第5話 宝石は見限る
ギルドマスターが自分を舐めてかかっている。それを確信したイアリアは、吐き捨てるような返事をしたその足で、そのまま1階へと戻って行った。なおかつそのまま冒険者ギルドの本部からも出る。
……流石に入口の所でギルド職員に追いつかれたが、イアリアはフードはしっかり下ろしたまま、それでも見えるだろう口元をにっこり笑顔に変えて、こう告げていた。
「対策を用意しているから受け取ってほしい、ね。お仕事お疲れ様。そして伝言をお願いするわ。――あの雑極まる部屋よりは対策しているから不要です、とね」
その伝言の先がギルドマスターだと分かっている為に、顔面蒼白になって固まってしまったギルド職員だが、当然イアリアが気にする訳もない。売られた喧嘩を買った以上は、徹底的にやるのがイアリアだからだ。
そして実際、イアリアは対策をしていた。邪神の影響に対して。行動と結果、その共通項を探して理由を推測し、効率化するのは、魔法学園で行っていた実験と何ら変わらない。
前提1、魔力と言うのは、創世の女神の力の欠片である。
前提2、邪神は、創世の女神及び4属性を司る聖獣の一部を使って創られた「悪しき力の器」が変質した存在である。
条件1、邪神の能力(権能)は、魔力を無効化する特殊体質で防げる。
条件2、邪神の能力(権能)は、強い光を浴びせる事で解除、減衰させる事が出来る。
結果としてイアリアは、邪神の能力あるいは権能とその防ぎ方、解除の仕方。その条件について、推測から1つの仮説を立てた。
推測1、「悪しき力の器」に使われた女神の一部は、闇を司る部分だった。
推測2、邪神は光を司る能力(権能)を持っていない。
仮説――邪神の影響を解除、減衰させる事が出来るのは、光と言う現象ではなく、「光属性の魔力」である。
「……無事に頭はすっきりしているわね」
そして作ったのは、馬蹄を大きくしたような形にマナの木の枝を加工し、魔法式を刻み込み、光属性の魔石をはめ込んで、首に引っかける形の魔道具だ。発動する魔法は身体強化の内、主に体の耐久度を上げるものとなる。
出力が高い為に大量の魔石が必要となるのだが、イアリアは現在、魔力の底が無い魔石生みだ。よって、魔石はいくらでも作り出せる。だからこそ、邪神の影響を防ぐ、という事を最優先にした魔道具が作れたのだが。
で。地下通路を1人で移動している間に仮説を立てて、地下通路を出てから作ってこの魔道具を身に着けて見たところ、あの散々思考を邪魔してきた「こうした方が良い気がする」という予感がぱたりとしなくなった。無事、仮説は証明された、と言っていいだろう。
「ま、喧嘩を売ってきた相手に教えてあげる必要はないわね。精々目を晦ませていればいいのよ」
なおイアリアは、王都エルリスタに到着した時は、この仮説をちゃんと冒険者ギルドに共有するつもりだった。冒険者ギルドの関係者が、邪神にいつの間にか影響を受けて自覚のない裏切り者になっている、という事態は、絶対に避けるべきだからだ。
……まぁそのギルドマスターが、事ここに至ってイアリアを舐めてかかった事。それすなわち、邪神と邪教の事を、少なくともイアリアもしくは教会よりは軽く見ている事、となるので、イアリアは容赦なく冒険者ギルドという組織を「戦力外」判定した訳だが。
冒険者という武力を持つ人間をまとめる組織を頼れなくなったのは痛手ではあるのだが、無能な味方を抱えている余裕はない。上手く利用されて有能な敵になってしまった方がまだマシである。魔法学園において、軍に所属する前提の教育を受けたイアリアの考え方は、そういうものだった。
「さて、王都の教会は……尖塔が見えるけど、あれかしら」
では現在イアリアはどこへ向かっているかと言うと、アイリシア法国を本拠地とする、創世の女神に祈りを捧げる名の無い宗教の教会だ。
何しろイアリアは現在、その協会のトップである教皇から直接依頼を受けているに等しい。それに教皇から、教会は光を放つ魔道具をしっかりと配っているし、連絡が取れる遺物もあるから、遠慮なく頼っていいし協力するように通達している、と聞いている。
……その依頼が冒険者ギルドを通した物ではなく、なおかつイアリアの正体を教皇がその場で知った為に「
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