第23話 宝石が運ばれていった後

「やれやれ、行ったか……。まぁ行かないって選択肢は無かったけど」


 「永久とわの魔女」の弟子の1人であるジョシアは、大神殿を出発していった馬車を見送った。あれには元冒険者である2人の「聖人」とその守護騎士。そして、妹弟子であるイアリアが乗っている。

 現在は、あの機密情報を主とした、というか、その大半が機密情報だった話し合いというか会議というか。その翌日早朝だ。あの話し合いが終わってからすぐに荷造りやルート確認が始まり、夜に出発と言う訳にもいかないので辛うじて仮眠をとったぐらいだろう。

 にしても、と、ジョシアは馬車が見えなくなったところで息を吐いた。


「誰もイアリアに伝えてなかったとか、そりゃ不機嫌になる筈だよ……」


 イアリアは、強制される事を嫌う。精神的なものを強制されるのは逆鱗に触れる行為であり、その場合相手が誰であろうとただでは済まない。だが、行動的なものを縛られるのも「我慢できる」だけで、十分嫌いではあるのだ。

 少なくともジョシアはそれを知っていたし、だからこそ事前連絡を取る事を、可能な限り徹底してもらった筈なのだが。流石に現在「聖人」になった1人の、悪戯好きというかサプライズ好きな一面が出たとは思わない。

 そしてイアリアの方も、その程度で反撃しないだろう。味方ではあるし、「聖人」として選ばれた理由。女神と同じ色彩の、銀の髪。それに付随した能力を知ったら、少なくとも敵対はしないと断言できる。


「……まぁ、ただでも済まないだろうけどね」


 とはいえ。ジョシアは、イアリアがそのまま何もせずに許すとは思っていない。絶妙に仕方ないと言えるラインで、これもまた絶妙にこちらが苦しくなる仕返しを行う事だろう。

 なお「冒険者アリア」が本当にただの訳アリ冒険者であった場合、「永久とわの魔女」の弟子として同行する予定だったのはジョシアだった。元平民の養子であり、村人として生活していた時期もあるとはいえ、流石に野営の経験は無い。

 元冒険者達はイアリアも含めて野営の経験は十分にあるだろうが、確実に足を引っ張るところだったし、居心地がいいとも聞いていないので、ほっとしていたりするジョシアである。


「お弟子~!」

「と、し、師匠?」


 が。

 そこまで推測出来ていたジョシアでも、想定していない事があった。

 それは。


「邪神の依り代探しは手分けする事になったから~、頑張りましょうね~」

「へ? 僕らはここで狂魔草の群生地の特定を続けるんじゃ?」

「依り代を探す方が難易度が低いし~、依り代かその候補を見つけてその周りを探せば狂魔草か邪教の関係者は出てくるわ~」

「あ、あー、うんそれは確かに、なのはいいとして、師匠はどうして僕に抱き着いてくるのかな……!?」

「お弟子(イアリア)がね~、お弟子(ハリス)ならともかくお弟子(ジョシア)ならまだ抱きしめられるんじゃない? って言ってたの~。確かに抱きしめられるわね~」


 イアリアがその辺りの話を「全員で共謀して黙っていた」と判断して、もれなく全員を巻き込むタイプの仕返しを用意していた事だ。具体的には、少なくとも話に混ざれる立場の人間の大半が、世界中を自分の足で駆け回る事になる提案をしていた。

 もちろん提案自体は非常に有用である。今回イアリア達が出発した場所は既に狂魔草が大発生しているか、その可能性が非常に高い事が確定していたから予定に変化は無かったが。

 そして最後の抱きしめに至っては、よくも教えてくれなかったわね、というイアリアのとても個人的な報復で間違いない。いや、違う、誤解だ、とジョシアは思ったものの、弟子を抱きしめる事で師匠たるナディネの調子が良くなるのは間違いないのだから、これも有用な提案ではあった。


「そっかぁ……ただ師匠、そうなるとハリスだけが抱きしめてもらえなくて寂しい思いをするかもしれないから、出来る範囲で抱きしめてあげてもいいんじゃないかな?」

「まぁ! それはそうね! 動かなくていい時はお弟子(ハリス)を抱きしめる事にするわ~」


 と、そこまで推測して、半ば引きずられながら移動しつつジョシアが出した提案が、被害者を増やすハリスも巻き込む事だったのだから……まぁ、この弟子達も大概お互い様である。

 ……イアリアの場合、ジョシアがこうなったら間違いなく自主的にハリスを巻き込む。よって被害が最大化する。というところまで計算づくで、提案という名の工作をしていた可能性もあるが。

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宝石は過研磨を断固拒否する 竜野マナ @rhk57

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