第22話 宝石とこれからの話
正直に言えば。
イアリアはその時、魔石生みになっているとはいえ、魔力暴走を起こさなかった事を褒められるべきだと思った。
もちろん現在のイアリアは魔石生みなのだから、暴走したところで大量の魔石が出現するだけだ。だが今現在いるこの部屋は、言っては何だがそう大きくは無い。それこそ、魔石で埋めてしまうのは簡単だろう。
「――――……、そう」
それでも、イアリアは何とか感情と、それによって暴走する魔力を抑えきった。それは訓練の賜物だったし、イアリア自身の忍耐強さのお陰だったし、その答えを半ば予想していたからだ。
ふー……、と長く息を吐いたイアリアが、ギリギリとはいえ魔力暴走を自力で阻止したのが分かったのだろう。兄弟子2人がそれぞれ、魔法をよりうまく使う為の媒体に触れさせていた手を引っ込めていた。
「それじゃあ~、私からもここで話をしておくわね~」
で。そんなイアリアを等身大のぬいぐるみか何かのように抱え込んでいるのだから、魔力暴走を起こしかけた事など当然分かっているだろうに、全く変わらない様子でナディネが声を出した。
何故このタイミングで、と、今って事は関係あるって事!? と、流石のイアリアもちょっと混乱したが、まぁナディネが構う訳がない。何よりも弟子を溺愛する世界最高の魔法使いは、基本的に誰も止められないから自由なのだ。
「魔法使いが魔石生みに変わるっていう現象を調べてたんだけど~、契約相手にも契約した人にもこれと言った異常は無し。だからマルテちゃんに頼んで、その繋がりを聖獣までさかのぼってみたのよ~」
……相変わらず突然投げつけられる情報の量が多い上に、色んな意味で物騒というかどうしてそうなったというか、ちょっと待って、と言いたくなる内容だったが。
「邪神の一部になった部分に繋がりがある属霊と契約した。なおかつ、その邪神の一部と判定される部分が広がってる。これが、魔法使いが魔石を作り出す事しか出来なくなる現象の原因。これでたぶん確定よ~」
『……ナディネ。そういう事は、もうちょっとこう、大事な事そうに話して頂けませんか』
「大事な事だから今言ったわ?」
『そうではなく……いえ、あなたは元々そういう性格でしたし、結局最初から最後まで変わらなかったから矯正を諦めたんでした。重要な情報をありがとうございます』
「マルテちゃんの所にいる人達にも協力してもらったからね~」
いま矯正を諦めたって聞こえた。
と、イアリアはつい顔を引きつらせてしまった訳だが、ちらっと兄弟子達に視線を向けると、ハリスは額を抑えているし、ジョシアはすっと目を逸らしている。聞き間違いでは無かったし、それに対する反応もほぼ同じようだ。つまり、頭が痛いという事である。
とはいえ。
「ねぇ師匠」
「なぁにお弟子?」
「邪神の一部と判定される部分が広がってる、って、相当まずいんじゃないかしら。それこそ、狂魔草の大繁殖より」
「そうね~。大繁殖も多分無関係ではないけど、あんまりのんびりやってる余裕はないかしら~」
『…………ナディネから余裕はない等という言葉を聞く日が来るとは思いませんでした』
教皇マルテから、そこ? という発言があったりもしたが。
『ですが、それなら急ぎましょう。狂魔草の大繁殖が邪神の一部の拡大と無関係ではない。それは狂魔草による死者や混乱の増加によって邪教が力を増すと、邪神が力を増し、我らの神を侵食する、という事で合っていますか?』
「推測だけれどね~。流石に神様同士の事は分からないわ~」
『依り代の事はこちらで調べましょう。もし各地に依り代が存在する、或いは派遣されているなら、近くに邪教の神官もいる筈です。そして実際依り代がいた場合、依り代を介して狂魔草の最初の1株が発生させられているという可能性も高いでしょうから』
「……まぁ、そうね。いくら狂魔草がバカじゃないのって増え方で爆発的に増えると言ったって、一度は駆逐された筈だもの。最初の1株は必要よね」
ところで、ここに師匠であるナディネがいるから弟子であるイアリアが呼ばれた。まぁこれはいい。新たな「聖人」になったイエンスとノーンズにもこの、教会どころか世界を巻き込む重大事を知らせるべき。というのも分かる。
問題は、その両者を一度に集めて話をする必要があったかどうか、だ。イアリアは、それこそ「聖人」同士の顔合わせもかねて、教会側で説明会というか情報共有をすればいいのでは? と思った。
の、だが。
『それでは、大々的に見送るという訳にもいきませんし、どちらにせよ隠密行動ですからね。本当に最低限の略式ですが……、新たなる「聖人」イエンス及びノーンズ』
「はいっ!」
「はい」
『あなた方に、自らの守護騎士、ならびに「
「「はい」」
と、教皇マルテが、線と丸で仮面の上に描かれた顔をキリッとさせて、イエンスとノーンズに向き直り、最低限というか略していない部分の方が無いのでは? という指令を伝えた。
「頑張ってねイアリア」
「は?」
「こちらは任せろ!」
「は???」
のはいいとして。爽やかな外面でジョシアが言って、こちらはいつもの笑顔でハリスが言ったことで、その「指令」に自分が巻き込まれている事を知ったイアリア。
「……聞いてないのだけれど!?」
通りでいつにもまして師匠が引っ付いてくる筈だ、という部分まで察して、それでも精一杯の抗議の声を上げた。
……もちろん、聞き入れられる事は無かったのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます