第20話 宝石は思いつく

 現状で可能な限り打ち合わせというか相談をし終わって、さて動こうかとなった所で、イアリアはもう少し考えた。

 何故なら、事ここに至るまでに知ったからだ。イエンスはともかく、ノーンズも割とそれなりにやらかす可能性が高い事を。そして元冒険者組はある意味一般人らしく、魔法と言うものについて疎い事を。

 そして知った以上は学習する。つまり「魔法を含めた手段/作戦を考えられるのはほぼ自分だけ」と。だからノーンズを除く5人と「魔法抜きでの」動き方を相談した後で、「魔法が使えるなら」どう動くのが一番かを考えた結果。


「……。ノーンズ」

「一応重ねて言っておくけど、囮にもなれないよ」

「あなた、教皇様から連絡用の魔道具預かってたわよね?」

「え、あぁ。人員の確保をしたら報告をしろって言われてたからね」

「それは大事だからって、あなたが管理してたわよね?」

「流石にね。一応聖人になったし」


 1つ、少なくともイアリアは戦わずに済む。というか。

 恐らくは、自分たちが戦う必要さえなくなる方法を思いついた。


「それで推定邪神の神官が魔物に変わったって連絡したら、師匠が文字通り飛んできて倒してくれる上に、少なくとも今回捕まえた相手全員と、なんならあの魔物も持って帰ってくれると思うの」


 イアリアのその提案というか思いつきに、流石にそんな事は、と思ったらしい元冒険者組。それに今は夜中だ。普通に考えて、連絡を入れるのは迷惑でしかない。夜に行動すると決めて事前に休んでいた自分達と違い、あちらは普通に昼行動して夜眠っている筈なのだから。

 それに冒険者をしていただけあって、恐らくは初めて見る相手に挑んでみたい、という部分も多少あったのだろう。が。


「ちなみに師匠は、エデュアジーニからザウスレトス魔法学園まで転移したことがあるわ」

「エデュアジーニ……ってどこだっけ」

「確か北東の方にある村だったような気がする」

「ザウスレトス魔法学園ってあれだよな。フリトゥトイ」

「王国の西だよね?」

「いやでも流石に距離も遠いし、そもそも本人が来ると決まった訳じゃ……」

「師匠なら来るわ。間違いなく。話さえ伝わればね」


 イアリアは、師匠こと「永久とわの魔女」ナディネなら絶対に来ると確信していたし。

 少なくとも大聖堂で話を聞いた時のべったりっぷりを見ている元冒険者組も、そこは否定できなかったようだ。


「……まぁでも大駒だから、そう簡単に動かせないんじゃないかな? 応援を送るにしても流石に人数は運べないだろうし……」

「ちなみにその時転移したのは、師匠本人と私含む弟子3人、後私の私物を回収する為に宿の部屋を丸ごと1つよ」

「待てイアリア部屋丸ごと1つってなんだ」

「言葉のままよ。寒さと雪対策で壁や扉が2重になってたから、たぶんあれは内側だけをまず転移で外に出してから部屋のあった場所に何もない状態の部屋そのものを複製したわね」

「なんか転移より数段すごい事をしてる感じの話が出てないかい?」


 ついでに言うなら、もし教皇マルテがナディネを説得して現在位置から動かさない判断を多としても、何の問題もない事を知っている。

 ちなみに何故捕まえた相手全員とあの元神官の魔物だけかというと、ノーンズには一切の魔法が効かないからだ。すなわち、転移して戻る場合、1人だけこの高い山の上に置いて行かれる事になる。

 ほとんど無限に物が入るんじゃないかと言う容量になっているイアリアのマジックバッグを貸していたところで、生還できる確率は大きく下がるだろう。何しろ狂魔草はまだ残っているし、そもそも野生の魔獣が結構な数生息している、人間の生活圏から遠い北の冬の山なのだから。


「…………そのまま帰れるって言わないだけ配慮してくれたのかな」

「流石に見殺しにはしないわよ」

「見殺し!? 何で!?」

「いや待て「永久とわの魔女」だぞ。転移するって事は」

「あー……ノーンズ、置いてけぼりか……」

「まぁそれは確かに……」

「ほんと便利な時と不便な時の落差が酷いよな、その体質」

「お陰で邪神の依り代を捕まえておけるんだけど、全くだね」


 まぁつまり、そういう事だ。

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