第7話 宝石は動き出す
教会の神官が使える簡易にして基礎の奇跡、祝福。これがこう、何というか、ある意味邪神特攻の奇跡だと看破したイアリアは、自身で証明した「光属性の魔力で邪神の影響は防げる」という説も合わせて、祝福という奇跡が非常に有効な対策になる、と説明した。
神官からすれば、この祝福という奇跡は、それこそ神官であるかどうかの証明になるもの、程度の認識だった。もちろんれっきとした神の奇跡である以上軽んじる事は無いが、特に邪神に対して、そこまで効果があるようなものだとは思っていなかったのだ。
その神官は急いで王都の教会の代表者に今の話を持って行き、イアリアは奇跡を願う神官自身には祝福は効果を表さない、かつ、邪神に狙われてもおかしくない、という事で、神官服の下に着けられる、光属性の防御魔法を展開出来る魔道具を作る事になった。
「まぁ、それはそうよね。元々が神様の力なのだから、神様自身が使った方が絶対に上手に扱えるのは、当然の話だわ」
その作業をしつつ、イアリアは例として見せてもらった祝福。コップにかけられたそれがどれくらい持つかを観察していたのだが、イアリアが王都の教会の神官全員分の魔道具を作り、祝福を願いながら見回るルートと班分けが出来て、最初の1班が出発した、あの話し合いの3日後にようやく魔力が切れる、というものだった。
もちろんこの効果時間は、教会の中で何の影響もなく放置された場合。つまり最大効果時間となるだろう。邪神の影響を相殺すれば、その分だけ効果切れは早くなる。だが、イアリアが作った魔道具は、少なくとも教会に戻るたびに魔石を変えるか追加しなければならないのだ。
その理由についてはそう推測するイアリア。人の手、それも専門ではない人間の手による魔道具と、神の御業。どちらが優れているのか等、比べるまでもない、と。
「……まぁでも、一応私も感謝の祈りを捧げておくべきかしら」
ただそれでも、一応、創世の女神の力だって無制限にあるものではない、という認識がイアリアにはあった。もちろん今でも、主にアイリシア法国の神官が祈りを捧げているだろうが、こうして奇跡を大盤振る舞いすれば、減るペースの方が多くなる可能性だってあるだろう。
創世の女神の力となるのは、良き祈り。具体的には、感謝、喜び、誰かの幸いを願う。そういう祈りだ。だがイアリアは、信仰心と言うものが地を這うどころかマイナスにめり込んでいる。何故ならこれまでの人生で、助けてくれたのは神ではなく人だったからだ。
「薄っぺらい心で捧げた祈りなんて、誤差にもならないわね。魔道具を作る事で貢献しましょう」
故に、あっさりと諦めて、自身が作る魔道具の質を更に上げる事に集中し始めた。
……実際の所、持って生まれた魔力がそもそも膨大である事。その適性が全ての属性にある事。少なくとも魔法学園に入るまでは、契約した属霊は通常の存在であった事。これらから、イアリアは神官になればかなり難易度の高い奇跡でも起こせる可能性が高かったりする。
そして難易度の高い奇跡が起こせるという事は、それだけ祈りが女神に届きやすいという事だ。つまり良き祈りをささげた場合、より多くの良き力に変わる。効率が良いという事になる。
「イアリア様。祝福を祈りながら見回った結果ですが、どうやらその直後からその通りで諍いが減ったらしく、騎士団の方から見回りの要請が来ています」
「つまり魔石の消費が進むのね? 問題ないわよ。あの木箱が空になる事は無いようにしておくから、見回りの方はよろしくお願いするわ」
「分かりました。ありがとうございます」
……まぁ、実際目に見えて効果が上がっている為、神官はともかく、治安維持を担当する騎士団や、自分達がおかしかったことに気付いた一般の人々が、神へ祈りを捧げる事が増えていたので、結果的には問題ないのだろう。
「というかむしろ、魔道具もたくさん作って教会に来た人に配るぐらいはした方が良いのかしら。……その場合、魔石をはめ込むのではなくて、それこそノーンズの髪を使った物と同じように、効果が出来たら壊れる方が扱いやすいわね。どうすればいいかしら」
そして効果があったのであれば、それをさらに広げるにはどうすればいいか、とすぐ考えるのがイアリアである。
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