第19話 宝石は相談する
どうやらあの、横倒しになった金属の枯れ木のようなものは、割と遠くからでも見えたらしい。シエラとドゥラスに先導されてイアリアが合流した時には、残りの4人も全員あれを見ていたからだ。
というより、その前の閃光に気付いてそちらに視線を向けた結果、あの金属の枯れ木が見えたというべきか。
「まぁ、あんな光を出せるのはイアリアぐらいだろうし」
「俺を連れて逃げる時も光使ってたし、何か逃げる程の相手かなと」
「だから体力がまだ残ってるシエラとドゥラスに行ってもらったんだが……」
「で、あの趣味の悪いゴーレムみたいなの何?」
なお6人が合流した場所からは光が見えたが、そこから現場に行くまでには斜面の角度の問題で金属の枯れ木は見えなかった。だから、イアリアを迎えに来たシエラとドゥラスは到着した時に驚いたという訳だ。
こちらから見えるという事は、向こうからも見えると言う事。明らかに異常な存在を見て、まず隠れる事を選択したノーンズ達は正しいだろう。多少移動に時間はかかったが、そこまで致命的と言う訳でも無い。
どうやらあの金属の枯れ木のような何かは、光の影響か元々そうなのか、ほとんど見えていないようだ。様子を見ているシエラ曰く、今はその場で枝のような物を振り回し続けているだけらしい。
「しかし人間があぁなるかよ……」
「どう見ても金属っぽい訳だが」
「切り落としても再生しそうじゃないか?」
「ゴーレムなら再生しないと思うけど、分からないね」
「むしろどうやったら仕留められるんだ、あれ」
「死ぬまで殺すしかないでしょうね」
「わぁイアリア物騒だけど分かりやすい」
とはいえ、あれを放置する訳にもいかないだろう、という点で7人の意見は一致していた。元々見た目からして絶対に魔獣ではないというか、既存の生物ではない。つまり、人間に害を成す力の結実、創世の女神が悪しき祈りから生じた悪しき力を使う為に生み出した、魔物という存在と同類と見ていい。
イアリアが共有した、元は邪教の神官で、何かしらの手段で大量の魔力を手に入れた後の変化というのもその仮定を補強するものだった。ゴキン、という嫌な音は、理由は分からないが、首の骨が折れた音だからだ。そのまま文字通り、恐らくは悪しき力に分類される魔力に呑まれて、魔物と化した。そう考えるのが一番自然だろう。
ところで、と、イアリアは合流してからずっと気になっていたものに視線を向けた。
「こちらからの共有は以上だけど、ノーンズ」
「何かな?」
「あなたのその、長すぎる髪に絡まってるそれは何?」
それはノーンズの、足元まで伸ばしてから頭の上で一度止め、そこから再び足元に届くほどの、長い銀色の髪の毛。さらさらと絡むなんて心配すら無い程毛質の良い髪の中に、何かがぐるぐる巻きにされていたのだ。
しかもよく見れば、髪でぐるぐる巻きにした上で布を巻かれ、紐で止められ、ノーンズが背負う形になっている。だから旅の道中に比べれば、ノーンズの髪が短くなったようにも見えた。
髪で出来た繭のようなもの。少なくとも突入時点ではそんな事にはなっていなかったし、邪教の関係者は無力化した上で、合流してすぐにイアリアに変換されたマジックバッグに入っていると説明されている。となると、何か余程ダメなものなのか、という推測になる訳だが。
「あぁこれ、邪神の依り代」
「依り代!?」
「大丈夫。僕の髪で包んでおけば何も出来ないみたいだから。とはいえ、切った状態で縄みたいにしたら千切られてしまったから、僕が背負う事になっているんだけど」
「…………そう言えば、あなたの髪を使った魔道具も、邪神の影響を相殺すると消耗してたわね」
「そういう事」
ダメというか、それしか対処法が無いものだったようだ。物ではなく者だったのはイアリアの想定外だったが。
なおその流れで、ノーンズは邪神の依り代となった少女(推定7歳前後)を背負っている為戦闘への参加は出来ないという事も伝えられた。まぁあの金属の枯れ木が元気に動き回っているような推定魔物相手だと、魔法が一切効かないというノーンズの体質も意味は無かっただろうが。
となると、残りの6人で何とかしないといけない訳だが。
「金属を錆びさせる魔薬はあるけど、人間にとっても猛毒なのよね。魔薬を被った部分を振り回されたりしたら大変な事になるわ」
「それはそう」
「冷静に言う事か?」
「まぁ使わないって手もないし……」
「そもそもあれ金属なの?」
「見た目は金属だよなぁ」
まぁ、他に有効な手段が思いつく訳でも無く。
とりあえずはイアリアの魔薬を主体として、何かあったら適宜足止めや撤退をしながら、地道に削っていくことになった。
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