第22話 宝石達の報告結果

 イアリア達が撤退指示から2日かけて、あの金属の枯れ木がその場から動かない事を確認し、それも報告して山を下りて行った、2週間後。


「師匠! これが今回の荷物! そして必要となった物のリスト! 揃っているかどうか確認して欲しい!」

「はぁ~い。まぁ何か足りなくても往復回数を増やせばいいだけなんだけどね~」

「それが出来るのは師匠だけだよ」


 そこには、安定して転移魔法を使えるという事で探索支援に入った「永久とわの魔女」ナディネと、そのナディネに頼みごとが出来るという事で同行を依頼された弟子2人の姿があった。もちろん周囲では、教会所属の人達が探索を行っている。

 どうやら辺境などを巡る事が出来る、道なき道を行く事に慣れている人を集めてくれたらしく、今の所事故に類する話は出ていない。若干名、転移によって標高の高い山の上に突然来た事で体調を崩したが、それもナディネがあっさりと治してしまった。

 と言う訳で、「永久とわの魔女」はちゃんと必要な事を弟子を通してお願いすれば働いてくれる、という事を理解した実働部隊によって、周辺探索は順調に進んでいった。


「けど、イアリアが気にしていた「邪教の神官が持っていた何か」は見つからないね。壊すと消える魔道具の類、って可能性もあるけど」

「あぁ、あれか! 確かに気になるところだな。ただの人間に莫大な魔力を与えるとは、危険極まりない!」

「その副作用も笑えないしね……もっとも、恐らく同じものを持っていただろう男爵から、それらしいものを見つけられなかった僕らが何か言う資格はないかもしれないけど」

「うむ! 元々大量の魔道具を身に着けていたとはいえ、入手経路も未だに不明とはな……! この分だと間違いなく邪教が用意したものだろうが!」


 なお順調なのは通常の探索、もっと言うなら狂魔草の回収であって、邪教のあれこれに関してはかなり難航していたりする。何しろ、その拠点の大半が土砂に埋まっている状態だ。

 その中に平地だった時に仕掛けられていた「触るだけで危険」な罠も入っているのだから、崩れやすいのもあって慎重にならざるを得ない。標高の高い山の、それも冬で日が短い季節だ。使える時間も限られている。

 なおそこを魔法でやろうにも、狂魔草が邪魔になるようだ。後は魔法の行使者であるナディネが必要不要の判断をする事になる為、地道に手でやらないと万一証拠があっても拾い損ねかねない、と、ナディネの事を理解した現場で意見が一致したのもあるのだが。


「というか、そもそもあの大量の魔道具も邪教から流されたものかもね」

「何!?」

「うるさいよ、ハリス。だってそうだろう? あれだけの魔道具が全部動く状態だった。つまり魔石を大量に持っていたって事だ。マケナリヌス男爵にそんな資金的余裕はない。どころか、多額の借金が見つかったそうだよ」

「……言われてみればそうだな! そうか、邪教であれば魔石生みもいくらでも確保できるという事か! それこそあの大量の魔力を与える何かを使えば良い!」

「そういう事だね」


 なお頭を使う方の兄弟子であるジョシアは、うちの妹弟子からブレーキを取ったような発想をしないでほしい、という呟きを内心に留めた。

 そう。ただの人間に魔力を与えて利用する。それはイアリアが見つけた、狂魔草を魔石に埋めて無毒化した時の副産物と同じ効果だ。もちろん結果だけを見ればの話であって、まだ正体不明な魔力暴走を起こす方は、使用者が干からびるか魔物と化すという副作用があるから、恐らくは違うものなのだろうが。

 とはいえ、イアリアはその技術を公開した場合、それこそ人里離れた場所にある村がいくつも消えかねないと判断。その技術を秘匿する事を選択した。だから、思いきりが良すぎる時があるにはあるが、まだ自重と言う名のブレーキはかかっているのだ。


「まぁそれも、狂魔草の加工方法なんだから、狂魔草に何かがあるって事でもあるんだろうけど……」

「お弟子様、今宜しいですか?」

「うん、何かな?」

「大規模な魔法が使われた、との部屋への道が出来ました。ですので、内部の確認をお願いしたいのですが」

「あぁ、転移魔法ってやつだね。分かったよ」


 なんて考えている間に、大聖堂側へ転移し、そして向こうで荷物を受け取ってナディネが戻って来たらしい。荷物を運ぶためにハリスがそちらへ移動し、それと入れ替わるようにして、作業をしていたうちの1人が話しかけてきた。

 それはイアリアとノーンズの報告の内、捜索対象として共有されていたものだ。流石に今は魔力の残りである発光現象は確認されていないが、転移と言う魔法が、もし魔力だけで使えるのなら、それは画期的な発明である。

 と同時に、その技術を邪教が所有しているとするならかなり危険なものだった。だからかなり優先度の高い目標だったのだが、何分平地だった部分が崩れて谷に戻った直後だ。斜面は大変滑りやすく、飛ぶ魔法が得意ではないジョシアとハリスでは気楽に様子見をする訳にもいかなかった。


「師匠なら、それも簡単なんだろうけど」


 そう呟きつつ、崖に口を開けた、全体に黒ずんでいる部屋を抜けて、その先の部屋に入るジョシア。

 そこは、一見するとガランとした何も無い部屋だった。しかし。


「……金属、かな。ちょっと見たことがない色味をしているけど、これで魔法陣を作って土の床に埋め込んで……真ん中に魔石を置けばいいのか。金属は変質しやすいから魔法の媒体には向いていない、というのが定説だけど、何か変質しにくい配合でも見つけたか……」


 流石にその辺り、きちんと学園で教育を受けている以上は見逃さないジョシア。ざり、と、床の土を浅く削るようにして、その下にある金属の大きな板と、そこに刻み込まれた何かの記号を発見した。

 そのままざりざりと土をどけて金属の板を確認しつつ部屋の奥へ進んでいったジョシアだったが。


「……ん?」


 その板の一部が、少なくとも今は土の壁に見える場所の向こうへ、橋を伸ばすような形で続いている事に気付いて、顔を上げた。

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