と試行錯誤したイアリア。用途と使用目的を説明すると、教会関係者からも賛成を得られた為、教会が半ば以上独占している素材を提供してもらったりして、思ったよりも試行錯誤の幅が広がったりした結果。


「…………もしかして、これも一種の神の奇跡なのかしら」


 最終的に出来上がったのは、光属性の魔石をすり潰して粉にしたものと、女神の花を萼ごとすり潰したものをよく混ぜて、マナの木の葉っぱに塗ってそれを5枚ほど重ね、神の印を型抜きしたものだった。抜いた部分も神の印なので、これは軽い木材で似たような物を作り、その真ん中にはめ込む。

 所有している間は、祝福ほどではないもののそれなりに邪神の影響を防ぎ、魔力を使い切ったら壊れる。それに必要だったのが女神の花、という、光と闇の属性の魔力がある場所でなければ育たない、女神が齎したと言われる花だ。

 実際はどうなのか分からないが、これを使う事でようやく、効果切れで壊れる、という特性が付いた。そして同じ挙動をしていたのは、創世の女神と同じ色である銀色の髪、それを持って生まれて来て、比較的最近「聖人」に認定されたノーンズの髪の毛である。


「まぁ、出来上がったのだから問題は無いわね。神の印もある事だし、護符だと言って配ってもおかしくないでしょう」


 銀色の髪と、女神の花。それを使う事で初めて付与できる、効果切れで壊れる、という特性。それを考えてイアリアはそんな事を思ったが、今問題なのは、この護符をいかに素早く大量に作るか、だ。

 流石にナイフで型抜きするのは少々難易度が高い。だが今イアリアがやったように、片方を良く研いだ薄い金属板を曲げて神の印の形にしたものを押し付けるのは、結構な力が必要だ。何度も使えば、型自体も歪んでしまう。

 ただ、大量に作るには、これを簡単に出来るようにした方がきっと早い。それは間違いないので、しばらくその方向で考えるイアリア。


「……そういえば、学園で何か、分厚い……論文だか資料だかの紙の束の端に、同じ大きさの穴を開けて、紐を通して散らばらないようにする道具を使っていた人がいたような……」


 クッキーの型抜き、から、もっと分厚いものに同じ形の穴を開ける方法、穴の形を自由に変えられればなお良し。そういう方向に発想を変化させながら、自身の記憶を片端から思い返していたところ、そんな場面が引っかかった。

 あれはどこの何の道具だったか、とその辺りの記憶を重点的に思い返すと、確かあれは、鞄やベルトと言った革製品に穴を開ける為の道具を自力で改造したものだった、という事実が出てきた。革に穴を開けられるのだから、紙なら少々分厚くても問題ない。

 ただ問題は、その穴が型を抜くのではなく、太い針のような物でとにかく穴を開けるというものだった事だろう。中身も使うのだから、穴を開けるだけではダメだ。


「……でも、発想としてはその方向で良い筈だわ。てこを使って、更に針の根元を重くして、針自体を丈夫に……針ではだめね。それこそ、薄い板に加工しても丈夫な板があれば、その片方を研げば良い筈なのだから……」


 で、色々考えた結果。


「今から色々探している暇は無いのだし、量産の予定もないし、もう魔道具でいいわよね」


 はっきり言って、魔法ではなく魔道具であっても、こんな気軽に作れるものではない。その辺り、それこそ比較的常識がある方の兄弟子であるジョシアが見ていれば「そういうところ、イアリアは本当に師匠そっくりだよね」と言うだろう。

 最終的に出来上がったのは、持ち上げるタイプの床下収納の扉のようなものだった。扉部分の上側には取っ手がついていて、下側の真ん中には神の印を抜く為の、クッキーの抜き型のようなものがついている。

 扉の上側真ん中に土属性の魔石をはめ込む事で抜き型を強化し、枠の真ん中に型を抜きたいものを置いて、扉を閉めるように上側の板を下ろし、持ち手に体重をかければ、非力な人間でも分厚いものに、神の印型の穴を開ける事が出来る。


「マナの木の葉っぱは、根元を残して幅の広い刷毛で塗って、最後に切り落とせばいいわね。早めに量産できるようにしないと、配る方が間に合わないわ」


 ただこの後、型の中に残った分を取りだすことに苦労した為、型抜き機(仮称)の下に短い脚を取り付け、型は縁が盛り上がる形で尖った金属の塊に変更された。

 そして金属の塊であれば魔石で強化する必要は無くなったので、問題なく量産は可能になったようだ。

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