第21話 宝石は指示を聞く

 魔道具を起動するには、動力となる魔石が必要だ。何時滅んだか定かではない遺跡から見つかる魔道具、遺物の中には魔石を必要としないものもあるが、それは恐らく世界に満ちる魔石によって動くものとされている。

 だが現在の元冒険者組ことノーンズ達には、文字通り底なしの魔力を持つ魔石生みのイアリアがいる。つまり魔石については好きなだけ使える状況であり、それが分かっているから連絡用の魔道具も渡されたのだろう。

 貴重品だが魔石が無ければ使えない。そんな微妙に扱い辛い道具も保管されていた大聖堂の倉庫というのはどうなっているのだろうとイアリアは思ったりしたが、それはともかく。


『邪神の神官が、魔力暴走の後魔物に……? いえ、それならば確かにあなた達の手には余るでしょう。よく連絡してくれました。こちらで何とかしますので、あなた達は撤退して下さい』

「戦わなくていいんでしょうか?」

『話を聞く限りですが……金属の見た目をしていても、形が樹木あるいは茂みであれば、植物の特徴を持つ魔物です。また今回の邪神は奇跡として狂魔草を創り出しています。よって、その力による方向性が植物に近くなる可能性は高いでしょう。そして植物の特徴を持つ魔物は、発生した場所を大きく動く事はほぼありません。撤退しても問題ありません』


 連絡用の魔道具を起動すると、かなりすぐに応答があった。ノーンズとイアリアが状況を説明している間に教皇が起きてきたらしく、報告は非常にスムーズに済んだと言えるだろう。

 そして、一応ノーンズが聞き返していたものの、ちゃんと理由があっての撤退なら特に食い下がる事もない。そもそも、イアリアのマジックバッグに入っている邪教の関係者はともかく、ノーンズの髪で繭を作って封じ込めている邪神の依り代は早めに何とかした方が良い。


「重さはともかく、暴れたりしないの?」

「とりあえず今のところは大人しいよ」

「捕まえるまでが大変だったけどな……」

「ノーンズの髪が解毒剤代わりになるって聞いてなかったら危なかった」

「この短時間で大分お前の髪短くなったよな」

「それでもまだ身長の倍はあるんだよなぁ」

「そういやノーンズ、お前ずっと何か食ってたけどあれは何だ?」


 なので、教皇からの指示通り撤退に移ったイアリア達。とはいえ、今は未だ夜中だし、残っている狂魔草が無いかを可能な限り確認しながらなので、それなりに時間はかかるのだが。

 流石に平地だった場所に生えていた狂魔草までは回収できないし、それも一緒に報告したところ、後程別動隊として来る集団が回収するとの事だった。つまりイアリア達が無理に回収する必要はないとの事だ。

 と言う事で、一応金属の枯れ木のような推定魔物の様子を気にしながら夜が明けるのを待っていると、イエンスからそんな疑問が出た。そしてその疑問に、若干不自然に動きを止めるノーンズ。


「ずっと食べてた?」

「そういやポケットに何か入れてたな」

「隠密行動にしても喋らないなとは思ってた」

「その間中何か食べてたの?」

「いや、これはその……」

「食べてたことは否定しないのね」


 どうやら邪神の信者の拠点という危険な場所を探索している間、ノーンズはずっと何かを食べていたらしい。最初に疑問の声を出したのは、イアリアと同じく外で待機していたアクレーだ。

 6人がかりで視線を向けられれば、流石に圧を感じるらしいノーンズ。しぶしぶ、しっかり綺麗な布で包まれたそれを取り出した。


「いやだって、これなら効果あるのは分かってたし、絶対にまた僕の髪がこれでもかと使われるのは分かってたし……」

「なるほど」

「まぁ実際使ったが」

「仕方ないな」

「そういう事か」


 それは、ヒルハイアスに居る間イアリアが提案し取り入れられた、所謂髪に良い食材……の1つの乾物だった。

 それに対して、男たちは同意を示したし許す流れだったのは、


「……ほんと男ってハゲになるの怖がるわよね」

「なんでだろうねー」


 イアリアとシエラには理解できない、男性特有の不安というものを共有できたから、なのだろう。

 イアリアには分からない事だったが。

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